「金融は経済の血液」といわれるほど、金融機関による円滑な融資は、中小企業にとって文字通り命綱であり、地域経済の発展にとって不可欠のものです。ところが、この間、金融機関の貸し渋りや貸しはがしはひどくなる一方で、多くの中小企業が、大不況による売上げ減少のうえに、金融の道を断たれるというかつてない苦境にたたされています。
政府の調査でも、「中小企業の資金繰りは、全般的にきわめて悪化」(中小企業庁「地域金融情勢に係る調査報告」二〇〇二年二月)としており、経済界からも、「各地で貸しはがしが起こり、(貸し渋りが大問題になった)一九九八年当時より、貸し渋りは激しい」(奥田碩日経連会長)、「金融機関の貸しはがしが進んでいる」(山口信夫日本商工会議所会頭)など、地域・中小企業向けの融資がきわめて深刻な事態に陥っていることが指摘されています。
一九九七年三月末から二〇〇一年九月末までをみても、大企業向けの銀行融資は約七兆円増える一方で、中堅・中小企業向けの融資は四十四兆六千億円も減少しています。
日銀の「超金融緩和政策」によって銀行には資金が豊富に供給されているのに、なぜこんなことが起きているのでしょうか。
この背景には、中小企業向けの融資を「非効率」として縮小する一方で、大企業や大資産家との大口取引や国際的な投資を拡大していこうという大銀行の経営戦略があります。そのため、投資信託などの金融商品の販売や各種の手数料徴収など、当面の利益になる業務を優先させ、一部の「優良企業」をのぞき、中小・零細企業には「リスクに見合った金利」という名目で、「いやなら借りるな」といわんばかりの高金利が押しつけられています。さらに経営の合理化をすすめるとして、支店の無人化や融資窓口の閉鎖もすすめられています。経済の現場に資金を供給するという、金融機関の本来の役割を後退させていると言わなければなりません。
さらに銀行による中小企業への貸し渋り・貸しはがしに拍車をかけているのが、小泉内閣がすすめている乱暴な「不良債権の早期最終処理」です。不良債権といわれる貸付先の約七割は中小企業です。「早期最終処理」を口実に、この大不況のなかで必死にがんばっている中小企業にたいし、突然の融資打ち切りや強引な資金回収が公然とおこなわれています。
また、金融庁による昨年来五十六件もの信用金庫・信用組合つぶしも、地域の中小企業への融資を困難に陥れています。金融庁検査で使用された「金融検査マニュアル」は、国際金融市場で活動する大銀行も、中小・零細企業を対象にしている地域の中小金融機関も、同じモノサシで債務者を区分し、それに見合った引当金を積ませようとするものです。
この「マニュアル」にかかれば、きちんと借金を返済していても赤字が続いた場合や、短期借り入れを長期借り入れに借り換えただけで「不良債権」扱いされてしまいます。
深刻な不況によって中小企業の約七割が赤字経営であり、資金繰りのために返済条件を変更することは日常的な取引の実態です。機械的な「マニュアル」の押しつけが、本来、地域中小・零細企業の助け合いのための協同組織として設立された信金・信組を、地元企業に貸したくても貸せない、貸さなければ自らの経営も成り立たないという「袋小路」に追い込んでいるのです。
地域経済に必要な資金を安定的に供給させるため、いまほど地域金融機関が本来の役割を果たすことが求められているときはありません。当然、大銀行にも中小企業への融資を拡大する公共的責任があります。
四月一日にペイオフの凍結が解除されました。地域で活動する金融機関が、預金を安定的に確保し、預金者保護をはかりながら、本来の業務である中小企業への融資を積極的にすすめられるようにするためには、地域金融を掘り崩す今のような金融行政から、地域金融を育成・発展させる金融行政へと根本的に転換させることが必要です。
