2003年9月17日(水)「しんぶん赤旗」
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フジテレビが九月十二日夜放映した「金曜エンタテイメント・完全再現!北朝鮮拉致“25年目の真実”」は、十四日付本紙「視聴者を欺く『ノンフィクションドラマ』の虚構」で指摘したように、北朝鮮による日本人拉致問題をめぐる日本共産党にかんする事実を歪曲(わいきょく)し、兵本達吉・元日本共産党国会議員秘書の言い分だけをとりあげて、“共産党は拉致問題にとりくんだ兵本氏を不当に除名した”かのように虚偽の放送をおこなったものです。同番組をみた視聴者から「共産党はなぜ兵本氏を除名したのか」という問い合わせも寄せられていますので、同番組の何が虚偽で歪曲かをあらためて検証しておきましょう。
「ノンフィクションドラマ」というテレビ局のふれこみのこの番組は、北朝鮮拉致事件を追及してきた産経新聞記者、そして兵本氏、大阪のテレビ局のプロデューサーの順に、それぞれの取材・調査活動ぶりをドキュメントと「再現ドラマ」で描いています。このうち日本共産党が登場するのは、兵本氏にかかわるところです。
その中心は、日本政府に初めて北朝鮮拉致疑惑を認めさせた橋本敦・日本共産党参院議員の一九八八年の参院予算委員会の質問にいたる「準備過程」と問題の「除名シーン」です。
番組では、八八年から突然九八年の“除名劇”に飛びます。兵本氏が橋本議員の議員秘書として質問準備のために拉致被害者の家族を訪ね歩いた調査活動とそれに続く橋本質問。無視するメディアに憤慨する兵本氏。ここで番組はCMで中断。再開後の最初のシーンが、兵本氏が党本部に呼び出され調査をうける「再現ドラマ」となっています。その冒頭の数秒間、画面中央に「1998年」のスーパー。
「兵本は、突然、共産党本部から呼び出しをうけた。政府や警察関係者と折衝を重ねる兵本の行動に疑念を抱いた党本部が兵本の調査に乗り出したのだ」(ナレーション)。続いて除名をめぐる兵本夫妻の会話の「再現ドラマ」に。
兵本「党をクビになるかもしれん。すまん」
佳代「拉致問題ですね」
兵本「ああ」
……
兵本 「後にはひけん。若くはないが、命ある限り、家族の力になってあげたい」
佳代「いいじゃない。党なんて辞めちゃえば。乾杯しましょ。私、働くから」。
会話シーンの最後に「兵本達吉、日本共産党除名」のスーパー。
事情を知らずに見た人は、だれでも、拉致問題の国会質問のために一生懸命調査活動に奔走した正義の兵本氏を日本共産党が非情にも除名したとうけとるでしょう。
では、兵本氏の除名の真相は何か。橋本議員の質問は一九八八年三月、兵本氏の除名は十年後の九八年八月です。兵本氏は、九八年三月で定年を迎えていましたが、自分
[除名通知書]「あなたは、一九九八年五月十八日、赤坂の料理店『まき田』で警察庁警備公安警察官と会食し、自分の国会秘書退職後の『就職』のあっせんに関して『面接』をうけ、自分の『採用』を事実上依頼する対応をしています。これは、警備公安警察がかかわる機構にみずからが参加する意思を表明したものであり、日本共産党員として許されない行為です。しかも、あなたは、党からの指摘を受けながら、自己の行為を正当化し反省することをしませんでした。一九九八年八月二十日、日本共産党中央委員会統制委員会は、党規約にもとづき、重大な規律違反行為として、あなたの除名処分を決定しましたので通知します。」 |
そればかりか、橋本議員と国会議員団事務局は、彼の半年間の定年延長を党本部に要請し、党本部もそれを了承したのです。「拉致問題」は除名とはまったく無関係です。
問題は、この定年延長の間の九八年五月十八日、兵本氏が、赤坂の料理屋で警察庁警備公安警察官と会食し、彼の退職後の就職の斡旋(あっせん)について面接を受け、自分の採用を事実上依頼する対応をしたことです。
