2018年2月10日(土)
平昌五輪開幕 “南北の壁”とかす
韓国・北朝鮮の合同入場■南国からの参加 “重要なことは勝利ではなく努力”
平和の祭典・第23回平昌冬季五輪が幕を開けました。競技者たちはその交流を通じ、世界に友情の架け橋を築こうとしています。日本選手の心意気、開催地の表情にも大会への期待がふくらみます。
「オリンピック競技大会に世界中の選手を集めるとき(五輪運動は)頂点に達する」。五輪憲章の一節です。
今大会は過去最多となる92の出場国・地域から集いました。そのハイライトは、分断された韓国と北朝鮮の選手たちが統一旗のもとに歩みをそろえた場面でした。南北の同時入場行進は2006年トリノ冬季五輪以来でした。
旧西ドイツで分断国家を経験した国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は「平昌大会は朝鮮半島の新たな始まりになる。あまりに長い間、不信と敵意によって分断された両者に五輪精神がもたらされた」とその歴史的な意義をかみしめました。
競技の普及と強化を隔てたもう一つの“南北の壁”をとかす力がいきいきと現れています。シンガポールやナイジェリア、エクアドル、コソボなど6カ国が冬季五輪の仲間入りを果たしました。
ほとんどが雪や氷となじみの薄い国です。赤道付近や南半球にも広がる競技熱はとどまることを知りません。
バッハ会長は「多様性」と「調和・連帯」が五輪の強みだと訴え続けています。人種や肌の色、価値観の違いを尊重し、競い合いから心を通わせ、互いの理解が進む―。多様性が進む五輪像は、偏狭で差別的な思想が跋扈(ばっこ)する、いまの国際社会にあって、その光彩を放ちます。
五輪精神の発露期待
■日本選手団
日本選手団は海外で開かれる冬季五輪では過去最多の269人で編成されます。
スピードスケートの小平奈緒選手(31)が選手団主将として掲げるテーマは「百花繚乱(りょうらん)」です。「それぞれの舞台で、それぞれの思いを胸に、大きな花を咲かせていきましょう」と訴えます。
日本選手に大きな影響を与えたのが、フィギュアスケート女子の浅田真央選手(当時)がソチ五輪で見せた演技でした。優勝候補ながらミスの連続で絶望の淵に沈んだショートプログラムから一転、フリーで生涯最高得点を出しました。
女子ジャンプの高梨沙羅選手(21)は「結果以上のものがあると教えてくれた。私もそういうジャンプがしたい」。フィギュアスケート男子の宇野昌磨(しょうま)選手(20)は「(浅田さんの演技は)結果が気にならない、本当に心に残る演技だった。あのような演技ができるようになりたい」。
これらは五輪精神の発露です。「人生において最も重要なことは、勝つことではなく努力すること。勝利者になったことではなく、けなげにたたかったことである」。近代五輪の提唱者クーベルタンの言葉が重なります。
金・銀・銅では表せない色とりどりの花々を銀盤で、雪上で、豊かに咲かせてほしい。
(平昌=勝又秀人)
世界の多くの人と話をしたい■南北和解に役立って
現地市民の思いは
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「アンニョンハセヨ(こんにちは)」「オソオセヨ(ようこそいらっしゃいました)」
開会式会場の最寄り駅では、大会を支えるボランティアが観衆を笑顔で迎えます。シャトルバスの乗客も、韓国のボランティアをはじめカナダ国旗のバッジをつけた人や、中国国旗の小旗を持った人など多国籍。各国の言葉が飛び交う中、平昌五輪スタジアムをバックに写真を撮る人、マスコットと抱き合う人など、寒さに負けず、お祭りムードが漂いました。
案内係ボランティアの大学生キム・ジヨンさん(20)は世界の人と交流したいと応募しました。
「不思議な気分です。私は海外旅行もしたことがないのに世界の人が韓国に来てくれるんですから。たくさんの人と話をしたいし、韓国をどう思ったのか聞いてみたい。もう一度来たいと思ってもらえるように頑張ります」と、ガッツポーズを見せてくれました。
今大会は1988年のソウル五輪以来、30年ぶりの開催です。「当時は、子どもでしたが、楽しかった記憶がある」。そう語るのは妻と息子と京畿道(キョンギド)(県に相当)からやってきた会社員の男性(40)です。「子どもたちには選手の姿をみて、挑戦する気持ちを持ってほしい」
平昌は南北を分ける軍事境界線から約100キロのところに位置します。誘致の段階から「平和の五輪」を大会の柱の一つとして掲げてきました。
競技が行われる平昌郡、旌善(チョンソン)郡、江陵(カンヌン)市が属する江原道(カンウォンド)は、その軍事境界線に接しています。江陵市は1950年に勃発した朝鮮戦争で、北朝鮮軍の兵士が上陸し、韓国軍との銃撃戦の末、占領された場所でもあります。
戦争の爪痕が残る地の五輪で、両国の選手がアイスホッケー女子で統一チームをつくることになりました。ユニホームの胸には統一を象徴する一つの朝鮮半島が描かれています。
「オリンピックは、南北和解の役に立つ」。スタジアムの近くで飲食店を営むチョ・スンチャンさん(58)はいいます。「私は北朝鮮の選手を歓迎するよ。戦争はダメだ。戦争をしないために、できることは、何でもやらないといけない」
開会式のテーマは「ピース・イン・モーション」。世界の人々と一緒に行動し、平和を築いていく―。こんな思いが込められています。
(平昌=栗原千鶴)