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2017年5月6日(土)

2017とくほう・特報

山本創生相の学芸員敵視発言に見る

稼げ稼げ 地方と文化に迫る

安倍「地方創生」「観光立国」の正体

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 地方創生相なのに、なぜ、博物館・美術館などの学芸員を目の敵にするのか。「学芸員はがん」「一掃を」とした山本幸三地方創生相の暴言。背景には、文化と地方を軽んじて「稼ぐ」ことを迫る安倍政権の「観光立国」「地方創生」政策があります。

 (阿部活士、武田恵子)


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(写真)滋賀県地方創生セミナーで講演する山本創生相=4月16日、大津市

地域破壊に反省なし 文化予算の増額こそ

 地方創生相に就任する前まで自民党観光立国調査会長を務めていた山本氏。セミナー講演後の質疑応答で、観光による地方創生について参加者から問われ、答えるなかで、学芸員侮辱発言が出ました。

 「一番のがんは、文化学芸員といわれる人たち」「この連中は普通の観光マインドは全くない…この連中を一掃しないといけない」と言い放ったのです。

 その後の弁明会見でも「真意は観光マインドを持ってほしいとの思いから」と繰り返しています。観光マインド(観光精神)をもって仕事をしろというのです。

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(写真)中央メーデー会場で「山本創生大臣ヤメロ」のプラカードも持参した自治労連の組合員=1日、東京都渋谷区

現場の反論

 観光マインドとは「稼ぐ努力」だとして、反論するのは、北海道博物館協会です。博物館学と観光学が専門の石森秀三会長名のメッセージ(4月22日付)では「地域の活力を維持していくために『観光立国政策』が重視されている」が「現実には『インバウンド立国政策』の色彩が強い」と指摘しています。インバウンドとは、訪日外国人観光客のことです。急増する訪日外国人観光客に「『稼ぐ努力を行わない学芸員は一掃しないと駄目だ』という暴論につながったようだ」としています。

 実際、山本地方創生相のセミナーでの講演レジュメには「地方創生=地方の平均所得をあげることと定義。“稼ぐ”取組が重要」「大事なことは『自助の精神』」とあります。題は「『地方創生』加速の戦略〜全国の優良事例」。

 東京大学大学院法学政治学研究科教授の金井利之さんはレジュメについて「“稼ぐ”というのは、行政の仕事ではない。稼ぐのは民間の役割であって、稼げない部分をやるのが自治体だ」としながら、レジュメは安倍「地方創生」の正体を現していると批判します。

 地域の人々は、国に言われなくても「まち(むら)おこし」「地域活性化」などさまざまな名称で努力してきたと金井さん。地方の平均所得を下げてきた張本人は、国だといいます。

 「政府は公共事業を減らした一方、増税を延期し、社会保障の充実は進まず、地方圏の需要が減りました。『平成の大合併』で、まちづくりの司令塔を消した」と金井さん。そのなかで、アベノミクス(安倍政権の経済政策)の失敗の延命策として出されたのが「地方創生」だと指摘します。

 金井さんは、弱っている人に栄養も休養も与えず、ただ精神論で「頑張ってください」と掛け声をかけて、無理に動かしているのが「地方創生」だと例えます。

 「東京一極集中の構造はかえない『地方創生』は、東京・大都市の富裕層むけに『商売する』ことを地方圏に押し付けるもので、国の地方圏への無策を示しています。地方は活性化しないまま、早晩疲労困ぱいとなる」と語ります。

 自治体で働く職員でつくる労働組合・自治労連は「安倍『地方創生』ではなく、『住民が主人公』を貫き、地域の再生を」と題する提言を出しています。自治労連の中川悟書記長はいいます。

 「暴言の撤回だけですまない。ナショナルミニマムの責任を放棄し、現に地域を破壊している反省もなく、国の方向だけにあうところにお金を出す『地方創生』政策そのものを撤回すべきです」

1ケタ違う

 山本暴言にたいし「博物館とそれを支える学芸員の重要性を改めて確認します」とする声明を4月19日出したのは日本生態学会です。

 声明について、会長の可知直毅さんは「日本の博物館は、国際的に高い評価を受けています。それは博物館職員のたゆまぬ努力の結果です。一方で、人手不足や予算縮小のため、十分な活動が行えていない博物館も少なくない」と話します。

 山本地方創生相が「20年来の友だち」と紹介したデービッド・アトキンソン氏は近著『新・観光立国論』で「日本の文化財は、あまりにも『稼ぐ』ということに対して淡泊な印象です」と記しています。一方で、アトキンソン氏は、日本の文化予算の少なさに着目し「他の観光大国と比較すると、ほとんどケタが1つ違うという状況です」と述べています。

 博物館や美術館などに「稼ぐ」努力を強いるより、文化予算を増やすことです。

 北海道博物館協会石森会長の反論メッセージは「地方創生相は軽々と学芸員を蔑む前に、…より良く仕事を展開できるように、様々なかたちでの学芸員に対する支援方策を真剣に検討すべき」だと結んでいます。

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(図)山本創生相のセミナーレジュメ


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