このことは、党が一方的にいいだしたことではなく、もともと兵本氏が、当時国会の同僚秘書に「退職後の身の上相談」としてもちかけた内容が「離党」と警備公安警察官との仕事の相談という重大なものだったので、国会議員団事務局のメンバーが兵本氏に直接事情を聞いたところ、警備公安警察官との就職斡旋の面接の事実が明らかになったのです。
兵本氏が議員団事務局のメンバーに語った「面接」の中身は、次のようなものです。
指定された料理屋に行った。案内した女性や仲居さんが、とても水商売の女性とは違い、婦人警官のようなしっかりした感じがし、警察庁の関係の料理屋という感じだった。
案内された部屋で待っていると、あらわれたのは四十五歳から五十歳くらいの、厚手の眼鏡をかけた、おとなしそうな大学教授風の人物で、「警察庁警備公安一課」という肩書の名刺をだした。この男と二時間会食し、自分の経歴などを知悉(ちしつ)していることに驚いた。
この会食が、退職後の就職の斡旋であり、相手は政府の役人であり、拉致問題で政府の仕事に就ける人物かどうかの面接であったと理解している。
警備公安警察は、日本共産党対策を中心任務とする秘密政治警察の核心であり、日本共産党は公安調査庁とともにその廃止を要求しています。こういう警察官の「面接」を受け、就職斡旋を依頼するなどということは、党員と両立することではありません。しかも、兵本氏は、党からの指摘を受けながら、自己の行為を正当化し反省することをしませんでした。
一九九八年八月二十日、日本共産党中央委員会統制委員会は、党規約にもとづき、重大な規律違反行為として、除名処分を決定し、兵本氏に通知しました。
兵本氏は、除名された当初、警察庁警備公安警察官のことについては「政府関係者」とごまかしていました。しかし、『文芸春秋』昨年十二月号の日本共産党攻撃の一文では、除名のさいの「通知書」を引用して「これはいかにも作為に満ちた文書だ。第一に私が会ったのは警察官だけではない。その場には内閣官房や外務省の官僚もいた」と言い出しました。語るに落ちるとはこのことで、警察庁の警備公安警察官と会食し、警備公安警察がかかわる機構への参加を求められたことまで告白しているのです。
兵本氏が警備公安警察官に就職斡旋を依頼したがゆえに除名されたことは、本人もくりかえし認めた動かしがたい事実であり、「拉致問題」で除名されたかのように描く「再現ドラマ」はまったくの虚構です。
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フジテレビの番組は、八八年の橋本質問について、ドキュメントでも「再現ドラマ」でも、兵本元秘書が一人で拉致問題の調査から質問原稿執筆までしたかのように描いています。
「国会質問の時期が近づいていた」「質問の中身を考えるのも兵本の仕事だ」(ナレーション)
原稿を書いている兵本のところに妻佳代がお茶を運んでくる場面に。
佳代「国会の原稿ですか」
兵本「ああ、うちの議員の質問をな。拉致問題を認めさせてやる」
これもかねてから兵本氏が吹聴していることで、すでに橋本氏自身が、論文「『拉致調査妨害』など事実無根――日本共産党国会議員団はこの問題にどう取り組んだか」(グリーンパンフ『「反省」すべきは公明党ではないのか』)のなかでたんたんとあきらかにしています。
一九八七年十一月の大韓航空機爆破事件の犯人の一人、金賢姫が自分の教育係「李恩恵」は北朝鮮に拉致された日本人だと告白。これを契機に一九七七、七八年に起きた一連の若い男女の蒸発事件にも光があてられました。こうした中で人権を守る弁護士でもある橋本議員は、一連の事件をまとめて重大な政治課題として国会で取り上げる必要を痛感し橋本室でこの問題を取り上げようと提起します。
