2005年11月28日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
自衛隊イラク派兵
再延長許されない
全国12カ所 原告5600人
自衛隊イラク派兵の駐留期限が十二月十四日と迫るなか、小泉首相はブッシュ大統領との首脳会談で、イラク派兵再延長を表明。近く閣議決定しようとしています。日米両国の国民大多数はイラクからの撤退を要求。派遣国でも引き揚げる動きが強まっています。国内で争われている「イラク派兵差し止め訴訟」は十二。原告五千六百人を超す大きな裁判で、街頭署名や集会と結び、撤退を求める世論を広げています。北海道と栃木県にみてみました。
■不当性告発へ 多くの証人申請
■北海道
元自民党・郵政相の箕輪登氏が原告になっておこした自衛隊イラク派兵差し止め北海道訴訟―箕輪氏の提訴は全国、世界からも注目を浴びています。昨年一月に全国に先駆けて訴訟を起こし、現在三十二人の原告を追加して第二次訴訟も併合して行われています。
九月に韓国で開かれたアジア太平洋法律家会議で、北海道訴訟弁護団事務局長の佐藤博文弁護士が訴訟の意義についてスピーチをしました。各国の参加者は「自民党の元閣僚がイラク撤退の裁判を起こすなんて」と驚きの声をあげていました。
新たに原告団になった人には、加藤多一童話作家や多田崇子医師をはじめ、北海道の著名人が名を連ねています。
加藤氏は宮澤賢治の名作『よだかの星』を引用し、「戦争し、占領を続けるアメリカ軍を支援するシステムと人間は、イラク人やアラブ諸国にとって『敵』そのもの。平和憲法をもつ日本国民が世界に敵をつくるのは間違い」と陳述しました。
原告団は正当な判決を求める署名活動や、街頭宣伝なども行っています。毎回の裁判は傍聴者でいっぱいです。
弁護団・原告団は一刻も早く証人尋問をして、イラク派兵の不当性を明らかにしたい方針です。弁護団は、高遠菜穂子さんや小池清彦新潟県加茂市長などの証人を申請しています。箕輪氏も十月三日の口頭弁論で、「小泉首相のやっていることに間違いだと判断できるのが裁判所だ。是非を急がず、多くの証人の意見を聞いて判断していただきたい」と訴えました。
十二月五日の第九回口頭弁論は、証人申請が認められるかどうかの大事な法廷になります。不当判決に持ち込ませない裁判所との緊迫したたたかいになっています。
(北海道・岡田かずさ)
■国は道理がない 原告ら姿勢追及
■栃木
栃木県内の住民が、国を相手取って、イラクへの自衛隊派遣の違憲確認などを求め、民事訴訟を宇都宮地裁に提訴したのが昨年の十二月十四日。派遣延長を狙う小泉内閣につきつけた形の同裁判、これまでに四回の口頭弁論を行い、国の姿勢が見えてきました。
四十七人が原告となった提訴の日、原告団の集会で宇都宮市の城生ナツイさん(58)は「小泉首相がすすめる戦前のような政治体制づくりの動きをアピールし、自衛隊派遣をやめさせたい」と決意をのべました。
四十七人の原告らは、「イラク派兵・違憲訴訟の会・栃木」(代表・杉浦弘修宇都宮大学教授)を結成。違憲訴訟を通じて、派兵には道理がなく不当であることを市民に知らせ、即時撤兵の世論を広げようと、宣伝・署名活動を進めています。
それから約一年。被告の国は、答弁書を提出し、訴状に対し「裁判の対象にならず、司法権の及ばない事案である」との立場を示し、却下を求めています。
同訴訟の代理人は、田中徹歩弁護団長をはじめ須藤博氏ら十人の弁護士。口頭弁論をすすめてきた須藤弁護士は、国側の同主張に対し、「派兵は、憲法の保障する『平和的生存権』を侵すもので、裁判を受ける権利を定めた憲法三二条に基づき裁判はできる。憲法九条が形がい化されているもと、裁判所は、憲法が司法に授権した違憲審査権に基づき、判断すべきだ」といいます。
(栃木県・団原敬)
■即時撤兵を求める国民世論と結んで
■訴訟弁護団全国連絡会議事務局長 佐藤博文弁護士
二〇〇四年一月に北海道で訴訟をおこして以来、約二年で全国十二カ所に訴訟が広がり、原告となってたたかっている人は五千六百人を超えました。弁護士は八百人以上です。
これは、日本国憲法の平和主義をめぐる訴訟としては戦後最大の規模です。原告になるということは大変なことです。「イラク侵略戦争に加担したくない」「憲法九条を守るために何かしたい」とする主権者の決意と責任感の表れです。
