2003年8月27日(水)「しんぶん赤旗」
二十七日から北京で三日間の日程で行われる六カ国協議では、国際社会の平和をおびやかしかねない北朝鮮の核開発と米朝対立の問題が焦点になります。ブッシュ米政権の北朝鮮敵視と北朝鮮の核“瀬戸際”政策のエスカレーションに歯止めをかけ、話し合い解決の展望を開く場にすることができるのか、会議の行方を世界が注視しています。
対立を続ける米国と北朝鮮が話し合いのテーブルにつくのは四月の米朝中三カ国協議以来です。北朝鮮の核問題は朝鮮半島、アジアだけでなく、世界の平和にとっても重大な問題です。また六カ国の枠組みをつくったことで、交渉がこれまで以上に国際的な重みを持つことになります。参加各国が、朝鮮半島の安全をめぐる数多くの課題を包括的に解決する姿勢でのぞむことが期待されています。
四月の米朝中協議で米国は北朝鮮に核開発の放棄を、北朝鮮は米国に自国の安全を保証するよう求めましたが、実質的な進展はみられませんでした。それどころか北朝鮮は核兵器の保有を自ら認める発言をしたとされます。事実なら、朝鮮半島非核化のための南北共同宣言(一九九二年)、米朝枠組み合意(九四年)、日朝平壌宣言(二〇〇二年)などの国際合意を踏みにじるものです。
北朝鮮はこの三カ国協議の中で、米国が不可侵の約束などで敵対政策を転換することを条件に核放棄に応じると提案しました。
これに対して米国は、まず北朝鮮が核を放棄すべきだと主張し、その後もブッシュ政権は「見返り」を与えないとの発言を繰り返しています。
三カ国協議後、交渉形式で北朝鮮は米国との直接対話を要求してきました。北朝鮮は最近になって米国との二国間協議形式にこだわらないとの態度をみせ、最終的にはロシアも含めた六カ国協議を受けいれました。
その背景には中国の努力がありました。米国は三カ国協議後、国連安保理議長声明の形で北朝鮮を非難するよう画策しましたが、中国は話し合い解決の障害になるとして反対しました。
七月には戴秉国・外務次官がロシア、北朝鮮、米国を回りました。北朝鮮では金正日・朝鮮労働党総書記あてに、米国ではブッシュ大統領あてに、それぞれ胡錦濤中国国家主席の親書を伝達しました。
六カ国協議で最大の課題は、北朝鮮の核開発問題です。北朝鮮を除く五カ国とも、核開発を容認しないという点で一致しています。核開発の放棄を北朝鮮に求める声は、すでに国際社会共通のものです。北朝鮮が主張する「核抑止力」を支持する国はありません。
北朝鮮が「核抑止力」に固執すれば、さらに国際的な孤立を深め、イラクに対する先制攻撃を強行した米国に北朝鮮への軍事攻撃の口実を与えかねません。
一九九四年に核開発の凍結と将来の廃棄を約束した「米朝枠組み合意」を結びながら、昨年末に核施設の稼働を再開させた北朝鮮に対し、米国だけでなく国際社会は強い不信感を抱いています。
米国務省高官は二十二日の会見で、「北朝鮮は核不拡散条約(NPT)を脱退した初めての国だ」と指摘。「北朝鮮に核開発計画の完全な廃棄を求める」と述べ、「NPTの義務の全面的な順守(査察の受け入れ)」を求めました。
一方、北朝鮮は十三日の外務省スポークスマン談話で、米国に対し北朝鮮への敵視政策の転換と不可侵条約の締結を求め、「米国が対朝鮮敵視政策を放棄する前には『早期査察』などあり得ない」と強調しました。
韓国の尹永寛・外交通商相は二十日、「協議を継続するための最小限の条件は、北朝鮮がさらに状況を悪化させる措置をとらないこと」だと述べ、核開発の“現状凍結”が最低目標だとの考えを示しました。
北朝鮮が核開発を正当化しようとする根拠は、米国の「敵視政策」。この解決策として北朝鮮は、不可侵条約の締結を繰り返し主張しています。ブッシュ米大統領の「悪の枢軸」発言、核先制攻撃の対象に北朝鮮を含めた戦略、などは北朝鮮は深刻な脅威とみなしています。
