2018年5月8日(火)
迫るイラク議会選
シーア派中心勢力が分裂
避難民支援など課題が山積
イラクは12日、連邦議会(任期4年)選挙を実施します。約7000人が定数329に挑みます。アバディ首相が過激組織IS掃討の終了を宣言した後、初の選挙。避難民支援やインフラ再建、汚職根絶など政治課題が山積するもと、アラブ人イスラム教シーア派の中心勢力がアバディ首相派やマリキ元首相派などに分裂してたたかう事態です。(イラク北部アルビル=小玉純一 写真も)
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米英軍が2003年に侵攻してフセイン政権を打倒した後、議会選挙は4回目。06年から14年まで首相を務めたマリキ氏は、首相を追われた後も力を保ち、今回、復権を狙っています。
同氏は前回14年選挙で自派が第1位となる92議席を得たものの、首相職を失いました。シーア派勢力を優遇してスンニ派の不満を増し、ISの台頭を招いたとして不評を買いました。
後継のアバディ現首相は、IS掃討作戦を続け、その終了を昨年12月に宣言しました。自派の名前も「イラクの勝利」。IS掃討を成果に2期目を狙います。アバディ氏はイランとも米国とも関係をつくる考えを表明しています。
対IS作戦では、米軍の支援を受けたイラク軍のほか、イランの支援を受けたシーア派民兵が貢献しました。その民兵の司令官、アミリ氏も権力の座を狙っています。
どの派も過半数に届かないのは確実で、選挙後の連立交渉も不透明です。選挙と政権づくりにはイランが影響力を行使するとの見方が有力です。アルビル在住のジャーナリスト、ドゥロバン・バルワリ氏は「マリキ首相の8年でイランへ門戸が開かれた。イランはだれが首相になっても制御できる」と話します。
ただし「シーア派住民は(1980年代に)イラクがイランと戦争したことを忘れていないし、イラクのこの間のシーア派主導政権に満足もしていない」とも指摘します。実際、シーア派住民が多数の南部バスラでも、水道などインフラ整備の遅れや汚職への不満の声が聞かれます。
シーア派の派閥、サドル派(前回34議席)はこの間、反政府デモを組織し、今度は共産党(前回1議席)と連携しています。
首都バグダッド在住のシーア派の主婦オム・ホダイルさん(50)は、「宗派主義の悪い候補が多い。けれども世俗の候補もいる。イラクにとってよい候補を選ぶ必要がある」と本紙に話しました。
議会選のしくみ
国民はアラブ人のイスラム教シーア派が6割弱、アラブ人のイスラム教スンニ派が2割弱、クルド人(ほぼスンニ派)が2割弱。政治勢力は大別して三つ。アラブのシーア派勢力、同スンニ派勢力、クルド勢力です。それぞれさらに党派に分かれ、世俗派もあります。
フセイン政権崩壊後、多数派シーア派から行政権を握る首相を、スンニ派から議会議長を、クルドから国の象徴的存在の大統領を選ぶのが慣例です。
議会選は全国18選挙区の比例代表制。今回から電子投票を採用。人口3700万人で有権者2400万人。国連の4月発表で国内避難民は220万人。人道支援団体は身分証明証を紛失した避難民が投票できない懸念があるとしています。