2017年5月16日(火)
「共謀罪」法案 すでにボロボロ
野党と市民の共闘で廃案へ 藤野衆院議員に聞く
与党が今週にも衆院通過を狙う「共謀罪」法案。政府の答弁は二転三転し、破たんが明瞭になっています。審議の最前線・衆院法務委員会で法案の矛盾を突いてきた日本共産党の藤野保史議員に、法案のボロボロぶりと廃案に向けた展望を聞きます。(聞き手・前田美咲)
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「国際条約締結のため」?
「テロ対策」はウソ明確に
―安倍政権は、しきりに「テロ対策だ」と言っていますね。
「テロ対策の国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を締結するために必要だ」という主張です。
ところが、初めに自民、公明両党に出された原案には「テロ」の文言が1カ所もありませんでした。
TOC条約はテロ対策ではなく、マネーロンダリング(資金洗浄)などの経済犯罪対策なので、「テロ」の文言を書き込めなかったのです。その後、与党内から異論が出て、影響のない箇所に「テロリズム集団その他の」という文言を付け足したという経過自体が、テロ対策の法案でないことを如実に示しています。
本条約の起草過程で、日本政府交渉団が「テロリズムは対象とすべきでない」と主張(2000年7月)していた事実も重大です。日本だけでなく、G8のほとんどの国も同じ主張をしていました。これは、共産党の仁比聡平参院議員が入手した交渉団の公電で明らかになりました。
仁比議員の追及に、岸田文雄外相も、金田勝年法相も、テロと国際的な組織犯罪には「関連がある」と言い張りましたが、関連があることと、テロ対策の条約かということは全然違います。
「一般人は対象外」?
ウソとごまかしの答弁
―「一般人は対象にならない」ということも強調しています。
これも、うそとごまかしを重ねた結果、おかしな答弁が生まれています。金田法相は、処罰だけでなく、捜査も、嫌疑も、告発も「一般人は対象にならない」と言いました。
告発は誰でもできるもので、その有無は警察などの捜査機関がコントロールできることではありません。
「一般人が告発され、捜査しないといけなくなるのは当然ではないか」という民進党議員の追及に、金田法相はまともに答えませんでした。安倍首相が最初に「一般人は対象外だ」と言ったことで、うそを重ねざるをえなくなっているのです。
岐阜県警大垣署による市民監視事件のように、警察がすでに、普通に暮らす市民に目を光らせている実態もあります。和歌山市では、2016年の参院選で「選挙に行こう」と路上アピールしていたグループが、県警に撮影され、条例違反を口実に行動を中止させられる事態が起きました。警察は、「適正だった」と居直っています。結局、どんな人を「一般人」とするかは、権力側が決めるということです。
「内心処罰しない」?
集団認定は警察まかせ
―「内心を処罰するとの指摘は当たらない」というのも、安倍政権の決まり文句ですね。
その根拠は、対象を「組織的犯罪集団」に限定し、処罰には合意に加えて「準備行為」も必要だからだというものです。
論戦で明確になったのは、組織的犯罪集団かどうかを判断するのは警察だということです。金田法相がよく持ち出す暴力団と比べると、恣意(しい)的な判断を防ぐ仕組みが全くないことが分かります。
暴力団の認定には、犯罪歴のある構成員が一定割合いるなど、客観的な数字が要件となっています。また、団体側に異議申し立ての場を公開で設け、警察だけでなく、各種公安委員会が入り、さらに民間から選ばれる審査専門委員が審査する手順を踏みます。ここまでするのは、憲法21条(集会・結社の自由)を尊重した結果です。
「準備行為」の区別 荒唐無けい
組織的犯罪集団については、全て警察任せ。非常に浅薄で、憲法も無視されています。
「準備行為」も歯止めにならないことが明瞭になっています。準備行為として罪に問われるのがどんな行為なのか定義はなく、外見では、日常生活のさまざまな行動と区別できません。仁比議員が、花見と犯罪の下見を例に「違いをどう区別するのか」とただすと、金田法相は「目的を調べる」と答えました。
さらに私が「目的を調べるなら、内心の処罰につながるじゃないか」と追及すると、「外形的事情からも分かる」「ビールと弁当を持っていれば花見、地図と双眼鏡なら下見だ」というのです。
では、四つ持っていたらどうなるのでしょうか。結局、準備行為の規定には意味がなく、取り締まりの核心は「合意」だということが浮き彫りになった答弁です。
共謀罪の根本的な問題は、「既遂の処罰」という刑法の原則を覆す点です。犯罪の結果が起こる前、2人以上で犯罪の合意をしたと警察がみなしたら、捜査の手が伸びてくるということです。
「犯罪を企てるのは、それだけで悪いことだ」と思う方もいるかもしれません。しかし、心の中で思ったことを「怪しい」「危険だ」と判断するのは警察です。そもそも思っていないことや、ふと思ったけれども本気ではなかったことを証明するのは至難の業です。
戦前、思想を取り締まる治安維持法の下に、無数の人が身に覚えのない疑いをかけられ、無実を証明する術(すべ)もなく、取り調べられ、拷問され、時には命を落としました。その歴史の反省に立って、日本国憲法19条は内心の自由を保障したのです。合意を処罰する「共謀罪」は、これを侵す違憲立法です。
安倍政権の狙い
「もの言う市民」への威圧
―安倍政権の下で「共謀罪」がつくられようとしている意味をどう考えますか。
4月25日の参考人質疑で、漫画家の小林よしのりさんが、“何事もなく暮らしていた市民が、ある時「もの言う市民」に変わらざるを得なくなることがある。その機会を保障するのが民主主義の要諦(ようてい)だ”と言いました。
福井県高浜町・音海(おとみ)地区の「原発運転延長反対」決議は、その端的な例です。同地は関西電力高浜原発(同町)の地元中の地元。イメージの悪くなった原発の運転が延長されたら、若者が帰らず、過疎がますます進むという危機感があったそうです。
その直後、県警や海上保安庁が住民を訪ねてきたといいます。故郷の存続を願う切実な声も、権力による威圧の対象になる。市民が声を上げた時に、政治が応援するのではなく、つぶすための武器になるのが「共謀罪」です。
安倍政権によるあらゆる分野の暴走で、ママの会やシールズのように、ものを言わざるを得ない人が増えています。安倍政権はそれを非常に恐れています。日本の民主主義の前進と表裏一体で、政権側もかつてない弾圧に乗り出そうとしているのです。
今、共謀罪に反対して「もの言う市民」は大きく広がっています。日弁連はじめ法律家7団体、日本ペンクラブ、160人超の刑法学者有志が声明を出し、反対署名は55万人分余に上ります。4野党も本法案の廃案で一致しています。
さらに、安倍首相の「9条改憲」発言が、市民の皆さんの危機感を高めています。「共謀罪」法案が、戦争する国づくりの一環であることが改めて浮き彫りになったためです。
与党は、審議時間が目安を超えるから採決だといいますが、とんでもない。政府の答弁は、国民の不安や懸念をむしろ深めています。都議選もあり、国会の日程は厳しい。「もの言う市民」の輪を幾重にも広げ、野党と市民の共闘を強めれば、廃案に追い込むことは十分可能です。