2018年6月10日(日)
迫る米朝首脳会談
朝鮮半島めぐり“平和の激動”
成功へ世界から期待
北朝鮮の核・ミサイル開発をめぐり、一時は偶発的な戦争の危険まで懸念されるほど緊張が高まっていた米朝関係。それが12日には史上初の米朝首脳会談が開かれるまでになりました。朝鮮半島の“平和の激動”は、どのような経過で生まれたのでしょうか。
「戦略的忍耐」見直し
“北朝鮮が非核化の意思を示さない限り、外交交渉に応じない”というオバマ前米政権の「戦略的忍耐」政策のもとで、北朝鮮の核・ミサイル開発は急速にすすみました。これに対し、トランプ政権は昨年1月の発足直後から「戦略的忍耐」政策の見直しに踏み出しました。
この見直しでは、「すべての選択肢をテーブルの上に乗せている」(トランプ米大統領、昨年4月の日米首脳会談)と、軍事的選択肢をちらつかせる一方で、外交交渉による解決にも道を開くものとして注目されました。
北朝鮮は、昨年3月から5月にかけて、8回も短距離・中距離弾道ミサイルの発射を強行。7月からはICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を実施し、9月には6回目の核実験も強行するなど、暴挙を繰り返しました。
これに対し、トランプ米政権の側も、北朝鮮に対し空母や戦略爆撃機の派遣など軍事的威嚇を強化。大統領自身が「グアムに何かしたら、誰も見たことがないようなことが北朝鮮で起こる」(8月)などとどう喝を繰り返し、軍事的緊張が頂点に達しました。
外交的解決求める声
こうしたなか、米国内ではペリー元国防長官、シュルツ元国務長官、リチャードソン元国連大使ら6氏が6月28日付で、おびただしい犠牲がでる戦争ではなく、対話こそが「北朝鮮の核開発や核兵器の使用を阻止する唯一の現実的な選択肢だ」として、トランプ政権に北朝鮮との議論を始めるよう求める書簡を発表。ドイツのメルケル首相や中国の習近平国家主席なども対話による解決を求める姿勢を鮮明にしました。
米国務・国防両長官も8月、米紙に共同寄稿で、これ以上の核実験やミサイル発射などの挑発行為を停止することを条件に、「米国は北朝鮮と交渉する意思がある」と表明しました。
トランプ大統領自身も、軍事的どう喝の一方で「オバマ(前大統領)は話したがらなかったが、私は(北朝鮮の指導部と)話す。誰かがやらなければならない」(8月)とも述べ、対話解決の道を閉ざしはしませんでした。
国連安保理は8月と9月に、北朝鮮への制裁強化を決議し、緊張緩和と外交的解決を呼びかけました。
韓国から四つの提案
対話による解決へ重要なイニシアチブを発揮したのは、昨年5月の就任直後から「条件が整えば平壌に行く」と表明していた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領でした。軍事的緊張が極度に高まった昨年7月、ドイツで開かれた会合で「次第に高まる軍事的緊張の悪循環が限界点に達した今、対話の必要性がかつてなく切実になった」と強調。「韓米両国は、制裁は外交的手段であり、平和的な方式で朝鮮半島非核化を達成するという大きな方向に合意」「北朝鮮に敵視政策をもっていない事実もはっきり表明した」と述べ、“北朝鮮の体制の安全を保証する朝鮮半島非核化”に言及していました。非核化と平和体制構築の一体的提起でした。
そのうえで、文氏は朝鮮半島の平和構築へ、(1)離散家族の再会(2)平昌五輪への北朝鮮の参加(3)軍事境界線での敵対行為の中止(4)核問題を含めた南北対話の再開―の四つの提案を行いました。これらは、その後実現していきます。
南北首脳会談が成功
今年に入ってからの朝鮮半島の動きはまさに激動でした。
新年、弾道ミサイルで米国を威嚇する一方、南北関係の改善に積極的姿勢を示した北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)演説を受けて、南北高官級会談(1月9日)が実現。平昌五輪への北朝鮮の参加が決定します。
その後、平昌五輪での文大統領と北朝鮮代表団との面会に続き、3月6日には、韓国大統領特使が北朝鮮を訪問し、南北首脳会談を4月末に開催することで合意。北朝鮮側は朝鮮半島の非核化の意思を明らかにし、体制の安全が保障されれば核保有の理由はないとの考えを示しました。韓国特使は直後にワシントンに向かい、トランプ米大統領に金正恩氏のメッセージを伝達。トランプ氏は米朝首脳会談の提案を受諾したのでした。
4月には、歴史的な南北首脳会談が成功し、「朝鮮半島の完全な非核化」と「年内の朝鮮戦争の終結」を宣言。ポンぺオ米国務長官の2度の訪朝などをへて、米朝首脳会談への流れがつくられていきました。非核化と平和体制構築に向けたプロセスの開始を世界が強く期待しています。
米朝首脳会談に至る交渉過程
2017年1月
トランプ米政権発足
5月
韓国・文在寅(ムン・ジェイン)政権発足
7月
文大統領が朝鮮半島の平和構築で四つの提案
9月
北朝鮮が6回目の核実験。文氏が国連総会で演説し、朝鮮半島の非核化と平和解決を訴え
18年1月1日
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が新年の辞で平昌冬季五輪参加を表明
2月10日
平昌五輪を機に北朝鮮高官が訪韓。文氏と会談
3月6日
韓国特使が訪朝し、南北首脳会談で合意
8日
韓国特使が訪米、トランプ氏が金正恩氏の米朝首脳会談提案に応じると表明
28日
金正恩氏が訪中し、7年ぶりの中朝首脳会談実施
4月18日
トランプ氏、ポンペオ米中央情報局(CIA)長官が訪朝し、金正恩氏と会談したことを明らかに
20日
金正恩氏が核実験とICBM試射の中止、核実験場の廃棄を表明。対話姿勢も示す
27日
韓国側では初となる南北首脳会談、「板門店宣言」に署名
29日
国務長官に就任のポンペオ氏が先の訪朝で、非核化を議論したと表明
5月10日
トランプ氏、米朝首脳会談を6月12日、シンガポールで行うと発表
16日
北朝鮮が談話を発表。米韓空軍の合同訓練を非難し、首脳会談の取りやめ示唆。ボルトン米大統領補佐官を名指し批判
22日
トランプ氏、「会談する可能性は十分ある」と表明
24日
北朝鮮、核実験施設を廃棄。トランプ氏、金正恩氏宛ての書簡を公表。首脳会談の中止を表明
25日
北朝鮮の金桂冠(キム・ゲグァン)第1外務次官が談話で首脳会談の必要性訴え。トランプ氏「開催の可能性」言明
26日
金正恩氏の呼び掛けで南北首脳会談。「米朝首脳会談を成功裏に実現」することで一致。トランプ氏も「開催目指す」
6月1日
金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長、ホワイトハウスでトランプ氏と会談し、金正恩氏の書簡手渡す。トランプ氏、首脳会談の実施を明言