2003年10月28日(火)「しんぶん赤旗」
二十七日に開かれた六党首討論会(日本記者クラブ主催)での日本共産党の志位和夫委員長の発言(大要)を紹介します。出演はほかに自民・小泉純一郎総裁、民主・菅直人代表、公明・神崎武法代表、社民・土井たか子党首、保守新・熊谷弘代表。
党首討論の第一部は冒頭、各党首が「有権者に訴えたいこと」として二分間ずつ発言しました。
小泉氏は「政権選択を問うのが一番大きな争点だ。いままで進めてきた改革を今後も断行し、日米同盟と国際協調で平和と安全を確保していく」とのべ、自公保三党連立政権で小泉「改革」路線を続けていくことを宣言しました。菅氏も「政権交代のある民主主義か、自民党中心の政権のままでいくのかの選択だ。政権公約、マニフェスト選挙だ。一度私に任せてほしい」と訴えました。
志位氏は次のようにのべました。
志位 私たちは、自民党政治の中身を大もとから切り替える本当の改革を訴えてたたかいたいと思います。
第一は、財界のために働く政治から国民のために働く政治への転換です。
まず、税金の使い道をあらためて社会保障を予算の主役にすえる改革をすすめたい。異常に膨れ上がった公共事業の無駄と浪費をなくす、あるいは軍事費にもメスを入れる。そのことによって、国民の新たな負担がなくとも十兆円を超える財源がつくれるということを私たちは提案しております。これを年金、医療、介護にあてれば安心できる社会保障を築けます。
それから、財界がおこなっているリストラを応援する政治ではなく、その横暴をおさえルールをつくり、特に長時間労働やサービス残業をなくして、安定した雇用を増やすことにもとりくみたいと思います。
そして、日本経団連など財界が消費税率について、「まず10%に、ゆくゆくは18%に」(上げる)という大号令をかけ、その流れのなかで自民、民主両党が「政権公約」に消費税増税をめざすという方向を打ち出しておりますが、この増税にはきっぱり反対を貫きたいと思います。
第二は、アメリカいいなりをたち切り、ほんとうに憲法を生かした平和の日本、独立した日本を築く転換です。
私たちは憲法をじゅうりんしたイラクへの自衛隊派兵はいまからでも中止することを強く訴えてたたかいます。
それから、アメリカからいま猛然と圧力がかかるもとで、憲法九条を改定しようという動きが、これも与党第一党の自民党と、そして民主党からもそういう動きが出ておりますが、私どもは憲法九条は日本国民が世界に誇る宝だと確信をもっております。憲法九条を守れという審判をくだす選挙にしていきたいと思います。
どうか日本共産党をよろしくおねがいいたします。
続いて、各党首が相手を指名して質問する討論に移りました。志位氏は小泉氏に、年金と消費税の問題について質問し、議論を交わしました。
志位 小泉さんに年金と消費税の問題について、二点にわたって聞きたいと思います。
一つは基礎年金への国庫負担の問題です。国の負担を現行の三分の一から二分の一に引き上げるということは、二〇〇〇年の年金改定の際の法律の付則で、「二〇〇四年度までに引き上げるものとする」と明記されていることです。
わが党は、この法律どおり、来年からただちに二分の一に引き上げるべきだ、その財源は公共事業費の削減、道路特定財源の一般財源化、あるいは軍事費にもメスを入れるという歳出の削減でまかなうべきだと提案しています。この課題は年金財政の安定、年金の信頼をとりもどすうえで待ったなしの課題だと考えております。
ところが、小泉さんは先の記者会見で、「一年間で上げる必要はない。何年かかけてとりくめばよい」と先送りの発言をされている。これは、非常に重大だと思います。
政府は国民に対しては、今年に続いて来年も、物価が下がるのにあわせて、お年寄りの一世帯あたり六万円も年金を下げようとしております。そして、来年には将来にわたって負担増と給付減のレールを敷く大改悪をやろうとしています。
国民には待ったなしで年金を削る計画を押しつけながら、国民への約束である二分の一への引き上げを先送りするということをやれば、私は国民の年金に対する不信は募るばかりだと思います。
そこで小泉さんにうかがいたいのですが、この「一年間で上げる必要はない」というご発言は、法律に明記された「二〇〇四年度までに引き上げるものとする」という、この約束に照らして国民への約束を破るものだというご認識はおありでしょうか。イエスかノーかで端的にお答えください。
小泉 そう思っておりません。まず安定した財源を確保して給付水準をどうするか、保険料負担をどうするか、総合的に考えるという前提で基礎年金(の国庫負担)を三分の一から二分の一に引き上げるということなんです。
