2018年6月15日(金)
主張
G7「機能不全」
混乱広げたトランプ通商外交
険しい表情で詰め寄るドイツのメルケル首相らと、むっとした表情のトランプ米大統領、腕組みする安倍晋三首相―1枚の写真が、歴史的な米朝首脳会談を前にカナダで開かれた主要国首脳会議(G7)での通商問題での対立を証明しています。会議では「自由で公正な貿易」などとうたった首脳宣言で合意したものの、終了を待たず退席したトランプ氏がツイッターで承認しないように指示、宣言は事実上、宙に浮いています。もともと世界経済での比重が低下しているG7ですが、自国の利益を最優先するトランプ政権によって混乱が加速しています。
比重下がった「サミット」
アメリカや欧州諸国、日本などが参加する首脳会議は、「サミット」(頂上会議)とも呼ばれ、世界経済で大きな比重を持つ主要国が集まり、1975年の第1回が経済危機への対応を協議したように、毎年1回、経済問題や政治問題を話し合う場となってきました。参加国は当初の6カ国からカナダや欧州連合(EU)が加わり、一時期はロシアも参加したこともあります。しかし参加国の世界経済での比重が下がり、中進国や発展途上国が台頭するとともに、2008年の「リーマン・ショック」が象徴したように、世界政治での主役の座を国連や20カ国・地域(G20)の会議などに譲ってきました。
今回のG7が「自国中心主義」に固執するトランプ大統領の宣言拒否によって、事実上、機能停止に追い込まれたのは、世界がいまや一握りの「主要国」だけでは動かせないことを象徴しています。
昨年1月就任したトランプ氏は、就任直後からアメリカ自身が主導した環太平洋連携協定(TPP)や北米自由貿易協定(NAFTA)など多角的な貿易協定からの脱退や見直しを持ち出し、アメリカの利益を最優先させる2国間交渉や協定を優先してきました。通商面だけでなく、地球の温暖化防止のために結ばれた「パリ協定」やイランとの核合意などからも一方的に脱退しています。
トランプ政権は通商面で、鉄鋼やアルミ製品の輸入関税を引き上げ、自動車などの関税も大幅に引き上げようとするなど、各国との対立を激化させています。トランプ政権のこれらの措置はアメリカ国内の産業や労働者を守ることが口実ですが、輸出国だけでなくアメリカの消費者などにも重大な犠牲を押し付けることになり、国内でも批判が強まっています。
トランプ政権があくまでも輸入制限や国内への投資拡大に固執するのは、秋の中間選挙を控え、白人労働者の支持獲得を狙い、通商問題を各国との「ディール」(取引)に使うためでもあります。
米追随・日本に圧力強まる
サミットに際し、鉄鋼などの輸入制限措置をめぐって欧州各国などと対立が深まったため、一時は首脳宣言が出されないとみられました。しかし、トランプ氏の意を受けた安倍首相が折衷的な案を提示し、いったん合意。にもかかわらずトランプ氏はそれさえほごにしました。機能が低下したG7をトランプ氏が崩壊させたのです。
トランプ政権の行動が世界経済を混乱させるとともに、同政権に追随する限り、日本がいっそう負担を背負い込むことが懸念されます。アメリカ言いなりでなく、主権を貫く外交が不可欠です。