2005年1月10日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

イラクでの無差別攻撃 自衛隊の派兵1年延長

憲法9条再生と順守のために

国民として法廷に問う


 イラク国民への無差別攻撃と派兵―いま、厳しく問われています。世界の大きな流れに逆らって、小泉首相は自衛隊の派兵一年延長を強行。国民の強い批判を受けています。草の根の運動で広がるイラクへの自衛隊派兵差し止め・違憲訴訟の現状を紹介します。


 「憲法九条違反の自衛隊派遣は直ちにやめよ」―北海道を皮切りに全国に広がっているイラク派兵差し止め訴訟。元自民党国会議員・箕輪登氏が原告となっている北海道訴訟の弁護団事務局長として、また、全国弁護団連絡会議の中心として活動している佐藤博文弁護士に話を聞きました。聞き手 北海道・岡田かずさ記者

弁護士 佐藤博文さんに聞く

 ―昨年一月に北海道で始まって以来、裁判が全国に広がっていますね。

 佐藤 現在、八つの裁判所で九つの裁判がおこなわれています。戦後自民党政府の「専守防衛」政策を体現してきた箕輪登さんが提訴した北海道訴訟は、イラク派兵が政府の公式見解にも反していることを象徴的に示しています。

 名古屋訴訟は、元レバノン大使の天木直人さんらも加わり全国から三千四十五人が原告になり、大阪訴訟は「九条の会」の小田実さん、鶴見俊輔さんらを筆頭に八百四十一人が原告となっています。

 東京訴訟は、軍事問題専門家の前田哲男さんを最初に毎日一人ずつ提訴し、イラクで拘束されたジャーナリスト渡辺修孝さんも加わっています。大阪では派兵費用の差し止めを求めた本人訴訟もおこなわれており、岡山、熊本、京都は今春提訴予定です。

 ―このように多くの裁判が起こされた理由は何でしょうか。

 佐藤 いまこの瞬間にも憲法九条が破られ、米英の侵略戦争に加担し、多くの犠牲者と惨害を生み出していることです。

 日本が凄惨(せいさん)な戦争を遂行しているというリアリティーと「日本国民として何ができるか」という責任感が、立場や考え方の違いを超え、多くの人々を裁判に結集させていると思います。

 ―裁判は、国際的にも注目されていますね。

 佐藤 昨年十一月にオランダ・ハーグの国際司法裁判所で開かれた国際会議に箕輪さん(代理)と天木さんが招待されました。小泉首相の誤った政策の下で、アラブの人々との平和友好関係を維持し、日本国憲法九条とそれを支える日本国民の存在を示すものとなりました。

 ―裁判の争点と展望についてお話ください。

 佐藤 憲法の番人であるべき裁判所に、イラク派兵は憲法違反である、派兵はやめよと宣言させることが、私たちの目標です。

 しかし国は、私たちの請求根拠である「平和的生存権」について、具体的権利性がないといい、イラク戦争の実態や違法性、「非戦闘地域」に該当するか否かといった事実について一切答弁する必要がない、という態度を取っています。

 まずはこの態度を改めさせ、裁判まで起こした国民の主張に対して答弁させることです。そのうえで、十分な証拠調べを行うことです。今年は、どこの裁判もこのヤマ場を迎えます。

 ―九条の会など憲法改悪反対の運動が広がっていますね。

 佐藤 前述したように、いま現実に憲法九条がこんなにもひどく破られ、現実に多数の犠牲者が出ている、このリアリティーを共有することが、いま最も重要かつ必要なことだと思います。

 そして、イラク派兵の撤退が実現できれば、自衛隊の海外派兵をもくろんでいる改憲勢力に対し、最も有効なダメージを与えることになります。

 昨年十二月、自衛隊官舎にイラク派兵反対のビラをまいた市民活動家三人が住居侵入罪で逮捕・起訴された事件で、東京地裁八王子支部は無罪判決を出しました。実はこの裁判では、奥平康弘東大名誉教授と箕輪登氏が弁護側証人に立っています。九条の会メンバーとイラク派兵差止訴訟原告の連携による見事な勝利だったと思います。