給付水準も決まっていない、保険料負担も決まっていない、安定した財源も決まっていない、どのようにするのか。消費税に(すると)も決まっていません。どの税でその給付水準を確保するか、保険料負担を少なくしていくのかも、決まっていません。二分の一に引き上げる際にも、一年で二分の一に引き上げるのかどうか。それも今後議論の余地があると思います。複数年にしてもいいのではないか。私は別に単年度で、一年で二分の一に引き上げるということにはこだわっておりません。複数年度にかけてもいいのではないかと思っております。この問題につきましては、今後まだ各党、国民の各界の意見をきく必要があると思います。
志位 安定した財源を見いだして二分の一に引き上げるという前提つきだと言いましたけれども、そういうことを含めて、「二〇〇四年度までに引き上げる」ことが法律に明記されているわけですから、それを先送りすることについて自覚がないというのは私は大問題だと思います。
志位 もう一点うかがいます。消費税の問題です。
自民党は政権公約の中で、「消費税率引き上げについても国民的論議を行い、結論を得る」ということを明記しました。
(国会)解散の夜、小泉さんと私の(民放テレビの)討論の中で、小泉さんは「将来を展望すれば消費税、上げざるを得ない」ということもおっしゃいました。
そこで、小泉さんにうかがいたいのは、消費税という税金をそもそもどのように認識しているかという問題です。
私は第一にこの税金というのは、所得の低い人ほど重くのしかかる逆進性を本性としていると思います。これは総務省の統計ですけれども、年収千五百万円以上の方の消費税の負担率は1・3%、それにたいして年収二百万円未満の方の消費税の負担率は4・1%。三倍にもなるわけです。
第二に、この税金と言うのは消費税を価格に転嫁できない中小零細企業の営業を破壊する税金ではないか。これは中小企業庁の調査でも(売り上げが三千万円以下の)52%の業者が転嫁できないといっている。
総理にうかがいたいのは、こういう逆進性をもった税金、そして営業を破壊する、転嫁しきれないという実態がある。こういう実態についてご認識があるのかどうか。これを端的にうかがいたいと思います。
小泉 まず私は、仮に今回の選挙で自由民主党が勝利しても、任期は三年間しかありません。三年以上また続けるつもりもありませんし、三年間を展望すれば、消費税を上げる環境にはないと思っているからこそ私の在任中は消費税を上げないとはっきり申しております。
そして消費税はどうか。これは税負担だけをみれば一部分であって、給付も同時に見なければいけないと思っております。というのは、ヨーロッパでは10%以上、二けた。デンマークとかスウェーデンは25%です。しかし、これだけ高い消費税を負担しながら、給付で国民は納得しているはずです。だから税だけをみるべきじゃない、給付はどの程度にあるかということをみるべきだ。将来の点については、いろいろな税としてどういうあり方がいいかということです。
志位 私は、税のあり方が弱いものいじめの税金だということを聞いたのにたいして、その認識をまったくおのべにならなかった。痛みを感じていない。痛みを与えていることを感じていないということが大問題だと思います。この税金の増税は絶対反対です。
討論の中で、総選挙後の政党間協力について、小泉氏と志位氏との間で次のようなやりとりがありました。
小泉 民主党はおそらく安保条約は廃棄しないですね。共産党は、そういう点に対して、民主党から協力を求められたらやっぱりしていきますか。
志位 小泉さん、その質問をするのは早いんじゃないですか(笑い)。これから選挙やるんですから。
いま「政権選択」といわれておりますけれども、はっきりいいまして自民党と民主党の間には大きな差がないと思います。冒頭申しましたように、消費税の増税で、あるいは憲法の問題で、じつは同じレールの上を走っているんじゃないか。そういう批判を持っております。
選挙後のことについては、私は聞くのが早いといっておきたいと思います。
第二部では、各党首が会場からの質問に答えました。まず、各党の獲得議席の目標を聞かれ、志位氏は次のようにのべました。
志位 日本共産党としては比例代表の現有二十を確保して上積みをめざしたい。それから小選挙区では残念ながら議席をもってはおりませんが、三百の選挙区で立候補しております。力戦奮闘して、風穴をあけたい、議席の確保を目指したいと思っています。
このあと、志位氏は、「選挙後の特別国会の首班指名選挙で、菅直人氏に投票する用意があるか」と聞かれ、「その質問はまだ早いというのが私の答えです」とのべました。
年金問題について、各党首に対し「将来の給付と負担の水準はいまより上がるのか下がるのか」と質問がありました。小泉氏は「どの程度負担していけばどの程度の給付水準が確保されるのかということをはっきり示すのは、来年の国会に出てくる法案」と具体的な言及を先送り。菅氏は「給付水準は50%は切らない、できれば55%に近いところをめざしたい」と、現行の59%よりも下げる見通しを示し、神崎氏は、給付水準を「50%から50%台半ば」に引き下げ、保険料負担を年収の20%(労使折半、現行は13・58%)に引き上げるという考えを示しました。志位氏は次のようにのべました。
