2005年7月18日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

川に遊び親しむ

ダム許さず自然守る


 夏は川遊びの季節。自然の恵みをもたらす川の魅力をとらえ、必要のないダム建設に反対するなど川を守り生かす運動をすすめる北海道と佐賀県の二つの地域からのリポートを紹介します。

■学習会、ヤマメ釣りで交流 北海道サンル川

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 サンル川は、北海道遺産に指定された天塩(てしお)川流域、名寄川の支流に位置し、下川町からオホーツク海側にある雄武町に抜ける道道60号沿いに流れています。

 このサンル川を散策すると、カッコウ、カワラヒワなど数々の野鳥たちが、澄み切ったさわやかな空気と針葉樹林を舞台に美しい音色を競演し、何ものにも変えがたい自然の恵みを体いっぱいに浴びる場に出会うことができます。

■森林形態が多彩

 幕末に蝦夷地(えぞち、現在の北海道)など生涯を通じて踏査に没頭した冒険家、松浦武四郎が安政四年(一八五七年)にサンル川の調査に入ったことが天塩川日誌に記載されています。「枝葉陰深くして天日を漏らさず」と書き残したように、この一帯はうっそうとした原生林に覆われていました。現在も流域の全体を森林が占めています。

 サンル川流域には大雪山や知床のような広大な原生的な自然こそありませんが、わずかに残された原生的な森林(ピヤシリ山ろく、奥サンルなど)をはじめ、高山植物群(ピヤシリ山頂付近)、沢伐採後の天然林、針葉樹の人口林、などなど低温帯から亜熱帯にかけたほとんどの森林形態が存在します。

 一九九六年には、アカエゾマツ、ダケカンバなどの自然林が生える標高一七〇メートル周辺で、八〇〇メートルから一、〇〇〇メートルの高山にしか生えない亜高山性のコケモモ、ウサギシダ、コキンバイなどの植物群が発見されています。国の天然記念物に指定され、日本では北海道と本州の一部しか確認されていない、原生林に生息するクマゲラも確認されています。

■サクラマス産卵

 このように再生力盛んな森林と砂防ダムなど人工構造物が極めて少ないことで水生植物の多様さと、清流をつくりだしており、サンル川上流は、サクラマスたちの北海道有数の産卵場所となっています。

 いま、日本でも有数の自然が残され、清流豊かなこのサンル川にダム建設工事が進められています。一度破壊されてしまうと、失われた自然は戻りません。これほど愚かなことはありません。

 「下川自然を考える会」の方々は、「二〇〇五年をサンルの自然に学び、親しむ年」と位置づけ、「サンルダム建設で失うもの」などをテーマにした泊まり込み学習交流会、サンル川でのヤマメ釣り体験、秋には「きのこ狩り」などさまざまな活動を展開しています。

 サンルの森と清流をしっかりと守り、水辺で野鳥やチョウなどを観察する。渓流で釣りをする、山の木の実をとって食べる。わき水を探す。おとなたちが未来をになう子どもたちと一緒に自然に親しむ。こんなことこそ求められているのではないでしょうか。(上川地区委員会 猿子昌正副委員長)


■毎年8月にタライ競漕 佐賀・城原川

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 佐賀県の城原川(じょうばるがわ)は、「筑紫次郎」の愛称で呼ばれる筑後川に河口で合流する全長約二十四キロの川です。源流は、佐賀・福岡の県境に東西六十キロにわたって連なる背振山地。この最高峰の背振山(標高一、〇五五メートル)を頂に、降った雨水は、城原川と東側を流れる田手川などを通り、ほぼ直線に有明海に向かいます。

■干潟はぐくむ

 城原川は約五十年前に水害が起こりました。平地より川底が高い「天井川」と呼ばれ、昔から洪水やはんらんを恐れてきました。その一方、背振山系のふもとから有明海までに広がる穀倉地帯の佐賀平野に豊かな実りをもたらし、人々のくらしを支えてきました。

 城原川は、ダムも、近代的なコンクリートの可動堰(せき)もない、自然の豊かさと景観を残しています。雨は土砂や、海の栄養となる腐葉土を有明海に運び、広大な干潟にすむゴカイや貝類など底生動物を育てます。これを餌とするハマシギやチドリ類など、国営の干拓工事で諫早湾干潟の餌場をなくした渡り鳥の体力を回復させ、生態系を保ちます。

 このいとなみは悠久の時を経て自然の恵みをはぐくんできました。先人たちは自然取水で、米など農産物を耕作する肥沃(ひよく)な大地の恵みに変えてきました。洪水を抑え「自然と共生」する伝統的な治水技術を発展させました。

■野越しや草堰

 これは、約四百年前から城原川に今も九つが残る「野越し」や、十三の「草堰(せき)」などに見られます。梅雨どきや台風時には水かさが増します。「野越し」は越流堤の意味で洪水時、堤防の一方を低く流れるようにし、水路や遊水地に落とし水の力を弱め下流への被害を少なくするもの。「草堰」は絶対量が不足する利水の利害をはかるため、棒くいや柳、竹などに藁(わら)を絡ませたもので、適度の水が流れ、洪水時に崩れ、川底に土砂がたまりにくいものになっています。

 百年ほど前まで、この仁比山地区(同町)一帯では約六十基の大水車群があり、精米・製粉などに城原川の水が利用されていました。今はなく、同町の観光で作った「遊学舘」でこの名残を知ることができます。

 県はこの城原川の上流に国営の(穴あき)治水ダム建設を表明。ダム建設に反対する下流の千代田町では、住民らが魅力ある川を残そうと「ふるさとの川、城原川を考える会」を結成。会長の内川修治・千代田町長は「川を守ることは、山と平野を結びつける。自然との共生をはかりたい」と話します。

 千代田町では城原川に親しむイベント「堀デーちよだハンギー競漕」が毎年八月に開かれます。ハンギーとは、農業用水池のクリークで、群生する浮き葉の一年草のヒシの実を採るための大きなタライです。

 「川とともに生きるくらしと文化、身近な自然を将来の子どもたちに残したい」―考える会の人たちの共通の思いです。(佐賀県・平川明宏)


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