2018年8月2日(木)
主張
陸上イージス計画
導入根拠の破綻は一層明らか
防衛省は、弾道ミサイルの陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」2基の取得費が約2679億円に上ることを公表しました。当初説明していた取得費の約1・7倍にもなります。迎撃ミサイルの取得費や関連施設の整備費などを加えると、総額はさらに膨らみ、6000億円以上になるとの指摘もあります。契約先の米政府は1基目の配備に約6年が必要とし、防衛省が想定する2023年度の運用開始にも間に合いません。朝鮮半島で始まった平和のプロセスに逆行するだけでなく、政府の言う導入根拠が破綻している実態を浮き彫りにしています。
総額6000億円超にも
政府は昨年12月、北朝鮮の核・ミサイル開発を「より重大かつ差し迫った新たな段階の脅威」として「イージス・アショア」2基の導入を閣議決定し、その後、陸上自衛隊の新屋演習場(秋田市)とむつみ演習場(山口県萩市、阿武町)を配備候補地にしました。
防衛省は7月30日、「イージス・アショア」に米ロッキード・マーチン社製の最新鋭レーダー(LMSSR)を採用すると発表し、同システムの取得費が1基当たり約1340億円になることを明らかにしました。さらに、隊員の養成費や導入後30年間の維持・運用費を2基の取得費に加えると、約4664億円になるとしました。
これら費用に含まれない施設整備費や燃料費などのほか、1発数十億円とされる新型迎撃ミサイル(SM3ブロックIIA)の調達費を含めれば、総額は6000億円を超えるとも報じられています。
しかも、「イージス・アショア」は、米政府の「有償軍事援助」(FMS)などにより取得します。FMSでは価格が米政府の見積もり任せという問題があり、今後さらに高騰する危険もあります。納入時期も目標にすぎないとされ、6年で配備される保証もありません。政府が主張する「可及的速やかな」配備には程遠いのが実態です。
防衛省は、最新鋭レーダーや新型迎撃ミサイルの導入について、多数の弾道ミサイルを同時発射する飽和攻撃や、通常よりも高高度に打ち上げるロフテッド軌道の攻撃に対処する能力を強化するとしています。
しかし、自民党内からも「イージス・アショアを導入したとしても、北朝鮮からの飽和攻撃を受けた場合、その全てに対応することは大変難しいのではないか」(江渡聡徳元防衛相、2月14日、衆院予算委員会)という声が後を絶たないように、100%の迎撃は不可能だというのが専門家を含めた常識です。いくら巨費を投じても、「ミサイル防衛」に「限界」があることは明らかです。
平和と非核化の実現こそ
朝鮮半島情勢は、4月の南北首脳会談と6月の米朝首脳会談によって核戦争の脅威から抜け出す扉が開かれました。防衛省も北朝鮮のミサイル発射の可能性が低下したことを受け、住民参加の避難訓練を当面中止し、北海道や中国・四国地方に展開していた迎撃ミサイル(PAC3)部隊を撤収しました。こうした動きに照らしても「イージス・アショア」に固執することは完全に矛盾しています。
今、何よりも求められているのは、朝鮮半島の平和体制構築と非核化の実現に向けて外交努力を尽くすことです。