2005年9月19日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

絵本は“友だち”

夢育つ町づくり


 絵本をテーマに夢のある町おこし、町づくりをすすめる動きが広がり始めています。親子・地域ぐるみで絵本の“友だち”になり、「子どもたちを豊かに育てよう」という取り組み。そのなかで、北海道剣淵町(けんぶちちょう)と青森県三戸町(さんのへまち)の取り組みを紹介します。

■子どもに本当の豊かさを/お父さんたちが動く

■「絵本の里大賞」有名に/北海道・剣淵町

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 剣淵町は旭川市から北へ約五十キロ、北緯四四度にあり、イソフラボンの含有がとくに多い大豆がとれる地域です。夏は三〇度、冬はマイナス三〇度にもなり、日中と夜の温度差も大きい名寄盆地の南端で、豊富な農産物が栽培されている純農村地帯です。

 昭和三十年代初期には一万人近くまであった人口が、現在は四千人を割り込むまで減少。危機感を募らせた商工会の若い人たちが、ある講演で出された、「ヨーロッパの田舎と風景が似ている剣淵で、絵本の原画を集めた絵本美術館をつくってはどうか?」という話に飛びつきました。

 「絵本の町づくりをしたい」という思いを募らせ、「剣淵の未来は、やがて町を支えてゆくことになる子どもたちに、どれだけ本当の豊かさを与えてやれるかで決まる」と気付きました。普段、週刊誌しか手にしたことのなかった若いお父さんたちが、まじめに絵本を手に語り出したのです。

 お父さんたちが町とかけあい、古い役場の庁舎を活動の拠点として提供してもらい、お母さんたちにも声をかけ、「けんぶち絵本の里を創ろう会」をつくりました。

 絵本の里づくりが本格的に始まると、私たち農業者の間には、「絵本の里にふさわしい農業をやろう」という話が持ち上がり、農薬や化学肥料に頼らない、命にやさしい農業を目的にした「剣淵・生命を育てる大地の会」が生まれました。

 この絵本の里づくりも、西原学園をなくしてはできなかったでしょう。一九八〇年に、廃校になった校舎を利用して「精神薄弱者更生施設・西原学園」ができ、その横井寿之園長が、「障害を持った人たちが、普通に街中で暮らしていけるように」という強い思いで、町づくりの行事などにも積極的にかかわりました。農薬を使わない作物づくりを実践し、都会へ宅配発送するなど、農業者の発想を強力に後押ししたのです。

 絵本の里づくりは、町としての取り組みになり、財源助成なども含め、行政や町議会も全面的に後押ししています。

 女性を中心にした読み聞かせのほか、「絵本の里大賞」は全国的に有名になりました。全国から応募された絵本に、来館者の投票で「大賞」を決めるのです。冬には賞を取った絵本の原画展、「大賞の表彰と関係する原画展」を開きます。

 これまで旧役場庁舎を改造して使っていた「絵本の館」も老朽化がひどく、二〇〇四年に新築の「館」とバトンタッチ。蔵書もそろい、訪れる人びとに心のやすらぎとうるおいを与えています。

 いま「絵本の里」で育った子どもたちが、若い主婦になって、また「館」の職員になってもどってきています。「宝物は一朝一夕にはできない、子どもは長い目で育てよう」と、話し合っています。

 (池田伊三男・けんぶち絵本の里を創ろう会副会長)

■赤ちゃんにプレゼント/親子の読み聞かせに助言

■町の事業に理解広がる/青森・三戸町

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 三戸町は、青森県南部にあり、味のよい「さんのへりんご」や桜の名所として知られています。人口約一万三千人の文化と歴史の町です。

 平安時代に源頼朝から奥州征伐の戦功で拝領した南部領地の拠点、南部藩発祥地の歴史を持っています。いまは三戸城の跡地が城山公園となり、約三千本の桜が咲き、今年は例年の二倍以上の約十五万人の来場者がありました。

 町は町民憲章の「健康・教育・福祉」の町づくりをめざし、平成十三年(二〇〇一年)から町の事業として、「子どもがよりよい絵本と出会い、親子がふれあい、ことばを育み、情緒豊かに育つこと」を目的に、「絵本の町づくり事業」を実施しています。

 「11ぴきのねこ」で知られ、三戸町出身の絵本作家で名誉町民になっている故・馬場のぼるさんの作品は、年月が動いても、じわじわと子どもたちに広がっています。その作品を通して「町の子どもたちに絵本のすばらしさを伝えていきたい」「絵本の役割はつい忘れられがちだが、その役割は大きなものがある」と議論され、取り組みがスタートしました。

 三戸町総合福祉センター「ふくじゅそう」を拠点にした「のぼたん文庫」はいま、二千冊の絵本蔵書(三千冊目標)があります。生後二―三カ月の赤ちゃんには絵本プレゼントがあります。馬場作品の絵本シリーズから一冊を選んでもらい、久慈豊町長のメッセージを入れ、毎月「絵本プレゼントの日」(年間約百冊)を持っています。

 母親に、絵本の読み聞かせのアドバイス、産後の栄養指導や子育ての相談などもしながら、絵本の読み聞かせを町内八児童施設や小学校などで、週三回の計画で実施しています。いまでは、こうした事業が少しずつ理解され、老人クラブからも要請があります。

 絵本講演会も年二回ほど開き、11ぴきのねこバスツアーやビッグ紙芝居、クリスマス絵本展なども実施中です。

 最近では、プレゼントを受けた親子のOB交歓会をおこないながら、家庭での親子読み聞かせを持続していくための環境づくりにも力を入れています。高校生や一般の人の読み聞かせボランティアの確保と育成が、今後の発展に欠かせない課題だと位置づけています。

 この運動が多くの町民に広がり、三戸町の財産になっていくよう努力しているところです。

 (大向信市・三戸町議)


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