2003年6月1日(日)「しんぶん赤旗」
小泉内閣がすすめている自治体の営利企業化。その1つの手段である独立行政法人化が、公立大学にも及ぼうとしています。横浜市立大学と大阪府立大学をめぐり広がっている運動をみてみました。
大阪府は昨年十二月、地方独立行政法人法案が上程もされていない時期から先取りし、府立三大学(大阪府立大学、大阪女子大学、大阪府立看護大学)統廃合による女子大の廃止、教員の25%削減、「法人」化をおもな柱とする「大阪府大学改革基本計画」を策定。六月初めにも「府大学法人像について」とする中間報告をまとめる予定です。
「法人」化についての「府の考え方(案)」では、大学の中期目標や計画を府が策定・認可し大学の業績を評価、評価結果を運営交付金に反映するとともに、「法人」の運営では「法人の長の権限の強化」がトップにあげられ、教職員の身分は「非公務員が望ましい」とされています。
こうした府の「計画」にたいして、大阪府大学教職員組合(府大教)は、昨年十二月から「『大阪府大学改革基本計画』の撤回と大阪府の大学・高等教育の充実を求める請願」署名運動を展開。学内にのぼりも立て、昼休みには食堂前で組合員が学生らに訴え。ひとりで五十人分の署名をあつめた組合員も生まれました。
署名は短期間に五千人分をこえ二月府議会に提出されましたが、採択に賛成したのは日本共産党だけで、自民・公明・民主などの反対で不採択という結果に。この結果をうけて小川英夫府大教執行委員長は「私たちは、府民の知の財産として大きな役割を果たしてきた大阪府立の大学を未来に引き継ぎ、発展させるため、大阪府に対して、『大阪府大学改革』の見直しと大学・高等教育の充実を強く求めていきます」と今後のたたかいの決意をのべています。
これに先立って学内では、府大教、府職労府大研究所支部、府大学生自治会連合、科学者会議府大分会が共同して「21世紀の府立大学を考える懇話会」を結成、五回におよぶ「府立大学を考えるシンポジウム」を開いています。学生自治会連合の代表は「全学生を対象にアンケートにとりくみ学生の意見がとりいれられるよう大学当局や府にはたらきかけたい」と発言しました。
一方地元堺市は、女子大の廃止計画について「現地での拡充」を府に要望。府立大学農学部のりんくうタウンへの移転計画には共産党府議二氏をふくむ堺市選出の府議十氏全員が連名で「『中百舌鳥』(現府立大学)を拠点キャンパス」にという要望書を府知事あて提出しています。
党府議団は昨年、府立三大学の学長と懇談、大学の要望を聞き、率直に意見交換。これにもとづき昨年九月と今年二月の府議会で岸上しずき府議が府の「計画」の問題点を批判、大学関係者や地元の要望を聞くべきだと要求しました。
党府委員会は昨年十月、府立の大学改革提案を発表しています。
(小林裕和党府委員会知識人部副部長)
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横浜市では、公立大学として七十五年の歴史を持ち、各分野に多彩な卒業生を送り 出してきた横浜市立大学の廃校や縮小を迫る行政側の動きが、大問題になっています。教職員や卒業生、学生、市民が、市大の存続・発展を求めて運動に立ち上がっています。
中田宏市長の諮問機関である「市立大学の今後のあり方懇談会」座長の橋爪大三郎東工大教授はことし一月、「廃校も選択肢のひとつ」とする私案を発表。二月に発表した懇談会の答申では、「改革の具体策」として、「大学の経営形態は、独立行政法人とする」「三学部(商学部、国際文化学部、理学部)を一学部に統合する」とし、「学費を値上げする」「市費による研究費の負担は、大学が精選した分野を除いて、原則として行わない。外部資金が得られた場合に、研究を進める」などと打ち出しました。
こうした動きに対し、関係者、市民は、いち早く二月八日、大学のキャンパスで緊急シンポジウムを開き、その場で「横浜市立大学を考える市民の会」(市民の会)を結成。シンポを重ね、はがきを含めて卒業生約二万人に協力をよびかけ、ポスターも作製、インターネットのホームページも立ち上げ、反響を呼んでいます。市大の存続・発展を求める署名は、すでに約一万人分が寄せられています。
市民の会代表で、市大の卒業生でもあり、現在名誉教授の長谷川洋さん(69)=横浜市金沢区在住=は、「私たちは大学改革そのものに反対しているわけではなく、答申の中身に重大な矛盾点があると考えています。答申では、研究から教育に重点を移すとしていますが、大学にとっては研究、教育、学生の人材育成が骨格であり、そこを弱めてしまっては、市民ニーズにこたえることや生涯教育も十分にできなくなります」と指摘。「市長も大学側も、私たちの指摘を受けとめ、検討し、そこをクリアした改革の方向を示してほしい」と訴えます。
東京在住で、ホームページやシンポを通じて市民の会に加わった、商学部卒業の会社員の女性(30)も、「大学の改革を半年ぐらいの期間でやってしまうというのが信じられません。学生の意見が全然反映されていない」と疑問を投げかけます。
会では、六月七日に作家の井上ひさしさんを招いて、市大の存続・発展を求める市民の夕べも開きます。
日本共産党は、横浜市議団が、緊急シンポにかけつけ、二月十二日に見解を発表。「廃校」や「法人化」を許さない大学人と市民の運動をよびかけ、市議会の本会議や大学教育常任委員会で答申の問題点をただすなど、市民と力を合わせて頑張っています。
(神奈川県・岡田政彦記者)
全国に公立の大学は七十六(組合立含む)、短大が三十あります。今国会に提出された地方独立行政法人法案は、地方自治体が独立行政法人をもてるようにするもので、公立大学も対象になっています。(「公立大学法人」)
大阪府や横浜市のほか東京都、兵庫県、京都府、長崎県などでは、この法案や国立大学法人化をにらんで、公立大学を法人化する構想を明らかにしています。
公立大学は、住民の教育要求にこたえ、地域に貢献するために、地方自治体が設置し、経費を負担しています。しかし、法人化されると経費負担は法人の責任となります。“効率”的経営や自己資金の獲得が強められ、資金に結びつかない幅広い教養教育や基礎科学の研究、地域への貢献などが弱まらざるをえません。
また、自治体の長(首長)が大学の目標を定め、その達成業績を行政機関におく委員会が評価するなど、教育研究が首長の意向に左右されるようになり、大学の自主性が損なわれます。
学費も議会の議決する上限の範囲で法人が決めるため、学部ごとに異なる学費となり、理系や医系などで高額になることが危ぶまれています。