2005年12月13日(火)「しんぶん赤旗」
主張
米国産牛肉輸入再開
安全性に不安残したままでは
政府が、BSE(牛海綿状脳症)発生で停止していた米国産牛肉の輸入再開を決定しました。
政府は、専門家の意見を集約した食品安全委員会の答申を踏まえた判断だとしています。脳や脊髄(せきずい)など病原体が蓄積しやすい部位を取り除く、生後二十カ月以下の牛肉と内臓に限るという、輸入条件が順守されれば、国産牛肉とのBSEリスク(危険性)の「差は非常に小さい」と、答申がのべていることを、政府は根拠にあげています。
■専門家・国民の声無視
しかし、この部分だけをとりだして、答申の結論とするのは、間違った態度です。
答申は、米国のデータに不明な点が多いことなどから、日本と米国の食肉のBSEリスクの「科学的同等性を評価することは困難と言わざるを得ない」とのべています。現状では、米国産牛肉の安全性を確保できるかどうか、科学的に評価することはできないとしたのです。
答申の結論で、「科学的」との文言があるのは、この部分だけです。
政府が、「科学的な評価を踏まえ」判断したというなら、少なくとも、「科学的同等性の評価は困難」とした部分を欠いてはならないはずです。
ところが、政府の輸入再開にあたっての説明文書は、答申をいろいろと引用しながらも、「評価は困難」とした核心の部分には、まったくふれていません。
食品安全委員会の専門家の意見を無視する態度です。
政府は、米国産牛肉の輸入再開にあたって、国民の声にも背を向けてきました。
国内の全頭検査の緩和をめぐる政府の意見交換会では、反対意見が七割にのぼり、米国産牛肉の輸入再開をめぐる意見交換会では六割近くが安全性に疑問をなげかけました。
ところが、政府は、国民の意見と専門家の意見が対立するかのように描き、「食品安全行政は、科学的知見に基づいて行わなければならない」といって、国民の声を切り捨ててきました。
食品安全行政は、国民の信頼が欠かせません。その国民の不安にまともにこたえないで、食品の安全・安心は確保できません。
共同通信社の世論調査では、米国産牛肉を「食べたいとは思わない」とする人が75・2%にのぼり、そのうち、BSE問題による「安全性に不安が残る」との理由をあげた人が最も多く、62・5%を占めています。輸入再開で行政に望むこととして、「全頭検査を行うよう米国に申し入れる」が56・5%と最も多くなっています(「東京」七日付)。
■信頼を取り戻すには
米国産牛肉への日本国民の信頼を取り戻すというなら、日本政府は、米政府に全頭検査を求めればいいのです。
米国でBSEが発生した直後、小泉首相も、「輸入再開の検討にあたり、国産牛肉について講じているBSEの全頭検査、および特定危険部位の除去と同等の対策が必要だ」と答えていました(二〇〇四年一月二十三日)。しかし、その後、同年四月の日米合意をうけて、国内の全頭検査の緩和や米国産牛肉輸入再開のための議論を、食品安全委員会に押し付けてきました。米政府は、日本にたいして、圧力をかけ続けてきたことを明らかにしています。
米政府の利益を最優先に、国民の意見や専門家の声をないがしろにして、食品の安全を後退させることは許されません。