「私はこれを、私の議員室の会議で、なんとしてもやるべきであり、やろうと提起した。その当時私の議員室は、私のほかに秘書二名で構成されており、その一人が兵本君だった。二人の秘書も賛成で、質問のための準備、調査は、現地に赴いての実情調査は兵本君が担当し、政府関係からの聞き取りや新聞報道などの資料収集は別の秘書が担当することとした。さらに私は、この問題の重要性から考えて、法務委員会で法務大臣相手に質問するよりも、政府にたいする総括的質問として予算委員会において質問するのが適当であると考え、そのことを党議員団の国対委員会に報告して了承を得た。準備には橋本室をあげて取り組んだ。一九八八年三月二十六日、第一一二国会参議院予算委員会での拉致疑惑問題の総括的な質問にあたっては、前述の現地調査とともに、政府関係者からの聞き取りや資料調査をもとに、何度も部屋会議を重ねて討議し、意見を出し合って質問構想を固めていった。もちろん最終的には質問者である私が、私の責任において詳細な質問原稿を練り上げて質問に臨んだ。三晩ほど徹夜に近い準備をしたと記憶している」
また兵本氏の「橋本敦議員の質問を準備したのが私だった」という言い分にも、次のように反論しています。
「質問原稿も、秘書二人の調査結果や資料をふまえつつ、私自身が自ら議員としての責任において苦労して練り上げて書いたのだ。私が兵本君のスピーカー役をつとめたかのような言い分は、思い上がりもはなはだしく、無礼というべきだろう」
この橋本氏の反論に兵本氏は一言も反論できずにいます。
日本共産党は、日本政府に初めて北朝鮮拉致疑惑を認めさせた橋本質問のあとも、事態の解明をすすめない警察にきぜんとした捜査を求めた諌山博参院議員の質問(九〇年六月、参院地方行政委員会)、横田めぐみさん事件をとりあげた橋本議員の質問(九七年六月、参院法務委員会)、拉致をめぐる日朝交渉の現状をただした木島日出夫衆院議員の質問(九八年三月、衆院法務委員会)などを繰り返しおこなってきています。兵本氏も九八年に除名されるまでは、橋本議員の秘書として拉致疑惑解明の一端をになっていたのです。
日本共産党は、兵本氏が除名された後も、九九年には不破委員長が二度にわたって、拉致問題など日朝間の諸懸案の解決のためにも、日朝両国政府間の正式交渉ルートを開くべきだと代表質問で提案しました。この提案は、二〇〇〇年四月からの日朝国交正常化交渉の再開、北朝鮮が初めて拉致の被害を認めた一年前の日朝首脳会談へとつながったのです。
このように兵本氏が拉致問題に一人で取り組んだかのように描き、日本共産党はそれを妨害しているだけのように描くことは、真実をまったく歪曲するものです。
今回のフジテレビの「ノンフィクションドラマ」は、日本共産党が兵本氏を拉致問題の解明にとりくんだから除名したなどという、明白な虚偽を公共の電波を使って全国に放映したことになります。拉致問題の解明と道理ある解決のために早くから努力してきた日本共産党の名誉がこれによって著しく毀損(きそん)されたことはいうまでもありません。被害の回復の困難なメディアを手段として相手の名誉を毀損することがまかりとおれば、民主主義はなりたちません。
しかも、兵本氏が雑誌などで、みずからの除名問題で事実をいつわった日本共産党攻撃を繰り返し、その都度日本共産党が機関紙上で公然と反論してきていることは天下周知の事実です。その問題を取り上げるにあたって、フジテレビ側が、日本共産党と橋本氏にはいっさい取材や問い合わせをおこなわず、一方的な言い分だけを公共の電波を使って放送したのですから、その行為は二重に悪質です。
公党である日本共産党の名誉を事実の歪曲によって毀損したフジテレビの責任は厳しく問われなければなりません。
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