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2025年1月15日(水)

きょうの潮流

 本欄恒例の芥川賞候補5作一気読み。第172回芥川賞は本日発表です▼圧巻は安堂ホセ「DTOPIA(デートピア)」。フランス領ポリネシアの島で開催される恋愛リアリティーショーを舞台に、白人男性異性愛至上主義、植民地支配、全人口が被曝(ひばく)した核実験、経済格差、トランス憎悪、パレスチナでの虐殺等、世界の不条理をあぶり出し、それらを糊塗(こと)する文化装置の欺瞞(ぎまん)を告発します▼AIがしゃべりだす時代の反映か、言葉とは何かを追究した作品が3作。永方佑樹(ながえ・ゆうき)「字滑り」は、個々が属性によって記号化され固有の名前を剥ぎ取られる現代から、文字のなかった太古の言葉の始源にさかのぼり、五感に染み入る音声の力と普遍性を幻想的に描いた異色作▼乗代(のりしろ)雄介「二十四五」。双子の魂のような叔母を5年前に亡くした私は、叔母の悲願に導かれ作家になります。物語を書くことは、死者の言葉に耳を澄ませ対話することであり、叔母との永遠の紐帯(ちゅうたい)を暗示します▼鈴木結生(ゆうい)「ゲーテはすべてを言った」の主人公はドイツ文学者。ゲーテの言葉とされる「愛はすべてを混淆(こんこう)せず、渾然(こんぜん)となす」と出合い、出典を探しますが、ついに見つけられません。しかしその言葉は本当だと実感し、誰のものでもあり得ない真理そのものとしての言葉の存在を確信します▼女同士の関わりが温かい竹中優子「ダンス」は、正直に生きようとして満身創痍(そうい)の先輩と、彼女にいら立ち、憧れ、支える後輩の物語。自分にとっての大切な一編を見つけてみませんか。


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