2018年10月30日(火)
メルケル氏、党首退任へ
独与党がまた大敗
ヘッセン州議選 10ポイント超す得票減
【ベルリン=伊藤寿庸】ドイツのメルケル首相は29日、与党のキリスト教民主同盟(CDU)の党首から退く意向を党幹部に伝えました。同時に、首相は留任すると表明しました。28日に西部ヘッセン州で行われた州議会選挙(137議席)で、CDUと社会民主党(SPD)がどちらも前回比で10ポイント以上得票を減らす大敗を喫したことをうけたものです。
ヘッセン州での敗北は2週間前のバイエルン州の選挙に続く敗北で、メルケル政権への大きな打撃となりました。現地時間29日早朝の開票結果によると、CDUが27%(2013年の前回選挙の得票は38・3%)で半世紀ぶりの低さでした。SPDは19・8%(同30・7%)で、ほぼ3分の1の得票を失う1946年以来の歴史的惨敗となりました。
ヘッセン州でCDUと連立政権を組んでいる90年連合・緑の党は、19・8%とバイエルン州選挙に続いて大きく躍進し、SPDと得票で肩を並べました。前回5%の議席獲得条件に達しなかった極右の「ドイツのための選択肢」(AfD)は13・1%と躍進し、全国16の州・特別市議会すべてで議席を獲得しました。自由民主党も得票を伸ばしました。左翼党は6・3%(同5・2%)で過去最高となり、議席も6議席から9議席に伸ばしました。
選挙結果がメルケル首相への大きな打撃となったとの見方に対し、CDUのクランプカレンバウアー事務局長は、同州での「赤赤緑(社民党、緑の党、左翼党の連立)を阻止した」などと“成果”を強調。中央の大連立政権をめぐる内紛に終止符を打ち、「成果を示す」ことで危機を乗り切りたいとしています。
また社民党のナーレス党首は、「現在の政府の状態は受け入れられない」とする一方、連立政権の政策合意実現のための明確な方針が必要だなどと述べ、当面は連立政権に残る意向を示しました。
解説
変わる政界地図
国民から「不信任」
昨年9月の総選挙で、国民からの強い批判にさらされて議席を減らしたキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、社会民主党(SPD)が、今年3月に「大連立」政権樹立にこぎつけてから半年。バイエルンとヘッセンの州議会選挙で、両党がいずれも歴史的大敗を喫したことは、メルケル政権が国民の直面する課題に全く答えられていない現状への国民の「不信任」が示されたと言えます。
ヘッセン州にあるドイツ第4の都市で金融の中心地フランクフルトでは、英国の欧州連合(EU)離脱に伴うロンドンからの金融機関の移転先ともなって、地価が高騰。住宅難が深刻化しています。
選挙中のテレビ討論で、SPDの代表が「州政府が公共住宅を建てていない」と非難したのに対し、CDU出身の州首相は「連邦政府の連立協定に書いてあることが実行されていないのはSPDにも責任がある」などと泥仕合を展開しました。
またディーゼル車の排ガスで大気汚染が深刻な都市が多いヘッセン州では、大気汚染対策への期待が強い一方で、フランクフルトの一部で導入されているディーゼル車の走行禁止には不満も強い。しかし今月初めの連邦政府の「対策」は、自動車企業にモノが言えず、所有者に負担を求めながら、大気汚染の改善には実効性がないものでした。
移民問題は、バイエルン州のCSU出身のゼーホーファー内相が、政権内で移民の受け入れの強硬な制限措置の導入を主張して、メルケル首相と対立。政権崩壊の危機と言われる中でメルケル首相の指導力の低下が浮き彫りになりました。この間、社民党の存在感は一層低下しました。
ドイツで「国民政党」(フォルクスパルタイ)と呼ばれてきた二大政党が、その支配的な地位を失い、政界の地図が大きく塗り変わろうとしています。すでに州レベルでは、AfDを除く政党のさまざまな連立政権が成立しており、今後、メルケル首相の進退や連立政権の組み替えなどの議論が活発化するものとみられます。
(ベルリン=伊藤寿庸)