2017年10月30日(月)
米、先制・核攻撃を検討 69年 対北朝鮮
「トランプ政権は予防攻撃も」元米高官警告
問われる「全面支持」安倍政権
戦争法の危険 現実味
1969年4月に米軍の偵察機が北朝鮮に撃墜された際、米国は核攻撃や、自らが攻撃されなくても武力行使する「先制攻撃」による報復を検討していたことが分かりました。米研究機関「ナショナル・セキュリティ・アーカイブ」が入手した解禁文書に明記されていました。トランプ政権は核実験や弾道ミサイル発射などの挑発を繰り返す北朝鮮に対して、武力行使を含む「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」としており、安倍晋三首相はこれを全面的に支持しています。そこには先制攻撃が含まれている可能性が強く、安倍政権の姿勢が問われます。
沖縄から出撃想定
69年4月15日、米海軍厚木基地(神奈川県)所属のEC121偵察機が日本海上で情報収集中に撃墜され、乗組員31人全員が死亡する事件が発生しました。米側はただちに報復攻撃案を検討。同年6月25日にレアード国防長官がキッシンジャー大統領補佐官(国家安全保障担当)に宛てた覚書には13の選択肢が示されました。
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その一つである先制攻撃作戦では、夜間攻撃を行うB52戦略爆撃機が、グアムからでなく、沖縄の「嘉手納基地から飛び立てば(目標到達時間が)3時間短縮されるだろう」との記述があり、沖縄が先制攻撃の拠点として想定されていたことがうかがえます。
また、核攻撃作戦では10〜70キロトンの核兵器を用い、地上部隊の指揮所や空港・海軍基地に最大47回の攻撃を行うとしています。
これらは発動されませんでしたが、偶発的な衝突が核戦争にまで発展する危険があることを示しています。
さらに94年の第1次北朝鮮核危機の際も、巡航ミサイルやF117ステルス戦闘機による核施設への先制攻撃が検討されていましたが、同年6月、カーター元大統領の訪朝で攻撃は回避されました。その後、北朝鮮の核開発凍結・撤退に関する「米朝枠組み合意」が成立します。
当時、北朝鮮との交渉担当者として戦争寸前の状況を目の当たりにしていたガルーチ元米国務次官補は本紙の取材に対し、「トランプ政権は予防攻撃を行う可能性がある」と警告。その理由として、北朝鮮が米本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発すれば、これを迎撃する「ミサイル防衛」網が未完成であることをあげています。
その上で、「北朝鮮は圧力では核を放棄しない。戦争の真の対案は対話しかない」と強調しています。
日本巻き込む恐れ
米国が北朝鮮に対して先制攻撃を含む軍事作戦を行えば、日本の国土が「戦場」になる危険が、従来よりはるかに高い―。その理由が二つあります。
一つは、北朝鮮の弾道ミサイル開発が進み、日本を射程圏内に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」などが実戦配備されていることです。北朝鮮は在日米軍基地への攻撃に繰り返し言及しています。
もう一つは、日米軍事協力の指針(ガイドライン)や安保法制=戦争法などで日米の軍事一体化が深化し、自衛隊が米軍の戦争に自動参戦する仕組みが成立していることです。
1994年の第1次北朝鮮核危機の際、米国は自衛隊による機雷除去や輸送・補給、日本の民間空港・港湾の軍事利用など約1900項目の支援を日本政府に要請。しかし、そのほとんどは新規立法なしには不可能でした。
これを受け、政府は97年、ガイドラインを改定。「周辺事態」(朝鮮半島有事)が発生した場合、日本への直接的な武力攻撃ではなくても、自衛隊が「後方支援」を行う枠組みが作られました。
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さらに2015年4月、日米両政府はガイドラインを再改定。安倍政権はその実行法として安保法制=戦争法を強行しました。従来、自衛隊の活動は非戦闘地域での「後方支援」にとどまっていましたが、安保法制は「戦地」での集団的自衛権の行使など、米軍の戦争に参戦する道を開きました。
政府はすでに、北朝鮮への警戒・監視を行っている米艦船の「防護」や「洋上給油」などを行っています。
こうした米軍への支援には、必ず日本が戦争に巻き込まれ、自衛隊にも国民にも死傷者が発生するリスクが生じます。ところが安倍政権は一度も「リスク」に言及していません。国民の生命・財産を預かる政府の長として、あまりに無責任といわざるをえません。
和田春樹・東京大学名誉教授は、「すべての選択肢はテーブルの上にある」と述べたトランプ大統領に追随する安倍首相の姿勢について「何が起こっても日本はお供をしますという態度だ。国民の安全を危険にさらしている」と批判。11月5日に来日するトランプ大統領に対し「先制攻撃はやめてほしいと伝え、何としても戦争を回避しなければならない」と指摘します。