2025年1月22日(水)
主張
トランプ大統領就任
世界は米国の都合で動かない
米国がどういう国際秩序を目指すのか。トランプ大統領の就任演説が注目されました。“世界のルールも国際協力もおかまいなし”といわんばかりの自己都合優先の姿勢には、強い危惧を抱かざるをえません。
平和の秩序をめぐる問題では、すべての戦争を終わらせるとの言葉はありましたが、ウクライナや中東への直接の言及はありませんでした。それどころか、「世界が見たこともない最強の軍隊を構築する」と軍拡の必要性を述べ、「米国は領土を拡大し、新たな地平に国旗を運ぶ」と、前時代の領土拡張主義者のような発言も飛び出しました。
■国際ルールを無視
国際的に定着しているメキシコ湾という名称をアメリカ湾に改称することや、1999年に全面返還したパナマ運河を「取り戻す」との持論を繰り返したことに各国は懸念を強めています。パナマのムリノ大統領は「就任演説の内容を拒否する」と声明しました。
国際協力の課題では、世界が格闘している気候危機問題で、国際的枠組み「パリ協定」からの再離脱を表明し、逆に化石燃料の輸出で米国はもうけると宣言しました。温室効果ガス排出世界2位の国として重大です。米国が最大の資金拠出国である世界保健機関(WHO)からの離脱も表明し、感染症拡大などに対する国際的な取り組みへの影響が懸念されています。
しかし、「米国第一」の再来で平和や国際協力がふりまわされることはあっても、前進を押しとどめることはできません。米国が世界に大きな影響力を持つことは事実ですが、今の国際社会全体は、アメリカの思い通りに形成されているわけではないからです。
国際社会は、国連憲章・国際法に基づく秩序、包摂的な平和構築、核兵器をはじめ非人道兵器への反対、気候危機打開、持続可能な社会の実現など全人類的課題の重要性を広く共有し共同で取り組んできました。
米国であれロシアであれこうした努力に背を向ける身勝手な大国に、世界の多くの国はおいそれと追随することはないでしょう。トランプ1期目を通じて、その手法を知る各国は、今度は米国とより巧みに外交を展開する条件を持ちます。
■日米同盟絶対改め
トランプ流の「米国第一」をごり押しすれば、同盟国とさえ矛盾を深めることになります。トランプ氏が高関税をかけると脅したカナダや、グリーンランドを領有するとねじ込もうとしたデンマークは、トランプ氏に同意しないでしょう。対GDP比5%の軍事費という法外な要求も、あつれきを広げることになります。
こういうときだからこそ、ブロック対立や軍事対軍事でなく、世界共通のルールである国連憲章と国際法に基づく平和で包摂的な秩序をめざす外交努力がますます重要となります。
「米国第一」を掲げる政権に、「日米同盟絶対」の硬直した思考で対応すれば、軍事でも経済でも、これまで以上の負担を求められるのは必至です。石破茂首相はトランプ氏への就任祝辞で、「日米関係のさらなる強化」で「緊密に協力」したいと表明しています。日米軍事同盟への依存をやめ対等平等の日米関係への転換こそが必要です。