2018年7月29日(日)
主張
陸上イージス導入
配備も巨費投入も道理はない
安倍晋三政権が「弾道ミサイル防衛」能力を強化するとして昨年末に閣議決定した陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」2基の導入をめぐり、配備候補地の関係自治体や住民らから反発、批判の声が上がっています。防衛省は当初、取得費は総額で約2000億円と説明してきましたが、関連施設や搭載ミサイルを含め4000億~6000億円以上にもなると報じられています。今年に入り、朝鮮半島の平和体制構築と非核化に向けた動きが劇的に展開している下でなお、「イージス・アショア」の導入を狙う安倍政権の姿勢はあまりにも異常です。
自治体や住民からも疑問
安倍政権は昨年末の閣議決定で「北朝鮮の核・ミサイル開発は、我が国の安全に対する、より重大かつ差し迫った新たな段階の脅威」となっていることを理由にして、2基の「イージス・アショア」を導入することにしました。防衛省は秋田県の陸上自衛隊新屋(あらや)演習場と山口県の同むつみ演習場を配備候補地とし、関係自治体や住民への説明を行っています。
しかし、歴史上初の米朝首脳会談の開催など、朝鮮半島情勢は激変しています。関係自治体からも「北朝鮮が強硬姿勢から対話姿勢に転じ脅威が薄らいできている現在の状況においても、イージス・アショアを早急に整備する必要があるのか」(防衛相に対する秋田県知事の質問)という疑問が上がっているのは当然です。
防衛省は住民の反対、疑問の声や自治体の要請を受け、「地元へのさらなる丁寧な説明」(小野寺五典防衛相)をするとして地質・測量調査の入札を延期せざるを得ませんでした(25日)。しかし「北朝鮮の脅威は何ら変わっていない」(同、6月22日)などといって地元の「理解」を得ようとしても到底通用するものではありません。
防衛省は、「イージス・アショア」導入の口実として、北朝鮮の弾道ミサイルによる飽和攻撃や奇襲攻撃、ロフテッド軌道の攻撃に対処するため「可及的速やかに抜本的な(ミサイル防衛)能力の向上を図る必要」(同省の説明資料)があるとしています。
飽和攻撃とは多数の弾道ミサイルを短時間に一斉または連続して発射することです。奇襲攻撃は事前の発見が難しい移動式発射台や潜水艦からの発射を言います。ロフテッド軌道の攻撃とは弾道ミサイルを通常の高度よりも高く打ち上げ、落下速度を高速にして迎撃を困難にするというものです。
しかし、「ミサイル防衛の層をいくら厚くしても、飽和攻撃とかロフテッド(軌道の攻撃)に対しては限界があるというのも周知の事実」(自衛隊出身で元防衛政務官の佐藤正久議員、17年5月15日、参院決算委員会)とされます。しかも、これらの攻撃への対処能力が向上するとの理由で「イージス・アショア」に搭載予定の新型迎撃ミサイル(SM3ブロックIIA)は、これまで3回の発射試験のうち2回も失敗しています。
米政権の購入圧力が背景
「イージス・アショア」は米国製です。最大で6000億円以上にも上るとされる同システム導入の背景にトランプ米政権による兵器購入圧力があることは明らかです。安倍政権に求められるのは朝鮮半島で進展しつつある平和のプロセスを促進する外交努力です。