2006年1月11日(水)「しんぶん赤旗」
みんなでもう一度暮らしたい
不安・借金抱える中、支えあい
耐震偽装の「グランドステージ川崎大師」
みんなで、またこの場所に住みたい――。耐震強度が偽装された川崎市のマンション「グランドステージ川崎大師」の住民たちは、「今年こそ」と懸命に生活再建の道を探します。住民たちの思いは…。(本田祐典)
京急大師線東門前駅から徒歩三分。鉄筋コンクリート九階建ての同マンションは昨年十一月、最初に偽装が報じられた二件のうちの一つです。二十三世帯が暮らしていました。現在も三世帯が生活を続け、転居先が見つかっていません。
住民が最も困っているのが経済的な負担です。引っ越し費用、転居先への敷金や礼金を払うために新しく借金をした住民もいます。
■いくらお金がかかるのか
「建て替え完了はいつになり、それまでにいくらお金がかかるか分からない。こんな先が決まらない状態では生活プランも立たず、引っ越しもできない」と語るのは、マンション住民代表を務める男性(42)です。家族は、妻と三人の子ども。もともと賃貸物件が少ない地域。仕事をしながら育児に適した物件を新しく探すこと自体が困難だといいます。
男性の住宅ローンは約六千万円。事件発覚後も月二十五万円の返済が続き、利子もとられています。元本返済は一時的に停止できそうですが、その間も利子分は払うよう銀行から言われています。銀行だけが守られ、さらに利益をあげることになります。
住民たちは生活再建の方法として、マンションの建て替えを全員一致で決めました。しかし、それには追加融資が必要です。国が建て替え「支援」策を発表していますが、住民は「震災よりはるか低いもので使い物にならない」といいます。
■国がつくった制度災害だ
住民らは独自にさまざまな既存制度の活用を考えて再建案を作成。設計事務所に依頼して試算してもらいました。それは、国の「支援」策よりずっと住民に有利でした。
「国土交通省がずさんな検査体制をつくったからこんなに被害が広がり防げなかった」。男性は国が中心となって「賠償・補償」しないといけないものを「支援」という言葉にすりかえて賠償しようとしないことに納得できません。「どう考えたって、これは国がつくった制度災害だ。わたしたち現在の被害者だけでなく、今後被害者になりうる可能性のある現在マンションに住んでいる人、これからマンションを買う人のためにも国の姿勢を変えたい」と言います。
売り主のヒューザーは対応を二転三転させ、補償能力も乏しく、頼りになりません。
一方、建設会社の太平工業は、新日本製鉄系列のゼネコン。賠償能力は十分にあると言われていますが、「設計図通りに施工しただけ」と、責任すら認めていません。
「建設会社が危ないと知らなかったわけがない」と考えた住民は、他の建設会社に図面を見せました。担当者は五分ほどで五、六カ所の不審点を指摘し、言いました。「うちではこの工事はできません」
■なぜ、すぐに賠償しないのか
太平工業は建設中にも構造図の閲覧、コピーを拒み、問題発覚後も、住民側がマンション建設時の資料提出を求めても応じませんでした。市も再三提出を求め、やっと出てきた資料はページが欠落。建設時につくったはずの施工図面は「完成直後に、処分したため手元にない」として提出しません。
「被害者の生活よりも、責任逃れを考えている太平工業が許せない」と、代表の男性は思いを語ります。「時間がかかるほど被害者が追いつめられる。なぜ、すぐに賠償しないのか」
住民の集まりでは「このままでは借金を重ねて、サラ金にも手をだしかねない」という話も。「死んだら保険金が下りて家族は守れる」と口にする人も出てきました。
将来の不安とストレスに耐えながら、住民たちは話し合い、支え合ってきました。勤務医をしている男性は、みんなに健康管理とストレス発散の方法を教えました。建築士の男性は専門知識を生かし、情報提供をしています。いまでは「みんなの間に強い結束が生まれた」といいます。
経済的に苦しい仲間にも負担できて、全員が参加できる再建案を住民たちは求めています。もう一度、みんなで暮らすために。