米国は、日本、英国、オーストラリアなど十一の同盟国とともに「大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)」を推進し、九月にはミサイルや核物質の輸出を遮断するための共同軍事訓練を計画するなど、北朝鮮への圧迫を強めています。
こうした米国の動きに対し、北朝鮮の友好国である中国、ロシアは、米国が北朝鮮の安全を保障し、これを中ロ両国が追加、補強する案を検討。北朝鮮の「同族」である韓国も、北朝鮮の安全保障上の憂慮は解消されるべきだ、との立場を明らかにしています。
十三日の北朝鮮外務省スポークスマン談話は、「われわれは米国にプレゼントとしての『安全保証』や『体制保証』を求めるのではない」「誰かからわが制度の安全を保証してもらおうとするのではない」と強調しました。北朝鮮の公式的な要求は、“国家の安全保障”であり金正日政権の保証ではない、というものです。
これに対し米国は、金正日政権の保証や不可侵条約の締結を拒否する一方、なんらかの文書の形で“侵略の意図はない”ことを約束する方法を検討中だと、パウエル国務長官は七日示唆しました。しかし“不可侵の確約の文書化−米議会の承認”が、政権内の合意を得られず、北朝鮮の要求との距離は縮まっていません。
六カ国協議は、一九九七−九九年に韓国、北朝鮮、米国、中国が参加して開かれた四者会談以来初めての東アジア地域の多国間協議です。今も休戦状態が続く朝鮮戦争(一九五〇−五三年)後、最大規模の枠組みです。
韓国の尹永寛・外交通商相は二十日、「六カ国協議の弾みが、(韓国政府の)平和繁栄政策の推進と朝鮮半島の平和定着に有機的につながるよう努力する」と強調し、東アジアの平和秩序づくりへの期待を示しました。
北朝鮮も十三日の外務省スポークスマン談話で、「朝米間に不可侵条約が締結されて外交関係が樹立し、米国がわれわれと他国間の経済協力を妨げないことが明白になるとき、米国の対朝鮮敵視政策が実質的に放棄されたものと見なされる」と主張、六カ国協議が国際的孤立からの脱出と経済再建につながるとの期待を表明しています。
北朝鮮の安全保障にとって問題なのは、米側の敵視政策に対して北側の「軍事的抑止力」が不足していることではなく、北朝鮮が国際社会の中で孤立し、信頼されていないことです。北朝鮮が国際社会の責任ある一員となるために、解決すべき問題は核問題だけではありません。北朝鮮はミサイル開発に加え、日本人拉致問題、麻薬取引など国際的な無法行為の清算が求められます。
日本政府としては、核開発問題とともに、ミサイル問題、さらに拉致問題の解決へのめどをつけ、そのなかで日朝国交正常化交渉にはずみをつけようとしています。とくに、こう着状態にある拉致問題でめどをつけることを課題としています。拉致問題は、北朝鮮が国際社会に復帰し、その一員として信頼を得てゆく上でも重要な国際的無法行為の清算の一部をなす課題です。日本国民に納得ゆく態度の表明が求められます。
その点では六カ国協議の場で日本政府代表が提起するのは当然です。しかし、この問題は日朝両国間の問題であり、突っ込んだ協議は二十八日にも予定されている日朝両国の個別協議でおこなわれるのが筋。川口外相も「日本としては全体協議で提起し、具体的には北朝鮮との二国間で協議する方針」と語っています(訪韓時の盧武鉉大統領との会談で)。
中国も、「人道問題は承知している」(曽慶紅副主席)とする一方で、全体協議のテーマにすることには反対しています(戴秉国外務次官)。
今回の会議を通じて、日朝交渉そのものにはずみがつき、諸問題の包括的な解決の道が開かれることが重要です。そのために、北朝鮮が誠意ある対応を示すとともに、日本政府が道理ある対応をおこない、北朝鮮の核問題の対話による解決と北東アジアの平和の確立のために貢献することが求められています。