2005年10月31日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

学童保育

運営基準づくりで変わる

「狭い、汚い、うるさい」返上へ

外遊び場の確保、入りたいトイレ


 「おかえりー」−指導員が温かく迎える学童保育は、放課後の子どもたちの居場所です。埼玉県は、都道府県レベルで初めて学童保育の面積・定員・指導員体制などの運営基準「埼玉県放課後児童クラブ運営基準」をつくりました。行政と現場の連携が、埼玉のとりくみの特徴です。「運営基準」づくりをすすめる石川からのリポートとともに紹介します。


■現場、県が話し合い改善めざす土台に 施設改修に県が半額補助

■埼 玉

 埼玉県は、地域の父母ら市民の運営による学童保育設置運動の伝統があり、東京都に次いで一九七三年度から学童保育に対する県単独補助事業が開始されました。日本共産党県議団が議会で取り上げた障害児担当指導員補助も全国に先がけて実現、養護学校学童保育補助も実施しています。

■「信頼の産物」

 埼玉県学童保育連絡協議会(県連協)は、県交渉とは別に、現場の声をていねいに伝える話し合いを積み重ね、施策の実現をかちとってきました。「運営基準」作成にあたっても、現場の声が八割方、反映されました。県連協の森川鉄雄事務局次長は「もっともよく現場を知るわれわれ専門団体と県の信頼関係の産物。運営基準をもとに今後も話し合いながら、改善を求めたい」と話します。

 運営基準作成にたずさわった県健康福祉部子育て支援課の小峰弘明主幹は「県連協の方と知恵を出し合ってきました。私も共働き家庭で(学童に)お世話になり助かりました」と笑顔で話します。国の少子化対策が功を奏さないなか、県として、次世代の仕事と家庭の両立支援を図ることを重視しているのです。

■国の基準ぜひ

 「保育園卒園後、学童に入れなければ子ども一人で留守番させることになり親として不安。働きやすく子育てしやすい環境を整備することが大切です。『現状と基準が合っていない』との声もあるが、基準をつくったことで底上げをめざしています。一カ所七十人もの詰め込みや待機児童を解消したい」と小峰さん。

 基準がなければ「充実をめざす」とあいまいに片付けられるが、基準と照らしてどこが足りないのか予算要望もしやすくなりました。施設改修を県が半額補助する「わがまち子育て総合支援自主事業」の対象にもしています。

 小峰さんは「実施主体は市町村にあり強制はできないが、県内全市町村の実態をホームページ上で公開しているので市民のみなさんの運動に生かしてほしい。国の基準をぜひつくってもらいたい」といいます。

■きびしい運営

 現場の反応はどうか? NPO所沢市学童クラブの会は市から委託され市内二十五カ所の学童を運営しています。小学六年生の長女を通わせている会長の光本信成さん(40)は「運営基準ができたのはいいことだが実効あるものにするため市も県もきちんと予算措置をしてほしい」と訴えます。

 「学童の指導員は、子どもたちの話をよく聞いてくれて心と体のケアをしてくれる。継続的に成長を見守ってもらうために常勤職員が必要」と光本さん。市からの委託料は約45%で同会には約一億八千万円の補助。でも毎年、児童数が六十人も増えつづけ指導員を増員しているのに委託料は横ばいのために厳しい運営を迫られています。月額一万六千八百円の利用料を父母が負担しています。和光市や狭山市の二倍です。「せめて一万円以内にしてほしい」と委託料の増額、整備・充実を求める署名運動を三年連続ですすめています。光本さんは「市は昨年の国体の際、老朽化していない体育館を六十九億円かけて建て替えるなどのハコモノ行政をすすめる一方、『予算がない』と要望を切り捨てる」と怒ります。

 同NPO事務局次長で学童保育指導員の経験が長い小暮健一・全日本建設交運一般労働組合全国学童保育部会副部会長は、同労組で九五年にスウェーデン、デンマーク、ドイツを訪問し学童保育を調査、「骨格をつくって実際を高めていくための運営基準が必要だと痛感した」といいます。視察後、同部会で『基準の提言』を作成しました。

 小暮さんは七月に市職員と一緒に三日間かけて施設点検し、運営基準を尊重して建て替えが一カ所決まりました。県の運営基準で注目したのは指導員の職務について一定示したことと男女別トイレと外遊びの確保。「子どもはガマンしてしまうことが多いから。入りたくなるトイレは生活する場としての学童には重要。遊び盛りの子どもたちの外遊びスペースも切実です。子どもの権利条約に沿ってよりよい環境を整備すべきです」と話します。(浜島のぞみ)


■親、現場の運動実り、全国2番目の制定へ 施設ごとのバラつき解消に期待

■石 川

 今年八月、石川県が放課後児童クラブ「運営基準(案)」を発表しました。公開して意見聴取し、十月末までに成文化する予定です。「運営基準」の策定は、埼玉県に続いて全国二番目です。

 これは、石川県学童保育連絡協議会を中心に学童保育にかかわる、親、指導員の長年にわたる運動の積み重ねや、実績をもとに要望し続けてきたのが実現したものです。

 一九九八年法制化を機に金沢市学童保育連絡協議会が「私たちが望む学童保育の姿」を発表し、金沢市に学童保育の質的充実を求めました。子どもたちによりよい放課後生活を保障しようと考え出したこの文書は、石川県の改善運動の基本となりました。これを基礎に二〇〇四年には、県の連絡協議会として「石川県における学童保育の最低基準」を作成し、県にこの中身で最低基準を策定するよう提言しました。

■100人超6つも

 働いている親たちが、放課後をどう過ごさせるかと悩みつくりあげてきた学童保育。行政に補助を求め、地域に理解を求め、施設を確保してきたものの基準がないため、狭い、汚い、うるさいが合言葉になるほど劣悪な状態が長く続いています。この数年で三倍近く増加した学童保育も、公設公営、公設民営、民設民営とさまざまな形態、開設日、開設時間もいろいろ、土曜日に開かないクラブがあるなど、クラブによってばらばらです。

 また小学校区に一カ所しかないところが多く、今年度は、一クラブ当たり三十六人以上の大規模クラブが全体の51%を占め、百人を超すクラブも六カ所存在します。昼間子どもを安全に見ているだけと安易に指導員を引き受けたものの、責任の重さ、重要な仕事であるにもかかわらず、あまりの労働条件の厳しさや、施設条件の劣悪さにあきれて、長続きしない現実もあります。

■さらに運動も

 県が「運営基準」を設けるとなれば、県下の学童保育の質を大きく向上させる推進力になると大きな期待をしています。しかし、案は決して十分なものではなく、指導員の配置についても児童五人から七十人を二人で見るという、およそ現実的ではない記述もあり、私たちの提言に沿ったものへ改善運動を継続させなければなりません。

 (石川県学童保育連絡協議会会長 荒木田 成=あらきだ しげ)


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