2006年8月22日(火)「しんぶん赤旗」
ローン化する奨学金
金利引き上げ狙う政府・財界
すでに有利子が主流
「教育の機会均等」を保障するため経済的に学生を支える、日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金制度の“教育ローン化”の動きが進んでいます。
浮上しているのは、貸付金利上限(現行3%)の引き上げです。小泉内閣が七月末に閣議決定した「骨太の方針」(二〇〇六年度版)は「3%の貸し付け上限金利について、教育政策の観点から、見直しを検討する」と明記し、金利上限の撤廃・引き上げの方向を打ち出しました。八月末の予算概算要求に向け検討を続けています。
■うまみがない
この背景には、奨学金事業への民間参入の狙いがあります。政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)が昨年、官民で入札を競わせる「市場化テスト」の民間参入要望をおこなったところ、複数の民間企業が奨学金事業に参加を希望しました。十二月には、「市場化テスト」の対象事業に日本学生支援機構を指名しました。
しかし、民間にとって上限金利3%では、もうけの“うまみ”がありません。そのため、上限の撤廃・引き上げを求めているのです。
民間参入と一体となった金利引き上げは、財界の年来の要求です。
一九九九年に財界系のシンクタンク、社会経済生産性本部が発表した「教育改革に関する報告書」は、奨学金事業について「毎年約三百万人に年間三百万円(貸す)として、約九兆円」になると試算。巨大な“教育ローン市場”をにらんだうえで、「年利6%」でも「自動車ローンに比べれば高額だが、住宅ローンほどではない」とまで述べています。
金利上限の撤廃・引き上げは、奨学金を銀行の金融商品である「教育ローン」と同じものにしてしまいます。
■とりたて強化
二〇〇六年度の奨学金事業で、有利子貸与は、前年度比三百九十九億円の増でした。一方、無利子貸与は、前年度比九十億円の微増にとどまっています。(グラフ参照)
九八年度に総額約六百五十億円だった有利子枠は、〇六年度には約五千二百七十八億円にまで拡大。有利子枠と無利子枠の比率は九八年度の一対三から、〇六年度には二対一に逆転しました。
いま失業や低所得が原因となって、滞納債権額や返還猶予件数は増加しています。政府は、債権の回収強化を掲げ、(1)法的措置の強化・拡大(2)回収業務における民間委託の試験的導入―などを推進しています。
このなかで、さらに上限金利を引き上げることは、学生が借りやすい制度ではなく、“とりたて制度”への変質に拍車をかけることになります。(松田大地)
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サラ金ではない
日本学生支援機構労働組合の岡村稔書記次長の話 日本育英会は二〇〇四年に廃止され、独立行政法人・日本学生支援機構になりました。この独法化は、公的奨学金制度を民間ローン化するためのステップにほかなりません。
機構では、回収率をあげることが最優先に評価されています。しかし私たちはサラ金に勤めているわけではありません。ヨーロッパでは奨学金は返す必要がない給付制が主流ですが、日本の奨学金制度はすべて貸与制というのが実態です。
政府がなすべきことは、金利引き上げなどによって学生に高額の借金を背負わせるのではなく、無利子枠の拡大や特別貸与(一部給付)制度の復活、さらには欧米並みの給付制度への改革です。