2017年5月25日(木)
主張
河野統幕長発言
憲法擁護義務踏みにじる暴言
自衛隊制服組トップの河野克俊統合幕僚長が記者会見で、安倍晋三首相(自民党総裁)が自衛隊の存在理由を憲法9条に書き込む改憲を2020年に施行すると繰り返し表明していることに関連し、「一自衛官として申し上げるなら、非常にありがたいと思う」と発言したことが問題になっています。自衛隊員は憲法99条で憲法尊重擁護義務が定められた公務員であり、自衛隊員が任命の際に署名して提出する「服務の宣誓」には、「日本国憲法及び法令を遵守」すると明記されています。改憲を「ありがたい」などというのは、それを踏みにじる暴走です。
悪いことを百も承知で
河野統幕長の発言は外国特派員協会での記者会見という公の場のものです。記者から首相の改憲発言について問われ、「憲法は高度な政治問題」で「統幕長という立場から申し上げるのは適当でない」と断りながら、「一自衛官として」は「ありがたいと思う」と答えました。「統幕長」としては適当ではないが、「一自衛官」としては発言してもいいなどというのは勝手な理屈ですが、河野統幕長が、公務員である自衛隊員が改憲について発言する問題点を百も承知で発言した可能性は明らかです。
憲法は99条で「国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と明記しています。自衛隊法施行規則で定められた自衛隊員の「服務の宣誓」には「自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し」と書かれています。自衛隊制服組トップの幕僚長であれ、一自衛隊員であれ、憲法の「尊重擁護義務」や「遵守」を踏みにじったことに変わりはありません。幕僚長としては発言を控えたように装いながら、一隊員ならいいと言うのはまさに国民を欺く、悪質な憲法尊重擁護義務違反、遵守義務違反です。
もともと安倍首相が憲法施行70年にあたっての「読売」インタビューや改憲派集会へのビデオメッセージ以来、憲法9条に自衛隊の存在を書き込むなどの改憲を20年に施行するとの発言を繰り返していること自体、首相としての憲法尊重擁護義務を著しく踏み外したものです。首相は自民党総裁としてのものだと使い分けることでごまかそうとしていますが、「読売」インタビューには首相としての発言だと明記されていること一つとっても、ごまかしは通用しません。河野統幕長は首相のやり方を踏襲したのか。安倍首相が自民党内で改憲案づくりを急ぐよう指示し、年内にもまとめようとしているのは、まさに首相が目指す改憲が差し迫った危険となっていることを示すものです。
軍部の暴走繰り返さすな
河野統幕長は安保法制=戦争法案の審議さえ始まっていない14年12月にも、米軍を相手に「来年夏まで」には成立すると発言したことが審議中明らかになり、暴走だと非難された前歴があります。
戦前の日本は絶対主義的天皇制のもとで軍部が国民も国会も無視して侵略戦争に暴走し、重大な破局を招きました。憲法を踏みにじった暴走は軽視できません。
河野発言に対し菅義偉官房長官は「個人の発言だから問題がない」としています。しかしそれこそ軍部の暴走が招いた戦前の深刻な歴史を見ないものです。