2018年6月16日(土)
カジノ実施法案 衆院審議で浮かびあがる
消えぬ違法性
ゆるむ「規制」策
自公維が強行可決
刑法が禁じる賭博場・カジノを解禁するカジノ実施法案は15日、衆院内閣委員会で、自民、公明、維新などによって強行可決されました。質疑時間わずか18時間、制度の詳細は300項目以上が今後決められる政省令やカジノ管理委員会規則に先送りです。与党が国民の反対世論から逃げるように切り詰めた審議のなかからも、「日本のカジノ」の“異質な危険性”が浮かび上がっています。(竹腰将弘)
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ごまかしの「法的整合性」
「現行法上、カジノ行為は刑法等で禁止されている」―石井啓一IR(統合型リゾート)担当相は5月30日、日本共産党の塩川鉄也議員の追及に、うめくようにこう答えました。
刑法が賭博を禁じているのは、その社会的な害悪があまりにも大きいからです。なかでもカジノは、人間の射幸心(思いがけない幸運を願う気持ち)を最も強く刺激し、深くのめり込ませる最悪の賭博場です。その違法性を阻却(そきゃく)(取り外すこと)がどうしてできるのか、政府は説明できません。
安倍晋三首相は、同法案は「カジノ単体」を解禁するものではなく「国際会議場や家族で楽しめるエンターテインメント施設と収益面での原動力となるカジノ施設を一体的に運営する」と答弁しました。
大規模な観光施設をつくるだけなら新たな立法など必要ありません。実際には、IRの収益の7~8割を稼ぎ出すカジノを解禁するためのカジノ実施法案だというのが事の本質です。
安倍首相は「(同法案は)刑法が賭博を犯罪と規定している趣旨を没却するものでなく法秩序全体の整合性は確保されている」と強弁しました。
同法案は、16年12月に成立したカジノ解禁推進法で、カジノ法制の整備を「政府の責務」としたことを受けて提出したものだという建前が、ごまかしに悪用されています。
▽カジノ解禁推進法の付帯決議は実施法案作成にあたって刑法との整合性を保つことを求めている→▽政府はそれを踏まえて十分な検討をした→▽だからカジノ実施法案は刑法との整合性がとれている―という理屈にもならない循環論法が使われているのです。
しかし、カジノ解禁推進法は自民、維新、公明が衆参合わせてわずか20時間の審議で強行可決したものです。違法な民間賭博をなぜ「正当行為」として解禁できるのかという大問題はまったく解決していません。
法務省が公営賭博との対比でしめした違法性阻却の「8要件」(目的の公共性など)へ立ち戻り、一から議論をやり直すべきです。
「世界最高水準」 まやかし
安倍首相は「世界最高水準の規制でクリーンなカジノをつくる」といいました。
▽週3回、月10回のカジノ入り浸りを容認する入場回数「制限」▽わずか6000円の入場料など、「世界最高水準」はペテンの言葉でしかないことは広く知れ渡りました。
塩川氏は、政府のカジノ推進本部が当初、「ギャンブル依存症対策」の観点から、カジノの面積の上限を1万5000平方メートルまでと絶対値で制限していたのに、2月から始まった与党内の検討で突如消されたことを追及しました。
日本進出を目指す海外のカジノ企業が特に問題としていた項目です。日本のカジノで大もうけするためには、できるだけ多くの賭博機、賭博テーブルを並べなければならない、「世界最大のカジノ」をつくるじゃまをするなという海外からの圧力で、カジノ「規制」などいくらでも緩くなるという証左です。
カジノ事業者が客に賭博資金を貸し付ける「特定資金貸付業務」も大問題です。
塩川氏は、カジノ事業者が、手持ちの金を使い果たした客に借金をさせて賭博を続けさせることで「ギャンブル依存症、多重債務者が増える」と追及しました。
石井担当相は、日本人客への貸し付けは、あらかじめ預託金を納めた客に「限定」されるもので、「簡単に預託できる金額にはせず富裕層に限られる」と答えました。
その預託金の額はいくらなのか。それは法成立後にカジノ管理委員会規則で定めるとされ、一切明らかにされていないのです。
民法は、賭博の貸金は「公序良俗」に反し無効としています。その基本的な法規範を破壊し、日本で初めて、賭博のための貸金を公認するという重大問題が起きています。
主役は米国のカジノ企業
安倍政権は、こんなに問題が山積するカジノ法案を、なぜこれほど性急にすすめるのか―。塩川議員はその背景事情を、安倍首相に正面から突きつけました。
安倍首相が初めてトランプ米大統領と首脳会談を行った17年2月10日。トランプ大統領はみずからの最大の支援者が会長を務めるラスベガス・サンズなど米国の巨大カジノ企業の名前を列挙し「ほほ笑んだ」と報じられています。
事実関係をただした塩川氏に、安倍首相は「そんな事実は全く一切ない」と色をなして否定しました。
しかし、同日に行われた全米商工会議所などが主催した朝食会に、サンズなど米三大カジノ企業トップが出席していたことは否定できず、首相はその場でカジノ解禁推進法が成立したことを「紹介」し、カジノ経営者からは日本のカジノの「課題解決に貢献したい」という発言があったと認めざるをえませんでした。
日本のカジノ解禁は、徹頭徹尾、利権をねらう米国など海外カジノ資本の要求からすすんできたものです。
日本国内に、カジノ運営のノウハウ(能力)を持った企業はありません。必ず海外のカジノ資本が乗り込んできます。そして、海外のカジノ企業は、カジノ誘致自治体に対し、日本のカジノの客の7~8割は日本人になるという認識を公然とのべています。
「国際観光」などという政府の看板ははがれおち、カジノは日本人を標的にしていることが鮮明になっています。
塩川氏は「カジノ企業の要求ではなく国民の声こそ聞け、カジノ実施法案は撤回せよ」と強く求めました。
カジノ実施法案積み残された問題点の数々
違法性の阻却
法務省が示した8要件(目的の公益性、運営主体の性格など)に照らして違法性阻却はできない
国民の反対の声
「カジノばかりに焦点が当たっている」「全国キャラバンを行う」(安倍首相)などとすりかえ
政省令に丸投げ
法成立後の政省令やカジノ管理委員会規則で定める事項が331項目。制度の中身が見えない
カジノ事業者の貸し付け
客を依存症や多重債務に導く
カジノ面積の規制
政府が当初予定していたカジノ面積の絶対値での規制が与党の調整で消える。背景に海外カジノ企業の要求
カジノ管理委員会
事務局にカジノ事業者が入ること否定せず。独立性保てず、カジノ「推進機関」に
客の構成
海外カジノ企業は日本人客が7~8割と想定。「国際観光振興」と矛盾
「経済効果」
「日本の成長戦略の目玉」(安倍首相)というが、経済効果は「定量的な試算困難」(政府のカジノ推進本部)。マイナスの「効果」は考慮せず
依存症対策
「多段階、重層的な対策」いうが、実効性欠く。カジノを解禁すれば確実に新たな依存症を生む