2006年1月4日(水)「しんぶん赤旗」
9条の国に根をはって
僧侶・牧師・大学の名誉教授・労組関係者も
街の名士連なる
「憲法『改正』の動きが強まっている。九条を守りたい。この一点で、自分の住む地域の隅々にまで運動を広げられないか」―。これまでつながりのなかった人たちの“発掘”から始まった熊本市の「むさし九条の会」。宮本武蔵ゆかりの地で、地域をこつこつと歩き、発起人にはまちの名士が思想や信条・政党支持の違いを超えて名を連ねました。新年を迎え、それぞれの思いを胸に「できることをしていこう」と着実に歩みをつづけています。(酒井暁史)
■熊本市 宮本武蔵ゆかりの地で
「むさし九条の会」が結成されたのは昨年八月。活動する地域は、熊本市のベッドタウンの武蔵校区が中心です。隣接する地域にも広げる計画です。江戸初期の剣客・宮本武蔵の墓といわれる「武蔵塚」が近くにあります。
「会」は映画の上映会のほか、ポスター張りや駅頭でのビラ配布もしました。周辺地域にある三つの「九条の会」とも合同で街頭署名にとりくみました。戦争体験を語る集いも計画しています。
発起人には同地域に居住する医師、僧侶、牧師、主婦、県・市の元議員、前・京大火山研究センター長、大学名誉教授、労組の委員長やPTA会長の経験者らの名が並んでいます。
「宗教者が九条を守り、平和を求める運動の先頭に立っていかなければ」。日本キリスト教団牧師の宮川経範さん(43)は「『会』の活動に必要なら、喜んで」と同会の「活動拠点」に教会の使用を申し出ました。「宗教の違いを言う前に、命を大切にすること。当然のことです。『戦争をしない』と決めた九条を変える理由なんかありません」と言い切ります。
教会では昨年暮れの十二月十二日から七日間、宮川さんの発案で『映画日本国憲法』(ジャン・ユンカーマン監督)の上映会をしました。約六十人が訪れ、口コミで市外から駆けつけた人もいました。
浄土真宗本願寺派僧侶の川田晃映さん(43)は、宮川さんが同じ地域に住んでいることを知り、運動に参加。「仏が一人ひとりに救いをもたらしてくれるという仏教の教えと、憲法の基本的人権の尊重は似ている」と言います。
仏教が先の戦争に賛成したことに「反省していかねば」との思いを持ち続ける川田さん。「会」のロゴマークのデザインを手がけました。教会で開かれた昨年八月の「発足会」では仏教者の川田さんが十字架を背に司会しました。
「運動を始めてから、地域には素晴らしい人が何人もいることがわかったんです」
こう語るのは、「会」の事務局の原勢津郎さん(65)です。電力会社に勤務し、労働組合で活動していましたが、地域にはまったく知り合いがいません。発起人や賛同者を募るために頼りになったのが妻です。「女性は地域にネットを持っている。妻にどんな人が地域にいるかを教えてもらい、歩き回りました。職場では接することのなかった人たちと九条について話すのが楽しくて…」と話します。
杢田恭輔さん(79)は元社会党市議で三十年近く町内会長を務めました。原さんの会社の先輩です。「対立する時代じゃないよ。『九条を守る』。この一点で一緒にやらないと。町内には『九条を変えることに反対』という人が必ずいますよ。私たちが探し出すんです。慌てないで、少しずつ話していって、そういう人を集めていきたい」と力を込めます。
■みじめな従軍体験地域で語り輪広げる
「あたりに生えた草を食べ、岩塩をなめて生き残った」と言う、元熊本県住宅生協理事長の橋本伍一さん(84)は、日本軍がインドのインパールを目指して侵攻した「インパール作戦」に従軍。わかっているだけで二万人の兵士が戦死し、それもほとんどが餓死だと言われています。「死ぬまで戦争に反対し、九条支持を言いつづけます」と橋本さん。
元小学校教諭で、熊本市退職教職員協議会の会長を務めた前田洋一さん(82)も従軍経験者です。「軍での“みじめ”な体験を後世に伝えて、憲法について対話し、地域で理解を広げていきたい」と語ります。
「むさしの会」の結成へむけ、最初に声をあげたのが事務局長の江崎保雄さん(70)。高校で政治・経済を教えていました。きめ細やかな連絡などで「会」の実務を支えています。「『会』ができたことで、地域で『九条を守りたい』と思っている、いろんな立場の人が発言する場所ができた」と本当にうれしそう。
熊本県では四十四の地域で九条の会が発足しています。その世話役、調整役となる「くまもと九条の会」は日本共産党、社民党、新社会党、連合も加わっています。
江崎さんの近所に住む、「くまもと九条の会」事務局次長の戸田敏さん(68)。県内各地域で会をつくる「火付け役」です。戸田さんは言います。「むさしの会の運営はみんなで話し合い、協力し、支え合ってすすめています。地域の結びつきが光っていますよ」