2006年2月20日(月)「しんぶん赤旗」

東横イン不正改造

障害者の人権より利益

“氷山の一角” 広がる批判

違反に強い罰則なし


 「人権侵犯事件」として法務省人権擁護局などが調査をすすめていた、大手ビジネスホテルチェーン「東横イン」(東京・大田区、西田憲正社長)の不正改造問題。十六日には東京法務局が、違法個所の早急な改善と、職員への法令徹底などを求める勧告を出しましたが、障害者団体などからは「障害者を締め出す社会は、弱くてもろい社会」と批判、波紋が広がっています。(菅野尚夫)


 東横インによる不正改造とは、完了検査後、身体障害者用の客室や施設を取り壊し客室などに改造した問題。東京法務局の勧告は「不特定多数が集まる施設を障害者が利用しやすくするよう定めたハートビル法に違反する」などとして施設の改善などを求めました。

 「不正改造には腹が立って、あぜんとした」というのは全国肢体障害者団体連絡協議会の宮内俊清事務局長。事件発覚後の八日に東横インに抗議。今後、行政への要請も計画しています。

「偶然ではない」

 宮内事務局長は「ばれなければ何をやってもいいという発想です。法令に違反してまでも『勝ち組』になってもうけようとするルールなき資本主義の典型です。一企業だけの問題ではない」といいます。

 東横インへの抗議に対し、多くの人からは激励が寄せられました。その一方で、「何をわがままいっている。目くじらたてるな」という匿名のメールも。

 「私たちは障害者だけに特別な部屋を作れといっているのではありません。お年寄りや援助を必要としているすべての人たちが利用できる安心で安全な建物にしてほしいと願っているんです」

 「今回の事件は偶然起きたものではありません。氷山の一角だ」と危ぐするのは、ハンセン病西日本違憲国賠訴訟の原告・溝口製次さん。

 二年前、熊本県の黒川温泉のホテルが、ハンセン病元患者だということを理由にして、あけすけに宿泊を拒否。同ホテルは旅館業法違反にあたるとして熊本地検から刑事処分をうけて営業停止処分になりました。

 車いすで生活する溝口さん自身、ホテルに宿泊を予約すると、空いているのに「満室です」と断られることがしばしばあるといいます。

 「東横インは、表向きは障害者のための客室を作ったように社会を欺き、裏では改造して障害者が宿泊できないようにした。それだけにより悪質です」と指摘します。

義務規定が必要

 新建築家技術者集団の会員で一級建築士の皆川幸司さんは、アメリカ障害者法(注)と比較したうえで次のように話します。

 「バリアフリー化を支援する流れは拡大されてきましたが、日本は大規模な建物が主で公共性が求められる建物でも努力規定。義務規定になっていません。強い罰則規定や強制力もなくそのために無視されている」

 そして建築基準法やハートビル法の趣旨を充実させ、自治体段階でも、障害者団体の意向や広く意見を反映させる窓口の設置と人員の配置、点検体制などを充実させることが必要だといいます。

 さらに「効率と利益追求が当たり前になり、法で決まっていても守られない異常が社会の中で潜在的にある」と指摘したうえで、「建築士が障害者など利用する人の立場立って『違法なものはだめだ』といえる社会環境が必要」といいます。

 皆川さんは「違法をチェックし、法令を順守させるシステムが地域住民にはなく、行政の権限が弱体化されて責任を負いにくくなっていることも大きな問題」と監督官庁の指導の徹底を求めています。


 アメリカ障害者法とは 一九九〇年七月に障害者に対する「差別禁止」を目的に制定された「障害をもつアメリカ人法」。違反した場合は、初犯約六百万円、再犯約千二百万円の罰金を科しています。スペイン、オーストラリア、イギリスなど四十カ国以上で差別を禁止する罰則規定を定めています。国連は二〇〇一年八月、日本政府に対して「障害のある人々に対するあらゆる種類の差別を禁止する法律を採択するよう」勧告しました。


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