2005年10月31日(月)「しんぶん赤旗」
義務教育費
国庫負担「廃止」は教育条件引き下げる
小中学校の教職員の給与の半分を国がもつ義務教育費国庫負担制度。小泉首相は、文科相の諮問機関である中央教育審議会(鳥居泰彦会長)の「制度維持」の最終答申(十月二十六日)を無視し、廃止・削減の方向です。憲法が定める「無償の義務教育」が岐路に立たされています。
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公立義務教育諸学校の教職員の給与は年間約五兆円。半分を国、半分を都道府県が負担しています。県にすべて負担させると、財政力の弱い県では貧弱な教育となってしまうため、国の二分の一負担となっています。戦後の一時期、全額地方負担としたことで格差が広がり、現在の制度に戻した経過があります。国の負担金は他に流用できません。
小泉首相が支持する、全国知事会など地方六団体案は、(1)国庫負担金を廃止して全額県負担にする、(2)国庫負担廃止で生じる穴は、国民が国におさめている所得税の一部を住民税にきりかえ県の収入にしてうめる(税源移譲)というものです。「三位一体改革」の名で小泉内閣が推進する、国の補助金削減、地方への税源移譲にそったものです。
しかし、この六団体案では、県民所得の低い県は穴がうまりません(高い県は超過)。四十道府県が財源不足となり、もっとも減る高知県では45・8%減の見込みです。
総務省は、この不足分は地方交付税(地方自治体の財源を確保し、財政力の格差を調整するため国税の一定割合を地方に再配分する税金)でうめるから大丈夫と説明しました。
しかし、ここに死角があります。「三位一体改革」の柱として地方交付税総額の縮小が据えられていることです。それをふまえると、次のような事態が想定されます。
A県の場合。三百億円の国庫負担金が廃止となり、税源移譲で二百億円、地方交付税で百億円があてがわれる。ところが、県財政全体では総額千八百億円あった地方交付税が百億円削減となり、深刻な財政難に。一般財源のなかで教職員用としていたお金から二十億円を他にまわし、県独自の少人数学級は中止――。
中教審でも、この点が問題になりましたが、地方六団体代表の三人の委員は「流用しない。信じてほしい」の一点張り。
文科省は一般財源化した教材費等で「流用」がおき、〇三年度では基準額の75・7%にまで落ちこんでいるデータを示しました。自治体関係者の委員は「まわりからこの金を公共事業に回せないのかと言われるが、(使い道が決められた)国庫負担金だから不可能と説明している」と発言。税源移譲されれば、「流用」防止の歯止めがなくなる実情が浮き彫りになりました。
財政力の弱い地方を中心に、教職員の給与負担という義務教育の大黒柱が傾くことが、現実味を帯びはじめています。
■「改革」の名で教員削減まで
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教育条件をほりくずす動きは、負担金制度問題にとどまりません。
“小泉改革の司令塔”といわれる経済財政諮問会議(議長は首相)は、今年に入り「小さな政府」のための公務員人件費の削減を「改革」の重要事項に位置づけています。ここでも教育がやり玉にあがっています。
六月二日の同会議では、中教審の鳥居泰彦会長、中山成彬文科相をよび、教員が増える少人数学級は認められないと、一度は少人数学級をすすめようとした文科省の姿勢をかえさせます。十月二十一日の会議では「特に、人数の多い教職員について、少なくとも改善増をせず、自然減以上の純減が必要」としました。
財務省の財政制度等審議会部会も「義務教育職員の給与水準を見直し、新たな定数改善計画は策定すべきでない」と歩調をあわせています。五十年近く続いた定数改善計画をなくす深刻な内容です。
さらに同部会は「教科書の単価の大幅削減、中長期的に有償制、貸与制へ」「育英奨学事業の拡大傾向に歯止めをかける」とのべ、国からの教育費カットのメニューを並べました。
日本の教育予算は国際的に水準が低く(グラフ2)、学級定員などの条件も劣悪です。「小さな政府」をかかげる小泉改革は、教育条件をさらに落とすことに照準をあてはじめているといえます。