日本共産党国会議員団は、地域金融対策委員会をもうけ、信金・信組の破たん問題を解明するため全国調査を実施、今年一月には「信用金庫、信用組合など地域金融機関の連続破たんから地域経済と中小業者を守る緊急要求」を発表しました。この「緊急要求」のなかで「金融検査マニュアル」による乱暴な検査の中止、地域金融機関の融資実態をふまえた検査に改革すること、信金・信組などを地域の金融を守る要(かなめ)として位置づけ、必要な支援をしていくこと等を提案するとともに、地域金融を破壊する政府・金融庁のやり方を厳しく批判し、国会で繰り返し追及してきました。
四月十二日、金融庁は「金融検査マニュアル・中小企業融資編(案)」を作成し、パブリックコメントにかける(国民から意見を聴取する)ことを発表しました。あくまで運用上の改善をはかろうというもので、内容も不十分なものですが、金融庁の姿勢を、一定、中小企業融資に配慮せざるをえないというものに変えさせたことは、わが党の追及と金融庁の横暴を許さないという全国各地のとりくみが力をあわせた成果です。
しかし、窮地に陥った地域金融、中小企業金融を立て直し、育成、発展させるためには、乱暴な不良債権の「早期最終処理」方針の即時中止と、地域金融を破壊する現在の金融行政の抜本的な転換が必要です。日本共産党は、日本経済の基盤をささえる地域金融を再生、活性化するため、「地域金融活性化法案」(概要)を提案するものです。
「地域金融活性化法案」(概要)は、第一に、貸し渋りなどの禁止はもちろん、必要な資金やサービスなどの要求に、安定的に応える責務が金融機関にあることを明確にし、中小企業への貸出比率などの目標をさだめ、これを達成することを求めます。
第二に、国が地域金融機関を育成する責任をもつことを明記し、都道府県もこれに努めることとします。信金・信組(複数の都道府県にまたがるものを除く)の監督・検査権限を今の金融庁から都道府県に移し、地域の現状をふまえた監督・指導・検査ができるようにします。金融検査と「マニュアル」のあり方についても、地域金融、中小企業融資の実態にあったものに抜本的に改めます。
第三に、「地域金融活性化法案」(概要)では、これらのことを推進するため、各都道府県に第三者機関である「地域金融活性化委員会」を設置し、金融機関の地域経済への貢献度などを評価、公表するとともに、金融庁と都道府県に必要な勧告等をおこないます。また、「地域金融活性化委員会」は金融機関にたいする預金者・取引先などの苦情処理を行うほか、監督官庁の検査に対する金融機関の不服申し立ての受付と処理をおこないます。
アメリカでも「地域再投資法」を制定し、金融機関の地域経済にたいする貢献度を高める努力をするとともに、大銀行と地域金融機関は別の指導監督体制で、それぞれの別個の検査マニュアルで実状に合った検査をおこなっています。「国際標準(グローバルスタンダード)」からみても、地域金融独自の法律と体制をつくるのは当然です。
この法律は、地域経済の担い手である中小・零細企業をはじめ、地域で活動する各種のボランティア団体やNPOなど(以下、中小企業等)に必要な資金を安定的に確保するため、地域金融に携わる金融機関の責務と国、都道府県の役割を明らかにし、第三者機関がそのとりくみを評価、公表、また必要な勧告を関係者におこなうことを通じて、地域経済の発展と中小企業や勤労者の経済的地位の向上を図ることを目的とする。
地域金融に携わる金融機関(信用金庫、信用組合、地方銀行、第二地方銀行の本支店をはじめ、都市銀行等でも地域で融資業務を行う銀行の本支店はすべてこれに含まれる)は、その公共性・公正性を何よりも重視し、地域経済および中小企業等の金融を活性化するための役割を果たさなければならない。
地域金融に携わる金融機関は、金融サービスを必要とする個人、企業、団体等に対して、取引の機会を十分かつ公正に保障する責任があり、利用者の立場にたった営業や説明責任を果たさなければならない。
地域金融に携わる金融機関は、必要な資金を安定的に供給し、地域経済および中小企業等の金融の活性化を図るため、イ、中小企業等への貸出額や貸出比率、ロ、営業を行う地域への貸出額や貸出比率(営業を行う地域で集めた預金をどの程度地域に貸出しているかの比率)等の目標をみずから定め、達成するよう全力をあげなくてはならない。
