2005年5月8日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集

障害者自立支援法案

定率負担導入で…


 国会で審議が始まった「障害者自立支援法案」。これまで応能負担だった障害者福祉サービスの利用者負担に定率(応益)負担を導入します。法案全体のおもなポイントは別項のとおりですが、とくに問題になっているのは、これまでの障害者施策を大きく転換し、障害者の生活を破壊する大幅な負担増となることです。全国約六百万人の障害者とその家族に大きな影響を与える内容をみると―。(川田博子)




法案のおもなポイント

 ■これまで障害種別ごとだった身体、知的、精神関係の障害者福祉サービスを一元化し提供する

 ■利用料は「応能負担」から「定率(応益)負担」へ

 ■福祉施設を大きく「日中活動の場」(生活療護・訓練施設など)と「住まいの場」(グループホーム、施設入所など)に分けて、それぞれの機能を再編成

 ■公平なサービス利用のための手続きや基準の透明化(ケアマネジャーや審査会の制度化など)

 ■公費負担医療制度を改悪


サービス利用料は原則一割

写真
障害者自立支援法を考える大坂のつどい=4月14日、大阪市

 現行の障害者支援費制度では、障害者が福祉サービスを利用する場合、所得に応じて利用料を負担する「応能負担」の仕組みになっています(表1、2参照)。これが原則、利用料の一割を負担することになります(二〇〇六年一月から実施予定)。

 ▽ホームヘルプサービスは

 たとえば障害者が家事援助や身体介護、移動介護などホームヘルプサービス(訪問介護)を利用する場合は、現行では、所得に応じてゼロ円から全額の負担です。現在は、利用者の95%が負担はゼロです。

 法案が成立した場合、厚生労働省の試算では、約千円から約四千円へ、四倍の負担になるとされています。

 ▽通所施設・入所施設は

 障害者が通所施設や入所施設を利用する場合も、現行では、所得に応じてゼロから五万三千円の負担です。現在は、通所施設利用者の95%が負担はゼロです。法案が成立した場合、同試算では、約千円から約一万九千円へ、十九倍もの負担になります。

 入所施設利用者は、原則、利用料の一割と食費の負担、さらに、水光熱費と個室利用料(希望した場合)を負担しなければならなくなります。

 厚労省のモデル試算(十八歳以上の場合)では、約三万五千円から約六万一千円へ、一・七倍の負担となります。

 これら以外に、デイケアやショートステイを利用している場合は、その利用料の一割と食費も負担することになります。

 あまりの負担の急増に、厚労省は低所得の障害者(住民税非課税世帯)を対象に、負担を軽減する措置を講じる―としていますが、「これでは利用を控えなければならない」との声が出ています。

公費負担医療制度を改悪

 法案は、心臓病や腎臓病、聴覚や視覚障害の治療に欠かせない育成医療(十八歳未満)、更生医療(十八歳以上)=注参照、精神障害者通院医療費公費負担など、障害を除去・軽減する支えとなってきた公費負担医療制度も、改悪します(二〇〇五年十月実施予定、表3参照)。

 育成医療・更生医療では、現行は、所得に応じた医療費負担です。入院時の食費は公費で負担され、自己負担はありません。

 改悪後は、原則、医療費の一割と食費を負担することになります。いま育成医療の対象となっている人の負担を軽減する経過措置も検討されていますが、これも三年後に見直すとしています。

 うつ病や統合失調症など精神障害者やてんかん患者の通院医療費公費負担制度は、現行では、医療費の5%の負担です。改悪後は、原則、医療費の一割負担となります。

 大幅な負担増が受診抑制につながり、健康破壊や、いのちの危険も招きかねないと、危ぐされています。

これまでの施設体系再編

 法案は、これまでの施設体系を再編することも示しています。現行の障害種別の施設利用の仕組みを変え、「日中活動の場」と「住まいの場」の二体系になります。立ち遅れている量的な整備計画はない一方で、空き教室の利用など施設設置基準が緩和されます。

 小規模作業所は、法定化される「地域活動支援センター事業」へ移行しやすくなります。しかし市町村の裁量事業であり、国の補助金削減のもと、一層の格差拡大がすすみかねません。定率一割の負担は、就労継続支援事業など、働きに行く場合にも適用されます。

表1
 
ホームヘルプサービス
障害者支援費制度(現行) 障害者自立支援法案
生活保護世帯 0円 0円
住民税非課税世帯(年収80万円未満) 0円 サービス利用料の1割
(上限月額15000円)
住民税非課税世帯 0円 同1割
(上限月額24600円)
住民税課税世帯 上限1100円〜費用全額(所得に応じて) 同1割
(上限月額40200円)

