2004年1月5日(月)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長は四日放送のNHK日曜討論「各党党首インタビュー」に出演し、山本孝解説委員のインタビューにこたえました。大要は次の通りです。
山本 共産党の志位委員長にうかがいます。
志位 あけましておめでとうございます。
山本 おめでとうございます。いま公明党の神崎代表がイラクのサマワについて、短時間ではあったけれども比較的安全だという印象を受けた、現地では、医療だとか道路だとか水だとか、ニーズは多岐にわたっておるんだというふうなお話があったんですが、派遣する意義は認められませんか。
志位 これは私たちは反対です。今度の自衛隊の派兵というのは、戦後初めて現に戦闘がおこなわれている戦地に重武装した自衛隊を派兵するというものですから、これは憲法を踏みやぶる大変な道に日本を引き込むことになる。
サマワの話をされましたが、「非戦闘地域」だから大丈夫なんだという議論は、「イラク全土が戦場だ」というのは米英軍当局も認めていることで、なりたたない。サマワは比較的平穏なのかもしれないが、かりに自衛隊が行くと、それが攻撃対象になって、むしろ火種を持ち込み、泥沼化をひどくするということにもなりますから、私たちはこれは絶対とるべき道ではないと思います。
山本 小泉総理はくり返し、「自衛隊は戦闘に行くのではない。人道支援に行くんだ」というふうなことを言っていますし、自民党の中には、「もうそろそろ一国平和主義から卒業するときが来ているんではないか」という声もかなり強いですね。
志位 小泉さんは「人道支援」ということだけを強調するんですが、(政府の)「基本計画」をみても「実施要項」をみても、もう一つの主要な任務として「安全確保支援活動」をとりくむということが書いてあるわけです。
たとえばバグダッド飛行場に航空自衛隊の輸送機を出すと。運ぶのは何かというと、米軍の物資も運ぶというわけですね。迫撃砲とか対戦車砲で武装した米兵も運ぶ。あるいは掃討作戦を米軍がやっている、この支援活動もおこなう。イラク人がいろいろと抵抗運動をやった場合、(米軍の)鎮圧作戦への支援もおこなう。
こうなりますと、占領軍への参加そのものなんですね。マイヤーズ米統合参謀本部議長が自衛隊派兵を決めたニュースに接して、「日本は連合軍に参加した」とはっきり言いきったように、占領への参加なのです。この一番の本質を隠して、「人道のために行くんだ」というのはごまかしだと思います。
いまのイラクの泥沼化をここまでひどくしたのは、戦争が無法だったこと、不法な占領を続けていること、これにたいするイラク国民の反発や怒りが根っこにあるわけですから、この枠組みを占領支配から国連中心の人道復興支援に移す。そのもとでイラク人に主権を返還するというプロセスが一番大切だと思います。
山本 その国連主導の枠組みに移すというお話ですが、実際はアメリカとフランスやドイツの対立もありまして、新たな枠組みをいますぐつくるというのはなかなかむずかしいのも事実だろうと思うんです。そういった枠組みができるまでは、イラクにどういう支援をすればいいのかということになる。
志位 枠組みをつくるための外交努力を真剣にやるべきだと思います。
山本 政府はやっているといってますがね。どうですか。
志位 これはやっていないですね。たとえば国連の場でも、どういう安保理決議をつくるかということについて、ほんとうに国連中心のものをつくるのか、それとも米英軍の権限を引き続き認めるようなものをつくるのか、綱引きがはげしくあったわけです。
ところが日本はまったく発言しませんね。私は本気になって、国連中心の支援の枠組みをつくる、国連に権限を与えるという枠組みをしっかりつくるという本気になった外交努力を、憲法九条を持っている国ですから、その国にふさわしくやるべきだと思います。それがいま日本が一番になすべきことで、軍隊を出すべきではないと思います。
山本 その国連につきまして、イラクにいた国連職員はイラクの治安が悪化したということもありまして、国外に避難しているというようなこともありまして、国連を過信しすぎるのもいかがなもんだろうかと…。
志位 国連にしても赤十字にしても、なぜ撤退せざるを得なかったかといいますと、占領支配がずっと続くなかでもう治安が維持できなくなって、事実上、占領支配が失敗しているというなかでの撤退なんですね。アナン(国連事務総長)さんが言っているのは、「占領と復興支援は両立しない」と、ほんとうに国際社会がまともな復興支援をイラクに対してやろうと思ったら、やはり占領にどこかで終止符をうって、まともな国際的な枠組みに切り替えなかったら、まともな復興支援はできないんだ、だから自分たちは撤退せざるを得ないんだ、と言っています。国連に枠組みを移すということが大事だと思います。
山本 武器輸出三原則の問題ですね、ミサイル防衛システムを導入することを決定したことにともなって、自民党内には見直し論が強い。安倍(晋三・自民党幹事長)さんも先ほど見直すべきだと言っておりましたが、これは反対ですか。
志位 とんでもないですね。いまの武器輸出三原則の見直しというのはどこからきているかといいますと、いまおっしゃられた「ミサイル防衛」戦略構想に日本もとうとう参加すると、そのためには日米が共同して武器の開発をする、それに妨げになるからこのさいとりはずしてしまおうということを、三菱重工業など日本の軍需産業の代表がかなり露骨に言うなかでおこっていることなんですね。
しかしこの「ミサイル防衛」計画というのは、「防衛」という名前がついていますから少しまともなものかといえばとんでもない話で、結局アメリカが地球的規模ではりめぐらして、相手の攻撃力を無力にすることで、アメリカがいつでもどこでも核攻撃を自由にできる仕組みづくりですから、これに日本が参加するために武器輸出も自由にしようと、これはとんでもない間違った道だと思います。アジアの軍拡競争を、ロシアとの関係でも、中国との関係でもひどくする。絶対やるべきではないと思います。
