2017年12月19日(火)
2017とくほう・特報
性暴力被害 どう向き合う
政治と社会の支援ぜひ
法改正へ関係者参画必要
「性暴力は、誰にも経験して欲しくない恐怖と痛みを人にもたらす。そしてそれは長い間、その人を苦しめる」―。元TBS記者の山口敬之氏から性的暴行を受けたとして、損害賠償を求める訴訟を起こしているジャーナリスト、伊藤詩織さんが著書で語っている言葉です。13歳の時、父から性的虐待を受けた山本潤さんは「被害を受けていた7年間の3倍の日数の21年間を、トラウマ症状とそこからの回復に費やしてきた」と国会で参考人として語っています。日本の性暴力を取り巻く状況を変えていく努力が、私たちの社会や政治に求められています。(特報チーム)
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7割「相談せず」
内閣府の調査(2015年3月公表)では、異性から無理やり性交された被害者の7割もの人がどこにも誰にも相談しなかったと答えています。「恥ずかしくて誰にも言えない」「自分さえ我慢すればなんとかこのままやっていけると思った」などと苦しみを一人で抱え込んでいる実態があります。警察に相談した人は5%にも満たず、ほとんどの加害者は野放しにされています。(図)
性暴力の被害と加害が潜在化するのはなぜなのか。「性暴力の実態が知られていません。(交際相手など)知人からの被害が7割から8割。中には親族や学校の先生、スポーツのコーチからの被害があります。そうすると被害者は非常に声をあげにくい」。こう話すのは、性暴力被害や支援にくわしい武蔵野大学教授の小西聖子さん(精神科医)です。
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被害を相談しても「あなたにも責任がある」とか「必死で抵抗しなかったあなたが悪い」などと言われ、さらに声をあげられなくなるという悪循環です。性暴力の被害を否定され、二次被害を受けるのです。
もう一つ、小西さんが指摘するのは、加害者が真っ向から否定した場合の証拠保全の問題です。「性暴力が刑法犯として裁かれるには被害の証拠が重要になります。性暴力は密室で行われる場合が多く、加害者が真っ向から否定すると証拠をどうするのかという問題があります」
9月28日、損害賠償を求める民事訴訟を起こした詩織さんの場合も、相手は面識のある人物でした。訴状によると、2015年4月3日、詩織さんは就職の相談で山口氏と会食。飲酒しただけで記憶がなくなってしまいました。翌朝午前5時ごろ、詩織さんが意識を失っているのに乗じて山口氏が性的暴行を行ったとしています。「痛みで目が覚めると被告(山口氏)からの性的被害に遭っている最中であった」。意識を取り戻し、性行為をやめるよう求めた後も山口氏が性的暴行を続けたと訴えています。
警察の対応の問題点を参院法務委員会(12月5日)で取り上げたのは、日本共産党の仁比聡平参院議員です。詩織さんから警察に相談があったときに「(意識や記憶がない被害に対し)病院に同行して、採尿や採血を速やかに行う義務が警察にはあったのではないか」と指摘しました。実際には警察は客観的な証拠保全は行わずに、逆に被害者に重複した長時間の聞き取りを繰り返しているのです。こうした対応が被害を潜在化させる大きな要因になっています。
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背景に刑法規定
被害を誰にも相談できない背景には、刑法の性犯罪規定が深くかかわっています。参院法務委員会(6月)の参考人質疑で発言した山本潤さんは、13歳から7年間続いた父からの性的虐待の実態を述べて、「私のケースのように暴行、脅迫がなくても性暴力を振るうことは可能です」と語りました。
110年ぶりの改正刑法は性犯罪を非親告罪にするなど前進がある一方、多くの課題が残されています。強姦(ごうかん)罪、強制わいせつ罪の「暴行・脅迫要件」が残されたこともその一つです。
改正刑法には、3年後の見直しが盛り込まれています。
「法改正に向けた検討会や審議会に被害者に参画してもらうべきだ」と仁比議員が5日の参院法務委員会で求めたのに対し、上川陽子法相は、「被害者を含めた関係者の声を聞くことは極めて大事だ。手順や検討の場は関係府省と協議しながら検討したい」と述べています。
超党派の検証会
詩織さんが訴えている性的暴行について、警察や検察、検察審査会などの在り方、公権力の行使の適正化を検証する超党派の国会議員による「検証する会」が11月21日、発足しています。これまでに3回開かれています。
被害届と告訴状が受理された15年4月末から1カ月余後の6月初め、山口氏に対する逮捕状が請求されたものの、逮捕状執行が直前になって警視庁刑事部長の中村格氏(いたる)(現警察庁総括審議官)の指示によってとりやめられる事態となりました。その後、東京地検が山口氏を不起訴処分(昨年7月)とし、詩織さんは検察審査会に不服申し立てをしましたが、今年9月、東京第6検察審査会が「不起訴相当」と議決しています。
検証する会に参加している日本共産党の本村伸子衆院議員は「事件の検証はとても大事なことであり超党派でとりくんでいきたいと思います。同時に詩織さんの命がけで現状を変えようという思いに応え、野党共同で提案している性暴力被害者支援法案の成立に力を注ぐ必要があります」と話します。同法案は昨年国会に提出されましたが、廃案となっています。
性暴力被害者支援法案は、性暴力について「性的な被害を及ぼす暴力その他の言動」と幅広く定義。国や都道府県に被害者支援計画の策定を義務付けます。性暴力被害者の相談、心身のケア、証拠採取が1カ所で行えるワンストップ支援センターを少なくとも各都道府県に1カ所は設置することなどを定めています。支援センターの財政措置の根拠となります。支援センターは全国に8月現在40カ所あります。
ワンストップ支援センターと連携した精神科臨床を行っている小西さんは「被害者は産婦人科を受診、必要な処置をし、その後必要があり希望があれば精神科を受診することになります。センターからの紹介では、被害後早い時期に初診となることが多くなりました。被害者には未成年と20代が多いので早期の支援活動が重要です」。