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笹山 尚人さん(弁護士)

「男性のみ、年齢25歳まで」、「募集広告の内容と実際が違う」のは違法です

写真今回は、就職活動に関してコメントしたいと思います。

1、まず、就職活動の際に、知っておいて損はない法的留意点についてコメントしましょう。
 まずは募集そのものに違法がある場合です。例えば、求人の募集に「男性のみ、年齢25歳まで」というような募集があった場合。このような求人の募集は許されません。
 労働者の募集・採用について男女で差別することは、男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)の第五条が禁止しています。男性に限って求人募集をすることは法律違反として許されないのです。逆に、「女性のみ」という募集であった場合でも、均等法は、規定の仕方としては、女性に対して男性と差別してはならないという表現をしていますが、男女の平等を実現することが目的ですから、女性のみという募集も均等法に反することになります。
 次に、「年齢25歳まで」という記載はどうでしょうか。このような募集・採用における年齢制限についても、原則として認められないというのが法律の趣旨です。雇用対策法第七条は、事業主の努力義務を定めたものではありますが、年齢制限を設けることが認められる一定の場合以外は年齢制限をしないように事業主に対して求めているのです。
 このような法律違反の求人募集をするような会社は、法規に関する順守意識が低いといえるでしょう。その意味では要注意です。

2、次に、募集広告等、就職活動中に提示された労働条件と、実際の労働条件とが食い違うとき、どうしたらよいのだろうか、という質問に対する、法的な回答を検討します。
(1)結論を言えば、「この条件で締結する」と示された労働条件が契約の内容となり、実際の労働条件がそれと異なる場合は、契約通りの実現を要求するよう労働者は請求できる、ということになります。
(2)雇用主は、求人を行うにあたり、職業安定法に定められた決まりを守らなければなりません。職業安定法五条の三は、公共職業安定所や労働者の募集を行う者は、求職者に対して、従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない、と定めています。求人の申し込みに当たって、公共職業安定所に対し、従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないことも定めています。
 このように、労働者を募集する企業は、雇用形態、働く内容やその労働条件について、はっきり示さなければいけないという扱いになっているのです。
 新聞や雑誌等の求人広告の場合は、とくにその記載内容について、「労働者に誤解を生じさせることのないように平易な表現を用いる」ことを求められています(職業安定法42条)。
 契約内容を事前に十分に検討した上で、納得した上で合意した約束だからこそ、その約束を双方守る必要があるというのが契約法理で、これは近代資本主義を支配する重要な原則ですから、この考え方からすれば当然のことです。
(3)このように締結前に示された賃金や労働条件は、労働契約の内容となります。
求人広告を見て応募して面接に赴いたところ、求人広告と異なる労働条件を言われた場合は、求人広告とは別の新しい労働条件が提示されたと考えられ、これにあいまいにうなずいてしまうと、新しい労働条件を承諾したものと考えられてしまいます。そうなると、後で話が違うと文句が言えないことになってしまいますから、自分は、求人広告の労働条件で募集に応じたものであることをハッキリ伝えるべきです。会社は、求人広告を自ら出したのですから、その広告の内容で契約を結ぶべきであることを求めるべきです。
 いったん合意してしまえば、その内容は、双方が共に守らなければならないものになります。自分は納得していないのに、何となくその時の流れで話が決まってしまったということでは、後悔しても後の祭りです。納得いくように、最初の段階で労働条件を確認するようにしてください。
(4)このような意味で締結した契約は、その内容が書面になっていようがいまいが、双方が履行することを求めることができます。その意味では、契約は書面になっている必要はなく、口約束で足ります。ただし、後で相手が違うことを言いだして言い逃れができないようにするためには、ハローワークで示された労働条件の明示の書面や、広告誌、会社から労働条件に関するメモをもらうなど、書面が何らかの形で残っているほうが有利です。

3、実際に就職活動をするとき、また、働き始めてから、労働条件に関する様々なトラブルや不遇にぶつかることが多い青年労働者が、では、どうしたらいいのか、という点について、最後にコメントします。
 この点については、今回もまたこのページに寄せられたたくさんのコメントを拝読させていただきました。法の建前だけではどうにもならない、血を吐くようなコメントばかりです。「景気なんて良くなったとは、国民は実感していない」「仕事の量が膨大で、なぜ終わらせることができないのか、その問題を、一個人の責任に転嫁してしまう。」「企業へのエントリーシートや履歴書を何通送っても、1社も手ごたえがありません。…返事は「残念ですが、今回は期待に添うことができませんでした。」まだ話もしていないのに…。」「(夢は)労働基準法がしっかり守られる状態で、正社員として働けること!ただ、それだけ!」「別に好きで非正規の仕事をやっているわけじゃないのに、世間の目はつめたいし…。」短い言葉で、本質をつく言葉の連続です。毎回読むたびに、圧倒される思いです。
 就職活動をするときには、やはり、どれだけ法制度の順守に誠実な姿勢をその企業が持っているかを見極めることが重要だと私は思っています。その意味では、有休があるとか、社会保険を完備しているとか、有期契約の場合に「更新なし」と明示されている職場は避けるとか、法の知識に基づいた一定の見極めが労働者の側に必要であろうと思います。
 就職して以降は、契約の内容を守らせたり、その内容を労働者に有利に向上させていくための努力を、労働者の側が不断に継続するしか道はありません。その意味で、私は、もっともっと労働組合の果たすべき役割は大きいと思っています。最近ある書店の労働組合から相談を受けましたが、さすがに労働組合がしっかりとしている場合、企業は、有期契約や派遣労働者に対しても、違法な行いはなかなかできないものだなと改めて実感しました。


プロフィール

ささやま・なおと

1970年生。1994年中央大学法学部卒。2000年弁護士登録。東京法律事務所所属。登録以来,労働事件と労働運動を主たる活動分野として活動中。著書に,『最新 法律がわかる事典』(石井逸郎編の共著,日本実業出版社)。

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