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2018年3月22日(木)

自民9条改憲

七つの条文案 すべて2項空文化

 自民党憲法改正推進本部は22日に全体会合を開き、9条改憲についての条文案の取りまとめを目指します。25日の党大会では条文案提示を見送りますが、衆参の憲法審査会での改憲案論議を早期にスタートさせるためです。15日に明らかになった七つの条文案の危険性を改めて考えてみます。(中祖寅一、日隈広志)


写真

(写真)安倍首相インタビューを掲載した2017年5月3日付の読売新聞

 条文案は、戦力不保持・交戦権否認を定めた9条2項の「削除」案と「維持」案の2案に大別されますが、安倍晋三首相が提案する「9条1、2項を残して自衛隊を憲法に明記する」という案が主軸です。これまでその具体像が示されない中で、安倍首相は「2項を残す以上、自衛隊の活動は変わらない」と繰り返してきました。しかし、首相案を含め七つの条文案はすべて、2項を空文化し、無制限の武力行使へと道を開く危険性があることが明らかになりました。

2項削除案、「自衛権」明記案

無制限の武力行使に道

 9条2項を削除する2案は、「国防軍」を保有する2012年の自民党改憲案(6)と、自衛隊の保持を明記する石破茂元幹事長らの案(7)です。

 両案いずれも全面的な武力行使の解禁です。

 2項を維持しつつも「自衛権」を明記するとする案が(4)、(5)です。

 「自衛権」は国連憲章51条の個別的自衛権と集団的自衛権を含みうるものであり、これを明記すれば、集団的自衛権を「部分容認」したとする安保法制=戦争法の範囲をはるかに超え、米国との海外での共同の武力行使が可能になります。「自衛権」明記が無制限の武力行使に道を開くものであることは明白です。

2項維持・自衛隊明記案

一見“抑制”的、危険変わらず

 2項を維持し自衛隊を明記する案(1)~(3)は、2項削除や「自衛権」明記の他の案に比べ“抑制”的に見えます。しかし、これは「2項削除」などの高めのボールを「見せ球」に、「下げた」という印象を与えようとするトリックです。結局、2項を空文化し、無制限の武力行使に道を開きます。なぜか―。

 第一に、2項が残っても、自衛隊を憲法上の存在にすれば、これまで「自衛隊は憲法違反では」という疑いを避けるために設けられてきた「海外での武力行使の禁止」「集団的自衛権の行使は許されない」などの制約は消えてしまいます。「自衛隊は憲法違反か」という疑いそのものが消えてしまうからです。

 ハト(2項)の隣にタカ(自衛隊規定)を書き込むようなもので、憲法上の存在となった自衛隊はむしろ2項を圧迫します。

 第二に、(1)~(3)の案はいずれも、憲法に書き込まれる「自衛隊」の権限について何の制限も明記していません。これではまさに活動範囲は無限定に広がります。

 第三に、(1)~(3)の案はいずれも、自衛隊の任務を「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため」と位置付けています。

 この「我が国の平和と独立を守る」という規定は、「自衛権」を明記したものと解釈できます。そうなれば「自衛権」を明記する案(4)、(5)と同様に、フルサイズ(無制限)の集団的自衛権を含むと“解釈”が拡大していく危険があります。

法律と離れて

 (1)~(3)案に出てくる「我が国の平和と独立を守る」とは、現在の自衛隊法3条の自衛隊の「任務」規定と同じ表現です。そこで、現在の自衛隊の任務を「我が国に対する武力攻撃の排除」に限定する「専守防衛」の趣旨を踏襲したもので、無制限の武力行使にはならないという説明も予想されます。

 しかし、法律の上にある憲法に「国の独立を守る」と書き込めば、法律とは離れて必ず独り歩きします。

 「独立を守る」とは主権を守ることであり、主権とは、なにより領土に対する排他的支配権です。「自衛権」そのものと解釈される可能性を否定できません。これもまた、無制限の武力行使に道を開く危険があります。

侵略以外可能

 (2)案には「前条の範囲内で」とあります。その意味は明確ではありませんが、2項を受け、「その範囲内で」という形で自衛隊は「戦力不保持・交戦権否認」の制限を受けるとも読めます。

 しかし、自衛隊規定の新設で2項が圧迫を受け、2項の「戦力」の意味のほうが限定される可能性もあります。1項で「放棄」した戦争は「侵略戦争」だと解釈し、それを受けて、2項で「認めない」としたのは「侵略的軍隊」だと、狭く解釈される可能性があります。

 そうなれば「侵略以外」の軍事活動が広く可能となり、結局、無制限の武力行使につながる危険があります。

戦争法を追認

 「自衛隊」明記の(1)~(3)案に共通するもう一つの危険は、「現在の自衛隊」を前提にその存在を憲法上認めるという意味を持つことです。それは、自衛隊を「合憲」と考えてきた学者を含め9割を超える憲法学者が「違憲」と批判する安保法制=戦争法を追認し、合憲化する効果を持ちます。

 戦争法は地球の裏側、戦闘地域まで行って米軍と軍事協力することを可能とし、非常にあいまいな「限定」のもとに集団的自衛権に道を開いています。その全面的追認がもたらす危険は計り知れません。

日本国憲法第9条

 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

図

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