2006年1月10日(火)「しんぶん赤旗」
諫早湾閉め切り潮流速22%減少
島原市沖で確認 長崎大・九州大グループ
漁業環境悪化に影響
長崎県島原市沖の有明海の潮流の流速が、干拓事業による諫早湾閉め切り前後で約22%も減少していることがわかりました。農水省の干拓事業が影響していることを示す貴重なデータです。
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観測したのは、長崎大学の西ノ首英之名誉教授と九州大学大学院の小松利光教授の研究グループ。干拓事業による諫早湾閉め切り(一九九七年)前の九三年と閉め切り後の二〇〇四年の流速を比較して判明したもの。小松教授がこのほど、環境省の有明海・八代海総合調査評価委員会(須藤隆一委員長)で観測結果を発表しました。
西ノ首名誉教授は雲仙普賢岳の火山活動による漁業への影響を調べる一環として観測したものです。九二年―九四年にかけて有明海を中心に二十六地点でそれぞれ一カ月間、流速の連続観測をしています。研究グループはこのデータと比較するために観測地点、時期、観測器具とも同じ条件で観測しました。時期は〇四年四月二十二日から五月二十二日の三十一日間、場所は島原市の沖合二カ所(P41地点、P43地点)。観測器具は同じ電磁流速計を使用しました。
観測の結果、P41地点の水深五メートルで、21・9%の流速の減少、P43の水深二十メートルで15・6%の減少を確認しました。
研究グループは〇三年にも、島原半島沿岸で諫早湾口に近い有明町漁港沖の二カ所(P61、P62地点)の流速を観測、21―33%の減少を確認しています。
有明海の流速の減少は、赤潮の増大など漁業環境の悪化をもたらす重大な問題です。しかし、干拓事業の前と後を比較できる流速観測がきわめて少ないことが、問題解明の障害になっています。それだけに、西ノ首・小松両氏らの観測結果は貴重で、研究成果が注目されます。
■解説
■海洋環境の根幹に影響
■海底の泥化・赤潮・魚介類減少
潮流の流速が減ることは、海洋環境の根幹にかかわるだけに、研究者も漁業者も重大な関心をもっています。
例えば川の流れの速いところは、粒の大きい砂や砂利がみられ、流速の遅いところは泥っぽくなっているのがみられます。海底でも流れの強弱で同じことが起きます。
有明海では、東幹夫・長崎大学名誉教授らが諫早湾を閉め切った一九九七年と二〇〇二年を比較し、閉め切り後の五年間に海底の砂地が泥化していることを観測し、流速の減少が原因と指摘しています。
潮流の減少はまた、海洋をかき混ぜ酸素を供給する力を弱めます。その結果、成層(上層と下層が混合しない)しやすくなり、赤潮の原因にもなります。実際に有明海では、諫早湾の閉め切り以降、貧酸素水塊(酸欠水域)が拡大したり、赤潮が頻発し、大規模化していることが観測されています。
実際、漁業は深刻になる一方です。環境省の有明海・八代海総合調査評価委員会で山口敦子長崎大助教授は最近数年間で、ニベ・グチ類、カレイ、ヒラメ、クルマエビなど海底付近に生息する魚介類の急激な減少傾向を明らかにしました。これらの魚介類は、有明海の漁船漁業を支えてきただけに深刻な問題です。減少の原因は、海底付近の生息環境の悪化を示すものとして注目されます。
干拓事業による潮流の減少が、「有明海異変」といわれるさまざまな海洋環境の悪化をもたらしている、と多くの研究者が指摘しています。その検証を求めたノリの第三者委員会の提言どおり、農水省は中・長期の開門調査を急ぎ実施すべきです。(松橋隆司)