2005年10月29日(土)「しんぶん赤旗」

自民党改憲草案

捨てられた「不戦の誓い」

人権は「公益」に従属


 「日本国民は…政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」。日本国憲法前文のこの文言が、自民党の「新憲法草案」前文からは、すっぽり削り落とされました。

 侵略戦争の反省のうえにたって、戦争放棄・戦力不保持を宣言した憲法の平和原則そのものがむざんに切り捨てられているのです。

 自民党は九条一項をそのままの形に残すことで「平和主義の理念は残した」と説明します。しかし、侵略戦争の反省を欠いて平和主義の実質が保たれると言うのでしょうか。

 しかも、米国から「日米同盟の妨げ」(アーミテージ前国務副長官)と敵視されてきた九条二項は削除され、代わりに「自衛軍の保持」が明記されました。政府はこれまで九条二項があるために、(1)武力行使の目的をもった海外派兵(2)集団的自衛権の行使(3)国連の武力活動への参加―が許されないとしてきました。九条二項を削除するのは、こうした「障害物」を取り除き、海外で米軍と自由に軍事作戦が行えるようにすることに最大の眼目があります。

 「海外で戦争をする国」づくりのために、自民党改憲案は憲法のあり方そのものを逆転させようとしています。

 従来、憲法は国の権力を制限して国民の権利・自由を守ることを目的とするものとされてきました。たとえば、日本国憲法一二条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」としています。これは国家権力に人権侵害をさせないよう政府に命じ、そのために国民が努力するのだとされてきました。仮に人権侵害があった場合は、「基本的人権の不可侵」(九七条)とともに抵抗権の根拠ともされてきました。

 ところが、今回の改憲案では、一二条の文言のあとに、「自由及び権利には責任及び義務が伴う」こと、権利行使は「常に公益及び公の秩序に反しないように」する「責務」を書き込みました。これでは、自由と権利は「公益」「公の秩序」に従属するものになり、憲法が国民に「責任及び義務」を守らせるものへ転化してしまいます。

 前文でも、「日本国民は、帰属する国や社会を…自ら支え守る責務」を盛りこみました。

 こうした条項が、九条改悪と一体となったとき、日本は「海外で戦争をする国」として国民の自由と権利は抑圧され、戦争動員体制がつくられてしまうことになりかねません。

 米国の先制攻撃戦略に付き従い、憲法のあり方まで逆転させる自民党改憲案は日本と国民の未来を奪いかねない内容です。(藤田健)


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