2018年9月14日(金)
9条2項死文化の策略
安倍首相の自衛隊明記論
9条改憲が大論点となっている自民党総裁選。安倍晋三首相が9条1、2項を残して自衛隊を明記するとしているのに対し、石破茂元幹事長は9条2項の戦力不保持規定を削除するというのが「相違点」ですが、9条改憲そのものでは安倍首相と石破氏に違いはありません。しかも、安倍首相の主張には危険な策略がこめられています。
現状維持でない
「9条2項を残す」とする安倍案は石破案より穏健で、自衛隊の現状を維持するかのように見えます。しかし、9条2項を“抹殺”するには、2項を削除する直接的な方法と、2項を残しつつ軍事組織(自衛隊)を憲法に明記する策略的な方法との二つがあります。安倍首相の案は後者の策略であって、決して現状維持的ではありません。
安倍首相の政策ブレーンで改憲右翼団体・日本会議の伊藤哲夫政策委員が代表を務める日本政策研究センターの機関誌『明日への選択』(2016年11月号)には、「速やかに九条二項を削除するか、あるいは自衛隊を明記した三項を加えて二項を空文化させるべきである」との主張が掲載されるなど、自衛隊明記による9条2項の空文化=死文化という本音があからさまに語られています。
そのからくりは―。
自衛隊は憲法に根拠がなく9条2項に違反すると批判を受けてきました。これに対し政府は、自衛隊は国土への攻撃を排除するためだけに武力行使し、海外での武力行使や日本が攻撃されていないのに他国への攻撃に反撃する集団的自衛権の行使はできないとしてきました。“世界標準の軍隊”とは異なる「自衛のための必要最小限度の実力」だとして「合憲性」を説明してきたのです。
武力の制約消滅
しかし、自衛隊が憲法に明記され「憲法上の存在」になれば「憲法違反」の疑いは消え、それとともに「合憲性」を説明するための「海外での武力行使の禁止」などの制約も消滅します。
仮に9条2項が残っていても、新たに憲法に自衛隊を書き込んだ国民の意思が「尊重」されるとして、憲法に明記された自衛隊に対する規制力は働きません(後法優先)。9条2項が残り、名称が「自衛隊」のままでも、これまでの自衛隊とは権限や活動範囲が大きく変化し、海外での武力行使に全面的に道を開くことになります。
石破氏の2項削除論との対比で自らの自衛隊明記論が現状維持的であるかのように見せるのは、安倍首相の危険な策略です。こうした策略を弄(ろう)するのは、武力によらない平和=戦力不保持という日本国憲法の核心理念を支持する国民の意思を恐れているからにほかなりません。
(中祖寅一)