2017年12月25日(月)
学校での働き方改革 「中間まとめ」を考える
“教員の自分 取り戻したい”
子どもたちの豊かな成長をはばむような長時間の勤務を、なんとかしてほしい―。学校現場の切実な声にこたえて、中央教育審議会は22日、学校における働き方改革にかかわる「中間まとめ」を林芳正文科相に手渡しました。文部科学省としても年内中に緊急対策を取りまとめると表明。教員がすべてを担うのではなく、地域住民や保護者らへと促す改革案「中間まとめ」について、考えてみました。(堤由紀子)
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教頭「5時半ですよ。みんな帰って!」
教員A「うるさいよ」
教員B「帰れません」
毎夕
ある小学校の職員室。毎夕、こんな光景が繰り返されています。勤務時間の徹底管理を任された教頭は、みんなを早く帰らせたい。でも…「私たちは、仕事が終わらないから残っているのに」。50代後半のベテラン教員の声です。
この教員はこの秋、宮沢賢治のゆかりの地を訪ね、「注文の多い料理店」の教材を作り、子どもたちと学び合いました。準備には時間がかかりました。授業を始めてから、「どの子の感想も載せたい」と手間を惜しまずに通信を発行し続けました。それは、通信を楽しそうに読む子どもたちの姿があったから。
「もう、楽しくて楽しくて。忙しかったけど、その間は学校に行くのが少しもイヤじゃなかった」と。子どもの目が輝くなら苦にはならない。こういうことに使う時間なら、生き生きできるのです。
ところがこの間の「教育改革」は、こうした「本来の教員の仕事」をする時間を、根こそぎ奪います。「教員としてのやりがい」を見失っている人たちが多いと言います。
時間
「とりあえず今より勤務時間を短くしなければ、じっくり考える気持ちのゆとりは生まれない。それほど追い込まれている」と警鐘を鳴らします。
「子どもも教員も親もしんどい。そのしんどさを共有しながら、教員が教員であることを取り戻したいんです。子どもたちと教育を営む自由と時間を、私たちにください」
長時間労働 変えたい
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負担軽減 正規増やして
「中間まとめ」は教員が担ってきた業務を仕分けし、負担軽減を提案します。(別項)
「児童生徒の休み時間における対応などは、ありがたいですね。トイレさえ行けない教員が多いんです」。こう話すのは40代前半の小学校教員です。
とかく目が足りなくなりがちな休み時間。「校庭に何人かボランティアがいてくれると安心。でも、教員が全然関わらないのではなくて、交代で見守る感じがベストです」
(7)の「校内清掃」で目に浮かんだのは、詰まったトイレを必死に直す教頭の姿でした。一般家庭のトイレと違い、簡単には直りません。しかし、こうした校内の修繕のほとんどは教職員か管理職が担っており「結構な負担」と言います。「こういうものこそ業者に頼めるようにすべきです」
一方で、「(10)授業準備」や「(11)学習評価や成績処理」などは、「外部化」で打ち合わせに時間がかかり、かえって教員の負担が増えると言います。「せめて学校にあと1人正規教員を増やしてくれれば、かなりの部分は軽減されるはずです」
何より大事にしたいのは「学校のことは学校で決める」こと。「自由に話し合う場をつくり、それぞれの学校にあう方策を考えたい」
職員会議 自由な発言を
「運動会のテント立てなんて別に負担じゃないんですよね。当日に微調整も必要だから、業者に頼むとかえって手間がかかるんです」
14項目を前にこうつぶやくのは、40代後半の小学校教員です。
有効なのは「(7)校内清掃」。業者に任せれば、その分の時間を給食指導にあてられるかもしれない。でも…。「これでは楽にならないというものもあれば、こんなことをしたら教育実践がますます画一化されてしまうというものもあって。よく中身を見なければですね」
「まとめ」には「教職員間で業務の在り方、見直しについて話し合う機会を設けることが有効である」とあります。しかし職員会議は年々「上意下達機関」になりつつあります。「職員会議で教員が発言するのを初めて聞きました」と、先日若い教員に言われたばかり。「ものが言いにくい職員室や職員会議を変える機会にできれば」
忙しすぎる部活指導 「メリットはあっても…」
「時間をかけて作っていた学級通信をやめたら、早く帰れるようになりました」
こう話すのは、30代の中学校教員です。早いといっても午後7時か7時半ですが、「周りの中学校教員はもっと遅い」と。「教員の仕事って、やり出したらどれだけでもできちゃうんです。でも『とにかく削れ』なんて上から枠をはめられても困る。いま何を大事にするかは自分らで決めたい」
太鼓部の顧問。地域からは引っ張りだこで、日曜に本番が入ると土曜も練習をせざるを得ません。朝から始めると地域住民から苦情がくるため、午後からしか活動できず、「結局、1日つぶれちゃうのがつらいですね」。
部活について「中間まとめ」は、将来的には「学校以外が担うことも積極的に進めるべきである」とのべています。現在、月に何回かは外部指導者が来ていますが、「今のままでは本来の仕事が回らなくなる」とも。「子どもの成長というメリットはあっても、今のままでいいとは思えない。でも、どこから手を付けたらいいか…」
今回の業務の「仕分け」については、別の角度からの懸念も出されています。「外部の『担い手』が見つからないまま、そこに臨時教員がはめこまれるのではないか」。こう話すのは、臨時教員の身分保障などにかかわる30代前半の高校教員。「懸念を解決するためには、正規教員の枠をもっと増やすことが必要だ」と訴えます。
今でも自治体は、経費削減のために臨時教員などの非正規教員に頼りがちです。「やりがいを搾取されながら、いつも不安と隣り合わせ。そんな非正規教員の『指定席』になってしまったら、私たちの願いとはまったく違う。非正規教員の働き方改革にもとりくんでほしいです」
「中間まとめ」での負担軽減に関する主な記述
【負担軽減が可能な業務の例】
○標準授業時数を大きく上回った授業計画
○必要性が乏しく、習慣的に行われてきた業務
○学校が作成する年間指導計画などで過度に複雑かつ詳細な計画
【教育委員会などの取り組むべき方策の例】
○行政研修の整理や精選
○研究指定授業のテーマの精選など負担面への配慮
【代表的な業務についての考え方】
[基本的には学校以外が担うべき業務]
(1)登下校に関する対応(2)放課後から夜間などにおける見回り、児童生徒が補導された時の対応(3)学校徴収金の徴収・管理(4)地域ボランティアとの連絡調整
[学校の業務だが、必ずしも教員が担う必要のない業務]
(5)調査・統計などへの回答など(6)児童生徒の休み時間における対応(7)校内清掃(8)部活動
[教員の業務だが、負担軽減が可能な業務]
(9)給食時の対応(10)授業準備(11)学習評価や成績処理(12)学校行事などの準備・運営(13)進路指導(14)支援が必要な児童生徒・家庭への対応