2004年6月21日(月)「しんぶん赤旗」
友人 共産党はどうして小泉首相の訪朝を評価したんだい。あんなに小泉内閣を批判してきた党らしくないね?
カタ郎 共産党は「なんでも反対」の党じゃないんだよ。とくに日本の国民の利益にかかわる外交問題では、自民党政府がやることでもいいことはいいというし、積極的な提案もしている。
今回の訪朝も、核・ミサイル問題、拉致問題、植民地支配の問題など包括的に話し合いで解決しようという方向にふたたび動き出したから評価しているんだ。
もともと、日本共産党は早くから拉致問題を含めた日本と北朝鮮との間の問題を、話し合いで解決すべきだと提案してきたんだ。
一九九九年には、不破哲三委員長が北朝鮮と外交交渉のルートを開くべきだと、二度にわたって国会で提案した。そのときは、前年に北朝鮮が発射したミサイルが日本列島を飛び越えた事件があって、一触即発の緊張状態だったんだ。
朝鮮半島で戦争や動乱が起こったら、日本もアジアもたいへんなことになるから、そんな事態は起こさせてはならないというのが共産党の立場なんだ。
友人 不破さんの提案は生かされたのかい?
カタ郎 うん。不破さんの二度目の提案の直後、村山富市元首相がきて「不破さんの提案は大事だと思う」といって、超党派の訪朝団に日本共産党も参加してくれと要請したんだ。
韓国やアメリカの外交筋が“共産党の代表が提案しているのに、日本政府はなぜ何もしないのだ”と働きかけたという話も伝わってきている。
村山訪朝団が無条件で政府間の交渉を早期に再開することで合意した。翌年四月から国交正常化交渉が始まって、一昨年の小泉首相の訪朝につながっていくんだよ。
友人 「共産党は北朝鮮と仲が良く、拉致問題の解決に不熱心だ」という人がいるけれど。
カタ郎 それは大きな誤解だね。事実は正反対だよ。北朝鮮が国際的な無法をはじめたとき、徹底的に批判してきたのが共産党なんだ。
北朝鮮はビルマ(現ミャンマー)の首都ラングーンで韓国大統領一行を狙った爆弾テロ事件(一九八三年)などを次々起こしてきた。日本共産党は、それらを批判し、二十年以上も朝鮮労働党とは断絶状態にある。
友人 それは知らなかった。
カタ郎 ある学者は「共産党はすでに北朝鮮に対して批判的であったので、躊躇(ちゅうちょ)することなく、ラングーン事件を北朝鮮の行為として、きびしく批判することができた」「このように決定的な対決姿勢であったため、共産党は躊躇することなく、拉致問題の追及を行いえたのである」(『論座』四月号、和田春樹東大名誉教授)と書いているよ。
友人 拉致問題も追及してるんだ。
カタ郎 政府に「北朝鮮による拉致の疑いがある」とはじめて認めさせたのは、日本共産党の橋本敦参院議員なんだ。当時、「行方不明者」と呼ばれていた被害者周辺を徹底的に調査し、家族の心情も切々と伝え、国家公安委員長の答弁を引き出した。一九八八年三月のことだ。
このころ、自民党や社会党、公明党は北朝鮮の「窓口」となることを争っていたから、拉致問題に正面から取り組めなかった。自民党の野中広務元幹事長は自分の本(『老兵は死なず』)で、橋本質問と三年後の自社両党の訪朝団(金丸信団長)を比べ、「金丸訪朝団における交渉では、拉致の問題はまったく取り上げられていない」「北朝鮮に対する見方は、まだ非常に甘かった」と振り返っている。
友人 「首相は金正日にまるめこまれた。北朝鮮みたいな危険な国には、もっと圧力や制裁をかけないといけない」という意見があるね。共産党は圧力や制裁には反対なの?
カタ郎 いまは、相手が交渉を拒否して話し合いのテーブルにもつかないとか、無法な攻撃をしきりにしかけてくるという場合だろうか。北朝鮮との間では、二年前に日朝平壌宣言が結ばれ、今年五月には、それが日朝間の基礎だと再確認されたように、話し合いによる解決のレールがしかれている。核問題では六カ国協議もある。そのときに、一方で話し合いながら一方で「ぶんなぐるぞ」と圧力をちらつかせるというやり方は、道理がないと思うんだ。
もちろん、きぜんとした外交態度は大事だ。その点では、一九九九年に日本から超党派の代表団が訪朝した際、他の政党の代表が全員、金日成の像やお墓でくりかえし拝礼し、尊敬をこめた記帳をしたんだけど、日本共産党から参加した穀田恵二国対委員長と緒方靖夫国際局長はお辞儀も記帳もきぜんとして拒否したんだ。だけど、その後の話し合いの席では、穀田さんたちの発言を受けて北朝鮮側も「よい発言をしてもらった」といったそうだ。きぜんとした道理ある態度で外交に臨むことが大事なことを物語っている。
友人 「金正日体制は北朝鮮の人びとを苦しめている悪の体制だ。その延命に手を貸すことはやるべきでない」という意見もあるけれど?
カタ郎 たとえ、ある国の体制がどんな問題点を持っていても、その体制をどうするかは、その国の国民が決めるべきことだ。まわりの国が「その国の国民を解放してやる」という名目で体制の打倒をはかったら、米国のブッシュ政権がイラクでやったのと同じことになるよ。
友人 拉致被害者の家族五人が帰ってきたのはよかったけど、今後がたいへん。共産党はどう考えているの?
カタ郎 いまだ帰国していない被害者家族の問題や、行方不明者の問題は、日本側も納得できるように、政府が努力するべきだと思う。
日本共産党は外交の当事者ではなく、交渉の全容がわかるわけではないから、あれこれ意見することは自制してきた。しかし、北朝鮮問題にとりくむ目標ははっきりしているよ。
一つは、北朝鮮での戦争や動乱をおこさせないことだ。日本も含めた北東アジアの平和にとって、朝鮮半島の平和と安定はとても大事だからね。
二つめは、拉致問題を全面的に解決することだ。これは日本国民の生命と安全、人間の権利という根本問題だから、絶対にあいまいにできない。
三つめは、日本が“過去の遺産”を清算することだ。日本が侵略したり、植民地支配をした国でただ一つ未解決なのが、北朝鮮だからね。これを清算しないと、過去の戦争が正確な意味では終わらないという問題だ。
友人 北東アジア全体のことを考えているの?
カタ郎 拉致問題が解決すれば、北朝鮮が国際的無法を清算し、国際社会に復帰する条件が大きく開かれる。
北朝鮮問題が解決したら、北東アジアの平和と安定の枠組みにとってもものすごく大きなことだ。最大の懸案が解決するだけでなく、核問題を扱う「六カ国協議」が、この地域で国際平和を取り扱う機関に発展するかもしれない。日本をとりまく国際環境も激変する。いつも軍備強化や有事体制づくりの口実にされてきた「朝鮮有事」がなくなるのだから。
そういう大きな展望をもって、日本共産党は北朝鮮問題の解決のために力を尽くすつもりだよ。