地域金融に携わる金融機関は、これらの目標と実行状況を少なくとも半年に一回公表するとともに、当該する「地域金融活性化委員会」に報告しなければならない。
すべての金融機関は、顧客からの借り入れの申し出に対して、公正を旨とし、正当な事由なく一方的な融資実行の拒否(貸し渋り)をおこなってはならない。また、金融機関側の一方的な都合によって返済条件の変更を強要してはならない。債権の回収にあたっては、金融機関の公共性をふまえ、債務者との十分な協議のうえで行うこととし、一方的な回収(貸しはがし)をしてはならない。
以上の行為をされた顧客は、「地域金融活性化委員会」にたいし申し立てを行うことができる。金融庁および都道府県は、これらの禁止事項が守られているかを厳正に監督するとともに、「地域金融活性化委員会」の勧告等や、顧客からの訴え、日常の検査・監督業務のなかで疑わしい事実があれば、報告を求め、調査し、問題があれば業務改善命令の発動によって、改善させなければならない。
地域金融に携わる金融機関は、債務者区分や引当金等、金融庁および都道府県の検査における判断に不服がある場合、「地域金融活性化委員会」に申し立てをすることができる。
信用金庫・信用組合の検査・監督は都道府県が行うこととする。(二つ以上の都道府県にまたがるものは、金融庁との共管とする)
国および都道府県は、地域金融に携わる金融機関の健全な育成に必要な施策を実施し、もって地域経済および中小企業等の金融の活性化をはかるものとする。
金融庁および都道府県は、地域金融に携わる金融機関が、経営の安定の確保をはかりながら、この法律の目的にそって健全に発展するよう監督・指導を行わなければならない。そのため、とくに中小・零細企業を主な取引先とする信用金庫・信用組合などの地域中小金融機関には、画一的な検査基準を適用するのではなく、協同組織の目的と融資の実態に合った検査をおこなわなければならない。
この法律の目的を実現するため、各都道府県に第三者機関として「地域金融活性化委員会」を設置する。
「地域金融活性化委員会」は、各都道府県に事務局をおき、委員は中小企業団体、市民団体の代表を必ず含むものとし、その他学識経験者等のなかから知事が選任する。
(1) 「地域金融活性化委員会」は、該当する地域内の地域金融に携わる金融機関から、中小企業等への融資状況など地域金融の活性化に関するとりくみについて必要な報告を受けるとともに、そのとりくみを評価し、結果を公表する。
また必要があれば、当該金融機関への指導を金融庁および都道府県にたいして勧告することができる。
(2) 「地域金融活性化委員会」は、金融機関の顧客からの苦情、申し立て等を受け付ける。「地域金融活性化委員会」は、金融庁および都道府県に対して苦情が寄せられるなど問題のある金融機関について、業務内容等の報告を求め、調査、改善の指導をおこなうよう勧告をすることができる。
金融庁および都道府県は勧告を受けた事案の対応の結果を「地域金融活性化委員会」に報告しなければならない。「地域金融活性化委員会」は、その結果を公表する。
(3) 「地域金融活性化委員会」は、金融庁および都道府県の検査にあたって、地域金融に携わる金融機関からの債務者区分や引当金等についての不服申し立てがあれば、金融機関から報告を求め、調査を行うことができる。必要があれば、金融庁および都道府県に対し、改善を勧告ができる。
(4) 「地域金融活性化委員会」は、地域金融機関が破たんに至った場合は、監督官庁よりその経過について報告をうけ、公表することができる。
「地域金融活性化委員会」は、地域金融機関の破たんに際し、派遣される金融整理管財人の選任について意見を述べることができる。また、破たん処理の業務の基準や、資産継承を判断する基準、職員や店舗の継続等についても、意見を述べることができる。
さらに、破たん処理にあたって、預金者、取引先など関係者からの不服申し立てがあれば、管財人に調査、報告をさせ、必要があれば改善措置をとるよう求めることができる。