表2
 
入所施設・通所施設
障害者支援費制度(現行) 障害者自立支援法案
生活保護世帯 0円 0円
住民税非課税世帯(年収80万円未満) 0円〜53000円(所得に応じて) 利用料の1割(上限月額15000円)+食費
住民税非課税世帯 同1割(上限月額24600円)+食費
住民税課税世帯 同1割(上限月額40200円)+食費
(注)入所の場合は水光熱費、個室利用料(希望した場合)も負担

表3
 
現  行 障害者自立支援法案
精 神 育成医療 更生医療
生活保護世帯 医療費の5% 0円 0円 0円
住民税非課税世帯(年収80万円未満) 同5% 2200円※ 0円 医療費の1割(上限2500円)+食費
住民税非課税世帯 同5% 2200円※ 0円 同1割(上限5000円)+食費
住民税課税世帯 同5% 4500円〜44000円(所得に応じて)※ 同1割(重度かつ継続は当面、上限10000円)+食費
一定所得以上の世帯(所得税年額30万円以上) 同5% 44000円〜給付対象外(所得に応じて)※ 同3割(重度かつ継続は当面、1割で上限20000円程度)+食費
※は入院の場合の負担額。通院はこの半額

 育成医療 十八歳未満が対象。障害がある児童、または病気を放置することによって、将来、障害が残ると認められる児童に対して、手術や治療等により障害を軽減または除去するための医療。

 更生医療 十八歳以上が対象。身体障害者の障害を軽減して、日常生活能力、職業能力を回復・改善するために必要な医療。


重度の障害者ほど負担増に

 定率負担の仕組みは、サービスを利用すれば利用するほど、自己負担が増えていく仕組みです。障害が重く、より多くの支援・サービスが必要となる障害者ほど、自己負担増となります。

 障害者やその家族は、大幅な負担増は、健康を守り生活していくうえで欠かせない福祉サービスの利用抑制や医療機関への受診抑制につながると、懸念の声をあげています。

 障害者の多くは、収入が障害基礎年金(一級月額約八万三千円、二級月額約六万六千円)のみで、住民税非課税世帯がほとんどです。無年金の人も少なくありません。

 障害者の雇用率も改善せず、不況のなか、厳しい状況となっています。車での移動など、障害者ならではの特別な支出も必要です。

 法案が低所得の障害者を対象とした負担軽減措置の認定で、「同一生計」世帯の収入で判断する―としていることも問題です。法案は、自立支援をうたいながら、障害当事者の費用負担を強化し、障害者が財政的に家族や扶養義務者に依存せざるを得ない内容になっています。

法案の背景には

 この法案が持ち出された背景には、障害者支援費制度開始後の福祉サービス利用者の急増による二〇〇三年度、〇四年度の大幅な予算不足があります。「まず財政削減ありき」から生まれた法案です。年金制度改悪や介護保険法の見直しなど一連の国民負担増を前提とした社会保障制度改悪路線のなかで、増大する障害者福祉サービスの費用を国民に負担させ、将来は介護保険制度に統合―との狙いがあります。

 いま必要なのは、やっと広がり始めた障害者支援とその枠組みをどう大きくしていくかという視点での改革です。障害者がいつでもどこでも安心してサービスを受けられるようにしなければなりません。

 障害者、その家族がつくる日本障害者協議会、日本身体障害者団体連合会、全日本手をつなぐ育成会、全国精神障害者家族会連合会など多くの障害者団体は、利用者負担の見直し、精神障害者通院医療費公費負担制度の継続などを求めています。


日本共産党の態度

 日本共産党は、「定率(応益)負担」導入は障害者福祉と相いれないと法案に反対。参院予算委員会でこの問題を取り上げて質問し、世帯所得の仕組みの削除を要求しました。

 政府が狙う財政削減先にありきの障害者福祉制度と介護保険制度の統合にも反対しています。

12日・東京でシンポ開催

 日本障害者協議会は十二日、東京・千代田区の日比谷公会堂と日比谷野外音楽堂で、「『障害者自立支援法』を考えるみんなのフォーラム」を開きます(日本身体障害者団体連合会、全日本手をつなぐ育成会、全国精神障害者家族会連合会、DPI日本会議など十三団体が協賛)。午前十時から午後三時半まで、利用者負担見直しを求める障害者や家族が声を伝え、政党や有識者によるシンポジウムなどを行います。



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