2018年2月9日(金)
英国の医療制度を攻撃 トランプ氏に反論次々
“切り下げられても、米国よりずっといい”
英国で行われた国民保健サービス(NHS)の充実を求めるデモ行進を利用して、トランプ米大統領が国民皆保険制度を攻撃したことに対し、英国内ではメイ首相が「私はNHSを誇りに思っている」と反論するなど、与野党から反発の声が上がっています。
(島田峰隆)
全国民を対象にした公的保険制度のない米国では、民主党の一部や医療関係の労働組合などが欧州諸国では常識となっている同制度の導入を求めています。トランプ氏はそれに反発し、保険加入者を若干増やした前政権の医療保険制度改革(オバマケア)さえも撤廃しようとしています。
トランプ氏は5日、自らのツイッターで、英国各地で3日に行われたNHSへの予算増額を求めるデモについて「民主党は国民皆保険制度を求めているが、英国では制度が破綻し、機能していないからデモ行進が起きている」などと指摘。英国民がNHSの撤廃を求めているかのように描き、国民皆保険制度を拒否する自らの主張の追い風にしようとしました。
集会を呼び掛けた英国の全国組織「ヘルス・キャンペーン・トゥギャザー」のジョン・リスター氏は「めちゃくちゃに切り下げられたNHSでさえ、高額で機能しない米国の医療制度よりもずっと良質で公平だろう。デモ行進者の中にNHSを米国の制度と交換したいと考える人はだれもいないだろう」と反論しました。
ハント英保健相も「NHSには課題があるかもしれないが、すべての人をカバーする医療制度をつくった国の人間であることを誇りに思う。この制度のもとで、すべての人が預金残高の額にかかわらず、医療を受けられる」と強調しました。
英野党労働党のコービン党首は「トランプ氏の発言は間違っている。国民はNHSを愛し、保守党がやっていること(NHSの予算削減)が嫌だからデモ行進した。医療は人権だ」と語りました。
世界銀行によると、英国民の医療費は対GDP(国内総生産)比で9・1%ですが、米国は17・1%にのぼります。英国民の平均寿命は81・6歳で米国民より3年近く長くなっています。
国民保健サービス(NHS) 包括的な保健医療をすべての住民に無料で提供することを目的に、英国で1948年から実施されている国営の医療制度。医療予算の削減などからサービスの低下や一部有料化などが問題となっています。