2003年8月24日(日)「しんぶん赤旗」
漁業の現状と、漁業振興に向けたとりくみの方向を、岩手県山田町と熊本県荒尾市からみてみました。
熊本・荒尾市 |
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熊本県荒尾市と隣接する長洲町の有明海に面した海岸線は約十一キロメートルあります。ここに荒尾漁協、牛水漁協、長洲漁協と三つの漁業協同組合があります。
熊本県漁連の総会は、昨年の漁は豊作だったと評価しました。しかし、これは、荒尾市と長洲町の漁民の実情にはまったくそぐわないものです。
荒尾と長洲の漁業は、有明海の深部に位置し、主な生産物はノリ、二枚貝(アサリ、タイラギなど)、エビ、漁船漁業(長洲)です。諫早干拓をはじめ有明海の異変により漁獲量の大幅な減少がつづき、特に二枚貝は、壊滅的な状態になっています。
ノリ養殖業者は、一九九三年度荒尾漁協四十八体、牛水漁協三十二体であったのが、二〇〇二年度には荒尾二十三体、牛水二十体に激減し、今年はさらに数体がやめる方向です。アサリ採貝(さいばい)業は、九三年度荒尾で二百六体。二〇〇〇年度には五十体、その後はゼロになっています。経営体としては存続できないところまで追い込まれてきています。
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今期荒尾市議会では、「有明海対策特別委員会」が日本共産党の要請で設置されました。日本共産党の上野哲夫議員が委員長に選出されています。
この委員会ではさっそく「勉強会」を開催し、法律第一二〇号「有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律」や「熊本県計画」などを学習し、荒尾市で何ができるかの検討を始めました。八月六日には、「漁場調査研究報告会」(堤裕昭熊本県立大学教授ほか)も開催されました。 有明海が再生され、生きた豊饒(ほうじょう)の海にかえるためには、どうしても諫早湾の干拓事業の中止を実現し広大な干潟の再生が必要です。
日本共産党議員団は九七年六月定例議会で「諫早湾の水門を開け、干拓事業の再検討を求める意見書」を小川たかとし議員が提案しました。この意見書は、可決され、国に送付しています。漁協や自治体とも協力し、アサリ漁場造成事業やノリ不作資金への利子補給、緊急雇用対策などの実現でも大きな役割を果たしてきました。
しかし、熊本県が実施している覆砂事業で育った小さなアサリを手にしながら「このアサリが来春まで生きられるかどうか」(牛水の漁民、隅倉柾一さん)と期待と不安が交錯し、九月のノリの種付けの準備を終えて待機する漁民の期待にどう応えるか、政治の課題がずっしりとのしかかっています。 荒尾の漁民も参加し、九月結審をめざして進められている「よみがえれ有明海訴訟」に期待する漁民の声は日増しに増大しています。
(小川たかとし荒尾市議)
岩手・山田町 |
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山田町は、岩手県沿岸のほぼ中央に位置し、人口約二万一千三百人、世帯数七千二百の水産業を基幹産業とする漁業の町です。
一九六〇年代ごろまでは年間五千−九千トンの水揚げがあったイカ釣り漁の盛んな町でしたが、最近では千トン以下、一億五千万円ほどの水揚げしかなく、イカ釣り漁船もめっきり減少しました。
イカ釣り漁業にかわって漁船漁業の中核を担ってきた秋サケ漁(はえ縄)も、ここ数年二百トン前後、一億円以下の水揚げに低迷し、漁船漁業の不振は目を覆うばかりで、赤字のため廃業する漁業者が増えています。
二〇〇二年度の山田町の漁業総生産額は、三十六億一千九百万円です。漁船漁業は、イカ釣り一億四千四百万円、サケはえ縄六千六百万円、その他七億三百万円です。
定置網漁業は十億三千五百万円。浅海養殖漁業は十三億一千六百万円で、カキ養殖九億九千九百万円、ホタテ養殖一億八千三百万円などです。
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不漁と漁価安で漁協の経営も累積赤字が拡大し、〇二年度決算では五漁協と山田漁連の累積赤字の合計額は十九億百七十万円です。
一九八八年には二千三百四十五人いた正組合員も、〇三年四月一日現在、千六百三十五人に激減しています。三十九歳以下の若い組合員は百十一人しかいなく後継者不足は深刻です。
漁業不振は、店を閉じる商店を続出させ、地域経済と、税収の減少・滞納の増大など行政運営にも影響が出ています。
日本共産党は町議会で、魚をとり尽くすトロール漁業の規制を取り上げ、町として県や国に要望するよう求めてきました。
四月の町議選で、漁業振興は町全体にとって急務と訴え、▽トロール漁業の規制を強め、資源の保護、増大をはかり豊かな海にする▽広い漁場を独占している定置網をボスの手から漁民のものにし漁民の所得を増やす▽カキ・ホタテ養殖の振興のためには、過密を解消し、おいしく安全なものをつくる▽山、川、海の環境を整備し、下水道の早期完成で海と漁場を守る−などの政策を掲げてたたかい、高位当選しました。
選挙で訴えてきた政策を実現するため多くの漁民の皆さんや地域の皆さんと力を合わせ頑張らなければと決意を新たにしているところです。
(佐藤昭彦山田町議)
四面を海に囲まれたわが国であるのに、漁業が衰退し、地域経済が疲弊しています。経済効率優先、市場原理万能が長らく続き、漁場環境が破壊され、輸入の急増で魚価安が恒常化し、無秩序な漁獲競争は資源減少に拍車をかけました。
政府の予測でも二十五万人の漁業就業者は十年後には半減するとしています。漁業・漁村を守ることは、水産物の安定供給にとどまらず、国土・環境の保全、地域の存続など、多面的機能の維持にもかかわる重要な国民的な課題です。
政府は水産基本法、同基本計画を制定しましたが、自給率目標、資源の保全・管理、生育環境の保全・改善など、積極的な課題を全力で実行すべきです。
WTO(世界貿易機関)交渉で、水産物の関税撤廃を阻止し、資源の乱獲や国内生産への打撃にならない貿易ルールを確立する必要があります。魚価安定制度をめざし、漁業者の資源回復、環境保全のとりくみがすすむよう、試験研究もふくむ国、自治体の援助が重要です。同時に、漁業は地域的な特徴が大きいですから、地方自治体が地域の資源の有効活用・販路拡大などへの支援策を強化することが求められています。
(川島登・紙智子参院議員秘書)