2020年11月11日(水)
主張
米大統領選
結束にほど遠い危機の深まり
米大統領選挙は、共和党の現職トランプ大統領が敗北の受け入れを拒否する異例の事態が続いています。米社会の分断の深刻さ、問題の根深さを端的に象徴するものです。
新型コロナウイルス危機への対策、経済・雇用への深刻な悪影響からどう国民生活を守るのかなど、命と生活に直結する問題が争点となりました。加えて、止まらない格差・貧困の拡大、人種差別をめぐる衝突、移民問題など解決に向け政治の指導力が強く求められる課題が並びました。
トランプ政治の傷痕
トランプ氏は4年前、格差と貧困、多国籍企業中心の経済のあり方など、米社会が抱える深刻な問題に自分なりの解決策があると主張し、既成政治では顧みられなかった人々の声を政治に届けると標榜(ひょうぼう)して登場しました。
しかし、彼の唱えた「アメリカ第一」は、内政でも外交でも、新たな分断、対立、独善を生み出し、必要な連帯も協調も損ないました。その最悪の例が、コロナ対策での混乱―国内では世界最多の感染者数、国際的には世界保健機関(WHO)脱退など国際協力の妨害、そして科学を無視した大統領自身の行動と感染―でした。
問題は、選挙が終わった今、この“超大国の政治危機”が終わるどころか、逆に米社会が結束して問題に取り組んでいく見通しが、ほとんど立たないことです。
トランプ氏は、票差400万以上の劣勢なのに、民意に耳を傾けず、選挙は不正だったと主張し居座りを画策しています。与党・共和党の幹部たちも大統領に同調し、対立と分断をあおっています。
当確が報じられた民主党のバイデン前副大統領は勝利宣言で、社会の結束と和解を呼びかけました。しかし、トランプ票がオバマ前大統領の獲得した約6950万票を優に上回ったことを背に、共和党陣営に呼応する動きはみられません。来年1月からの新政権は、冒頭から党派対立で政策選択の余地が縛られるとの見方も出ています。
国を二分した対立の背景にあるのは、出口の見えない格差と貧困の拡大、中間層の没落など米社会の矛盾と行き詰まりに、これまで政権を担ってきた共和党も民主党も抜本的に対処できなかったことへの国民のぬぐい難い不信と怒りです。
多国籍企業中心のグローバル化のもと、これに代わるどういう経済社会を目指すのか。米社会も政党も模索と衝突のさなかです。民主党は富裕層増税、最低賃金引き上げなど新自由主義の行き過ぎをただす政策を掲げてはいますが、既成政治に裏切られてきたと憤るトランプ支持層を含め、広範な運動で支持を集めない限り、実現は不透明です。
海外関与への不信強く
世界への影響も重大です。「アメリカ第一」の名で、地球温暖化対策のパリ協定離脱やWHO脱退通告など国際協調に背を向けてきたトランプ路線の転換が、次の政権ではいや応なく問われます。同時に、長引く戦争、恒常的な海外基地の展開など軍事的関与のあり方について既成二大政党への米国民の不満と怒りも、かつてなく強まっています。単なるトランプ以前への回帰でなく、世界との関わり方、「超大国」のあり方自体が問い直されていることも明らかです。