「米軍支持の国でいいのか」

予想こす原告の広がり

関西訴訟

 第一次二十人、第二次四百人、第三次四百二十一人。小田実、鶴見俊輔両氏ら二十人による第一次提訴(昨年四月三十日)以来、自衛隊のイラク派兵差し止めを求め大阪地裁に提訴した原告は、総数八百人を超えました。弁護団も「予想していなかった」という広がりです。十三日には、第四回口頭弁論が開かれます。

 四百五十人が参加した十二月七日の「市民のつどい」(大阪市・中之島公会堂)。友人に誘われ初めて参加した大阪市在住の主婦(44)は、「今までは(政治や社会に)あまり関心がなかったほうです。でも子どもの将来のことなど考えると、何かしなければと思っていた」といいます。

 「イラク派兵差止裁判をすすめる会」世話人代表の田中洋子さん(64)は「感想文などを見ると、四分の一くらいの人がこれまでつながりのなかった人ではないでしょうか」と語ります。訴訟の広がりについて「テレビや新聞に取り上げられたのが大きかったと思います。あわせて、裁判の勝利と九条を守る運動を広げる、という二点を原則としたことで一致点が広がっている」といいます。

 裁判の報道がされると、ホームページのアクセス数がどっと増えました。ホームページを作成している大前治弁護士(33)は「この国のあり方を問いかけよう、というメッセージが届いたのでは。米軍のイラク占領とそれを支持する日本の自衛隊。香田証生さんの事件を見て、『こんな国でいいのか』という思いを、多くの人が抱いていたのではないでしょうか」

 原告の多くが戦争体験者ですが、二十代もいます。第二次提訴で口頭弁論に立った森口尚子さん(27)は、小学生のころ被爆を描いた漫画『はだしのゲン』を見て、戦争はいやだと強烈に思いました。裁判では「一般市民をまきこみ、攻撃を続ける米軍は直ちに攻撃をストップすべきです。そんな米軍に協力を続ける日本はおかしい」と堂々と主張しました。

 田中さんはいいます。「第四次提訴までに千人の原告団をつくりたい。九条を守るための意義あるたたかいになると思っています」関西総局・和田肇記者


各地の訴訟状況

 北海道から始まった訴訟は全国9カ所に広がりました。また、岡山県、熊本県、京都府などで提訴の準備をすすめ、さらに広がる勢いです。(本紙調べ)

 自衛隊イラク派兵差止北海道訴訟

 ・原告は箕輪登元郵政大臣。1月24日に第5回口頭弁論

 ・連絡先=北海道合同法律事務所内

  電話011(231)1888、ファクス011(231)1785

 宮城の自衛隊イラク派兵差止め訴訟

 ・04年12月8日提訴、東北初、原告は写真家の後藤東陽氏ら3人

 ・連絡先=吉岡和弘弁護団事務局長

  電話022(214)0550、ファクス022(214)0551

 イラク派兵違憲訴訟の会・東京

 ・原告100人余、引き続き提訴へ

 ・連絡先=同会事務局

  電話・ファクス03(3368)1718

 イラク派兵・違憲訴訟の会 栃木

 ・04年12月14日提訴、原告は47人(代表杉原弘修氏)

 ・連絡先=山口司郎事務局長

  電話・ファクス0287(43)5068

 「派兵は決定的違憲」市民訴訟の会・山梨

 ・原告225人、1月末に第2次訴訟の予定

 ・連絡先=同会事務局

  電話・ファクス0551(25)4500

 イラク自衛隊派兵違憲裁判の会・静岡

 ・原告217人。3月4日に第3回口頭弁論

 ・連絡先=中川弘氏(原告団長)

  電話054(254)6788、ファクス054(252)7088

 自衛隊イラク派兵差止訴訟・名古屋

 ・原告3045人(第3次訴訟まで)

 ・連絡先=名古屋学生青年センター内

  電話052(781)0165、ファクス052(781)4334

 自衛隊イラク派遣に反対する訴訟・関西

 ・原告841人(第3次訴訟まで)、1月に第4次訴訟を予定

 ・連絡先=イラク派兵差止裁判をすすめる会

  電話06(6946)4910、ファクス06(6945)0691

 イラク派兵費用差止め関西本人訴訟

 ・原告=36人、1月26日に第2回口頭弁論

 ・連絡先=通称「派兵反対関西ゼニカネ訴訟の会」

  電話06(6583)5549、ファクス06(6583)5534



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