2005年12月13日(火)「しんぶん赤旗」
米産牛解禁
都合悪い結論 黙殺
安全確保 保証なし
二〇〇三年のBSE(牛海綿状脳症)発生以来、ストップしていた米国・カナダ産牛肉輸入の再開――という十二日の厚生労働省・農水省の決定は、リスク管理機関としての責任を放棄する異常なものです。
両省は輸入再開の根拠として、次のように八日の内閣府食品安全委員会の答申をあげています。
「(答申で)危険部位の除去、二十カ月齢以下の牛の牛肉という輸入条件が順守されれば、国産牛肉とBSEリスクの差は非常に小さいとされました」。しかし、これは、答申の都合のいい部分だけを取り出したものです。
■答申には併記
答申には二つの結論が併記されています。まず日米のBSEリスクの「科学的同等性を評価することは困難である」という結論があります。食品安全委員会プリオン専門調査会の山内一也専門委員は「科学的同等性を評価するのは困難であるというのが、政府の諮問にたいする専門調査会の回答である」と指摘しています。
今回、両省はこの答申部分にはまったくふれず、仮定の条件を置いて、「リスクの差は非常に小さい」という前出のもうひとつの結論部分だけをとりあげています。
問題は、この仮定の条件が実際に守られるかどうかです。
答申は、(1)危険部位除去(2)生後二十カ月以下――という条件の実効性に疑問があり、“輸入条件が成り立たなければ評価は異なったものになる”と指摘。条件の担保、実効性を確保する責任は「リスク管理機関」である政府にあると指摘しています。
しかし、厚労・農水両省は、「輸入条件の確実な実施を担保していく」と“公約”したものの、実施体制などの裏付けがないままです。
米国への査察は通常年一回おこなうもの。しかも農水省、厚生労働省(来年度から二人の専門官新設)あわせて、わずか二十五人という貧弱な体制(他の輸入国への査察も含む)です。
結局、肉質による月齢判定という米国の方式を追認するしかないのが実情です。米国には、牛の個体識別システムがなく、正確な月齢を証明する手段がないからです。
また、危険部位除去については、現在、脳・脊髄(せきずい)から高濃度で検出されるたんぱく質を指標とした新しい試験方法が開発されています。米国産牛肉にたいして、この試験法を使うことは有効ですが、政府は、「日本産に義務付けていない検査を求めることになる」とし、検疫のさいの「水際検査」でもこの方式のチェックはしない方針です。政府が実施するという「水際検査」は、結局、牛肉の「衛生証明書」の表示が適合しているかどうかを確認する程度のものです。
■除去不徹底も
しかし、米政府機関の調査では、危険部位除去の不徹底(二〇〇四年一月から二〇〇五年五月までに千三十六件の違反)も判明しています。答申は、飼料規制の点でも、危険部位が肉骨粉として牛の飼料に混入する危険性を指摘しています。
世論調査でもざっと七割の国民が米国産牛肉輸入再開に反対すると答えています。食の安全と安心に背をむけた米国産牛肉輸入を強行することは、牛肉への不信感を広げるだけです。(宇野龍彦)