しんぶん赤旗

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日本共産党

2018年5月11日(金)

マレーシア初 政権交代へ

汚職疑惑に国民批判 野党勝利

マハティール氏 再び首相に

 【ハノイ=井上歩】9日投開票されたマレーシア下院総選挙(定数222)で、野党連合・希望連盟が113議席を獲得し過半数を制しました。1957年の独立以来政権を担ってきた統一マレー国民組織(UMNO)中心の与党連合は敗北し、同国初の政権交代が実現します。

 希望連盟を率いたマハティール元首相(92)は10日の記者会見で「大勝した」と宣言し、国民の明確な信任があるとして、遅滞のない新政府発足を要求。同日国王と会見し、新首相に就任する予定です。15年ぶりの再登板となります。

 ナジブ首相の与党連合・国民戦線は79議席にとどまりました。ナジブ首相は10日、「国民の審判を受け入れる。議会制民主主義を尊重する」と敗北を認めました。

 ナジブ氏は与党敗北の一因となった政府系ファンド「1MDB」をめぐる公金横領・汚職疑惑について、再捜査を受けることとなる見通し。マハティール氏は同日、「法の支配を回復する」と強調しました。

 第3勢力であるイスラム主義の全マレーシア・イスラム党(PAS)が18議席を獲得。8議席を獲得したサバ州の地域政党は、希望連盟と連携します。

 全13州のうち12州で行われた州議会選挙でも、希望連盟は7州で勝利しました。


解説

人種越え不正義に怒り

 「権力は腐敗したのだ」。野党連合指導者の一人、ムヒディン元副首相は3月下旬、UMNO政権の変質をこう評していました。

 3年前までUMNO副総裁、政府副首相としてナジブ首相に次ぐ地位にいた人物。「金権政治が続き、地位は金で買われ、UMNOはどんどん魅力を失った。自分たちのことばかり考えていて、“マレー人のため”だといっても信じてもらえなくなった」

 700億円規模の公金が首相の個人口座に流れたとされる1MDB疑惑は、金権政治の象徴となり、自らを倒す勢力を生みました。

 ムヒディン氏は2015年、首相は疑惑の真相を語るべきだと言って更迭され、マハティール元首相もこの疑惑でナジブ氏を厳しく批判してUMNOを離党。2人は、マレー系政党(マレーシア統一プリブミ党)をつくり、かつての政敵がいる野党連合に合流しました。

 マハティール氏が率いた野党連合は、消費税導入や生活費上昇への不満も高めていたマレー系の政権批判票の受け皿となりました。UMNOは構図上でも「全マレー系の代表」という優位を維持できなくなりました。

 ナジブ政権は選挙区割りの変更などさまざまな手を打ちましたが流れは変えられず、利益誘導型の公約も有権者に響きませんでした。

 マレーシアは微妙な民族問題を抱える多民族国家で、政党・政治勢力は人種を基盤に形成され、その利益代表の機能が期待されてきました。金権政治は、この制度的な特徴によってもたらされた面もあります。

 しかし今回マレーシア国民は、多少なりとも人種の垣根を越えて、不正義への怒りと民主的・進歩的な制度への期待を示しました。

 マハティール氏が勝利後「法の支配」の徹底を強調したように、新政権は首相への権限集中を改めるなど法治の回復や民主的な制度整備が課題となります。(ハノイ=井上歩)


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