2025年1月3日(金)
きょうの潮流
十二支の「巳(み)」に蛇の字を充てる―。民俗学者の南方熊楠(みなかた・くまぐす)によると、中国の古書『淮南子(えなんじ)』の記述から、前漢時代(紀元前3世紀)以前からおこなわれてきたといいます▼「すべて蛇類は好んで水に近づき、またこれに入る」と熊楠。日本では古来、稲作―水田耕作と深く結びつき、土地と水をつかさどる神としてあがめられてきました▼水田とされた土地にもともと住んでいた蛇など先住の生物への感謝・供養のため、収穫後に稲わらで水の神、土地の神を象徴するわら塚やわら蛇をつくり、神の化身として祭る―。各地に今も残る生産・豊穣(ほうじょう)に感謝する祭事です▼わら蛇の村での取材で「日本は古来、蛇信仰の国なんですよ」と聞きました。「竜眼」とか「逆鱗(げきりん)」とか皇帝を権威づける竜ではなく、土着の庶民の神として民衆に広がった蛇への信仰。蛇は庶民の暮らしのなかで息づいてきました▼その決め手となったのが脱皮です。蛇に永生と新生の美をもたらす驚きの習性は、古代日本人の心をとらえ、生命の誕生や繁栄を象徴する存在に。『蛇―日本の蛇信仰』(吉野裕子著)によると、縄文時代中期から土器に蛇の文様が多く描かれるようになったと。再生や生命力への願いは、五穀豊穣の祭事とも重なります▼神社や正月のしめ縄は、蛇が絡み合った姿を模したものであり、鏡餅はとぐろを巻いた蛇そのもの、と吉野。縄文時代からの蛇信仰が、今日も私たちの生活にさまざまな形で受け継がれてきていることを感じる新年でもあります。