山本 政府の新年度予算案ですが、小泉さんは増やすべきところを増やし、減らすべきところは減らして、たいへんメリハリのついたいい予算だとおっしゃっていますが、どうみますか。
志位 私は逆だと思いますね。今度の予算案の一番の特徴は、歯止めのない国民負担増を連続的に押しつけるものになっているところにあると思います。小泉政権になってからのだいたい二年間で、医療や年金などの負担増はあわせて四兆円です。今度の予算案がやられますと、むこう三年間でさらに年金保険料(値上げ)など三兆円、あわせて七兆円ですよ。この負担増を押しつけ、その先には消費税の増税ということも計画されている。これが一つです。
もう一つ、では無駄遣いはどうなったのかといいますと、道路公団の決着一つとっても、一番国民が願っていたのは、まず無駄な高速道路をつくるのはやめてくれということだったはずなんですが、例の九千三百四十二キロの高速道路計画は全部つくり続ける。新会社もつくれるし、国が直接、税金を流し込んでつくる道もやりましょうと。これを全部つくったら、十六兆円かかるわけですね。すでに公団は四十兆円の借金をもっているうえに、十六兆円です。ほとんどこれは赤字路線だと言われているところをつくり続けるという。こちらのほうは無駄遣いをやめないで、国民には七兆円の負担増、これはほんとうに逆立ちした税金の使い方の典型ですから、大きな組み替えを求めていきたいと思います。
山本 いまの年金の問題で共産党は、基礎年金の国庫負担を引き上げるための財源を歳出の見直しによって生みだすんだと言っておるわけですが、実際に三兆円も必要になりますね。
志位 だいたい二・五兆円ですね。
山本 これは歳出の見直しだけで出せるのかどうか。どう思いますか。
志位 これは単年度で二〇〇四年度からやるべきだと私たちは言っていますから、当然財源のこともずいぶん検討しました。公共事業費を削り込む、軍事費を削り込むということも必要ですが、なかでも手をつけるべき大きなお金としては、道路特定財源というお金がありますね。これは国と地方で六兆円です。この道路特定財源を一般財源化して、なんでも使える金にしようと。
いまの仕組みというのは、道路から上がってきたお金は全部新しい道路をつくるために使うという、ここで無駄遣いの仕掛けがあるわけですが、これをただして、道路よりも年金を優先させるというところに踏みこもうではないかということを具体的に提案しています。こういう改革こそやるべきだと思います。
山本 これで十分できると思いますか。
志位 当座はですね。ただ将来は高齢化がすすみますから、新しい負担が問題になってきます。そのときは絶対に消費税に頼るべきではない。これは一番の福祉破壊税ですから。
山本 財政赤字は深刻ですよね。国債依存率が46%だと。これをどう立て直していくかということに問題はあるわけですよね。財政の問題はどうお考えですか。
志位 そのときにいったいどういう形で、だれが負担するかが問題になってくると思うんです。私たちは税金にしても社会保険料にしても、所得の少ない方は少ない負担、多い方は多い負担、これが民主主義だと思っていますから、高額所得者や大企業には応分の負担を求める。
これは無理すじの話ではないんですね。私たちが国際試算をやってみますと、ヨーロッパ諸国の大企業に比べて、日本の大企業は、税と社会保険料の負担を合計して、だいたい五割から八割という水準です。世間並みの負担をしていない。とくに社会保険料の負担になりますと、四割から六割、だいたい半分という水準ですよ、国民所得比で。ですから世間並みの負担は、将来的には大企業にもしてもらう、応分の負担をしてもらうということを真剣に考えるべきです。財界はさかんに消費税(増税)、消費税と言いますが、消費税というのは財界にとっては都合のいい税金で、自分たちの腹は痛まないわけで、自分たちは負担しないでおいて、全部庶民につけまわしするというのは反対です。
山本 夏の参議院選挙ですね、このあいだの衆議院選挙でも共産党は議席を大幅に減らしたわけですけれども、今度は歯止めかかりますか。
志位 ぜひ反転攻勢に一歩踏み出したいと思っています。私たちはこの前の総選挙の比例代表で四百五十八万票の支持をいただいたわけです。議席では残念ながら後退したんですが、四百五十八万票というのは、二〇〇一年の参院選挙が四百三十三万票でしたから、若干押しもどした数字でした。
今度の参院選挙では比例代表で五議席を絶対確保する。そのためには六百万を超える得票がいるんですが、そこまで押しもどそうと。それから七つの現職区が選挙区でありますから、ここでは必ず勝利をめざすということで巻き返しをはかりたいと思っています。
山本 ちょっと守りの選挙になりますかね。
志位 政治にはいろんな波がありますから、総選挙の結果をリアルによくみて、現実的な目標を立てなければならない。同時に積極的な目標を立てるということで、いま言ったような方策でがんばりたいと思っています。
山本 党員の数にしても、機関紙の購読者数にしても全盛期に比べて大幅に減っていると言われますね。一言で言うとどこに理由があるのか。
志位 党員は三十六万人まで一時減らしたのですが、いま四十万人を超えるところまで前進してきています。ただ読者のほうはなかなか継続的に増えるというところまでいかないのですが、国民のみなさんと草の根でしっかり結びついて、みなさんの願い、苦しみを解決するための運動を大いに起こして結びつきを広げながら、打開していきたいと思っています。
山本 どうもありがとうございました。
志位 ありがとうございました。