志位 私たちは当面三つの改革、すなわち基礎年金への国庫負担割合を二分の一に来年からただちに引き上げること、それから雇用と所得を増やして支え手を安定させること、それから百七十五兆円の積立金を活用すること――この三つの改革をやれば、給付水準は現行水準を維持できると考えております。
将来的には、私たちは、「最低保障年金制度」というのを創設することを提案しております。この財源は、国費と事業主の負担によってまかなう。この場合、大企業の負担ということが問題になってきますが、大企業の税と社会保険料の負担の重さは、ヨーロッパに比べてだいたい日本は五割から八割ですから、応分の負担を求めることによって、「最低保障年金制度」をつくる。これは土台の部分です。その上に、掛け金に応じた制度をつくる。こうなりますと、一定の充実がはかられるというふうに展望をもっております。
教育問題で、各党首に対し、「ゆとり教育」と学力の問題、教育基本法を改正すべきかどうかについての質問がありました。小泉氏は「習熟度別クラス編成」を主張し、教育基本法についても「公明党と協議しながら、改正すべき点を考えている」とのべました。菅氏は「基本法そのものはまちがっていない」とのべつつ、「不磨の大典ではない」とのべ、将来の改定に含みを残しました。これに対して、志位氏は、次のように答えました。
志位 日本の教育の一番の問題点というのは、異常な競争主義にあると思います。これは国連からも指摘された問題ですけれども、要するに、子どもを競争に駆りたてて、そして偏差値によって全部順番をつけて、序列をつけていくというやり方、いま「ゆとり教育」とかいわれていますが、このやり方がますます激しくなっていると思います。やはり、この競争主義をただして、ほんとうにすべての子どもたちに分かるまで教える。きちんとそういう形で基礎学力――情操、知育、徳育を身につけさせる教育が必要だと思います。これが一点です。
教育基本法の問題についていいますと、教育基本法が悪いから、いまの教育のさまざまな矛盾が起こっているのではない。教育基本法でいわれているほんとうに民主的な理念を戦後の教育に生かしてこなかった自民党の教育行政に責任があると考えております。
教育基本法には、教育の目的は人格の完成にある、すなわち主権者として国民の人格を完成させ、一人前の主権者にしていくということが教育の目的で、そして国家権力が不当な介入をやってはいけないんだということが書いてあるわけです。これを破ってさまざまな、ときの都合のために教育を利用してきた。ここに一番の問題があるわけで、この改悪には絶対に反対です。
衆院比例代表定数の八十削減案が民主党から出されていることについて、民主党以外の党首に質問がありました。
小泉氏は「基本的に賛成です」とのべました。神崎氏は「反対。すでに与党では五十を削減するということで、二十を先行で比例区で削減している。小選挙区を中心に三十を削減するべきだ」とのべました。土井氏は「反対」とのべました。熊谷氏は「比例を削減していくという小泉総理と全く同じ」とのべました。志位氏は次のようにのべました。
志位 もちろん反対です。これ(比例代表)は民意を反映する唯一のものですから。これ(削減)を最初に言い出したのは経済同友会の去年の十月の提言ですが、そこで単純小選挙区制と「マニフェスト選挙」ということを財界が言い出したところから始まった。これは絶対許されない民主主義破壊の暴挙だと思っています。
「マニフェスト選挙」のあり方について各党首が聞かれ、志位氏は次のように訴えました。
志位 「マニフェスト選挙」「政権選択選挙」というふうにいわれますが、問題は中身だと思います。今日の討論会でも、自民党、民主党は憲法の改定あるいは消費税の値上げ、こういう方向では同じレールを競い合っているというのが実態です。
それでこの「マニフェスト選挙」「政権選択選挙」がいったいどこからはじまったのか。さきほども経済同友会の話をしましたが、財界の戦略があると思います。
日本経団連は九月二十五日に献金のガイドラインを出して、「法人税を下げろ」「消費税を上げろ」、これに賛成する政党は献金をやるんだ、ということをいっています。自民党の小泉さんは「よろこんで受け取る」といい、民主党もこの献金は「もらいたい」といっている。この財界ひも付きの政治で、いったい日本の政治はよくなるのか。私は、そういうやり方ではけっして国民のくらしを守ることはできない。このことをいいたいですね。
今度の選挙でじつはこの仕掛けをつくっているのは、日本経団連など財界ですよ。財界の手のひらの上で、偽りの「対決」をやっても、本当の日本の改革にはならない。やっぱり財界いいなり、アメリカいいなりをただすことが必要だと思います。