今までも自衛隊の海外派兵をめぐる憲法訴訟がありました。しかし今回のイラク派兵は従来の海外派兵とはまったく違います。イラク戦争はまさしく侵略戦争であり、自衛隊の派遣は、侵略戦争への参加にほかなりません。弁護団は、三月にイラクの隣国ヨルダンに現地調査に行き、「人道復興支援」がいかにまやかしか確認してきました。
〇三年三月の開戦から十万人を超えるといわれているイラク人犠牲者。二千百人を超える米軍兵士の犠牲。憲法の番人である裁判所が、政府の違憲行為を裁くことは責務です。私たちは平和憲法をもつ日本国民として、これ以上の戦争被害者を出さないという決意で取り組んでいます。
私たちは裁判だけでなく、世論、政治にも働きかけて、撤兵を求めています。全国会議員に行ったアンケート、十万枚のビラの普及、イラク人や従軍米兵、家族を招いた集会の開催、地方自治体への派兵反対決議の要請などさまざまに行ってきました。
小泉首相は、イラク派兵の再延長を既定路線としていますが、絶対に許されません。十一月十二日に開かれた全国弁護団連絡会議では、「自衛隊の即時撤兵を求めるアピール」を決議し、首相や外相、防衛庁長官に出しました。
各地の裁判は、不当判決が出ている訴訟もあり、予断を許さない状況です。国民の世論とともに裁判勝利のために全力を尽くしていきます。
■各地のイラク派兵訴訟
全国12カ所のイラク派兵差し止め違憲訴訟。各地の状況をまとめました。(本紙調べ)
■自衛隊イラク派兵差止北海道訴訟
箕輪登元郵政大臣に続き原告32人が追加提訴。12月5日に第9回口頭弁論
・連絡先=北海道合同法律事務所内
電話011(231)1888、ファクス011(231)1785
■自衛隊イラク派遣違憲仙台訴訟
原告3人の派兵差し止め訴訟と原告10人の住民訴訟の二本立て
差止訴訟は12月20日に第5回口頭弁論
住民訴訟は12月6日に第4回口頭弁論
・連絡先=吉岡和弘弁護団事務局長
電話022(214)0550、ファクス022(214)0551
■イラク派兵・違憲訴訟の会 栃木
原告47人、06年3月16日に第5回口頭弁論
・連絡先=山口司郎事務局長
電話・ファクス0287(43)5068
■イラク派兵違憲訴訟の会・東京
13の部で訴訟の原告が個別に口頭弁論。10月14日に43部で不当判決。06年1月16日に6部、2月14日に45部で判決
・連絡先=同会事務局・未来研究所気付
電話・ファクス03(3368)1718=月・水・金の13時―17時
■「派兵は決定的違憲」市民訴訟の会・山梨
10月25日、甲府地裁は原告283人の訴えを門前払いする不当判決
・連絡先=同会事務局
電話・ファクス0551(25)4500
■イラク自衛隊派兵違憲裁判の会・静岡
原告250人、06年1月27日に第6回口頭弁論。憲法学者山内敏弘氏の証人尋問実施が決定
・連絡先=同会事務局
電話・ファクス054(263)0989
■自衛隊イラク派兵差止訴訟・名古屋
原告3251人(5次まで)、9月9日の第6回口頭弁論で審理の公平性を欠くとして裁判長の回避を要求。06年1月13日に第7回弁論
・連絡先=名古屋学生青年センター内
電話052(781)0165、ファクス052(781)4334
■自衛隊イラク派遣に反対する訴訟・関西
原告1045人、2回の証人尋問を実現し、年明けには原告本人尋問の実現めざす
・連絡先=イラク派兵差止裁判をすすめる会
電話06(6946)4910、ファクス06(6945)0691
■イラク派兵費用差止め関西本人訴訟
原告36人、9月8日・原告の訴えを退ける不当判決。原告は大阪高裁に控訴
・連絡先=派兵反対関西ゼニカネ訴訟の会
電話06(6583)5549、ファクス06(6583)5534
■やめて!イラク派兵・京都訴訟の会
原告347人、11月24日に18人が第3次訴訟。12月1日に第3回口頭弁論
・連絡先=同会事務局・京都法律事務所内
電話075(256)1881、ファクス075(231)8506
■自衛隊イラク派兵差止訴訟おかやまの会
原告217人、第1次訴訟が11月16日に第3回口頭弁論、第2次訴訟が11月30日に第1回口頭弁論。第3次訴訟を準備中
・連絡先=同会事務局
電話086(242)5244(光吉さん)、ファクス086(232)4555
■自衛隊イラク派兵違憲訴訟の会・熊本
原告46人、06年1月27日に第9回口頭弁論。派兵部隊の自衛隊西部方面総監部への要請行動も
・連絡先=同会事務局
電話096(366)0447、ファクス096(363)5402