2017年3月27日(月)
「ない」文書「漏えい」?
自衛官が冤罪訴え発覚
防衛省隠蔽 新疑惑
南スーダンPKO(国連平和維持活動)の「日報」問題で隠蔽(いんぺい)体質が問われている防衛省。さらに新たな隠蔽疑惑が明らかになっています。国会で平然とウソの答弁を繰り返しながら、証拠隠滅をはかる安倍内閣の姿勢がいっそう浮き彫りになっています。(矢野昌弘)
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「腹立たしいのは、国会で『ない』と否定しながら、『統幕文書を流したのはおまえだろう』と言われたこと」
防衛省情報本部の大貫修平3等陸佐(42)は、提訴後の会見で語りました。大貫さんは、冤罪(えんざい)だと国を相手どり500万円の損害賠償を求めて17日、さいたま地裁に提訴しました。
陸上自衛隊中央警務隊に身に覚えのない情報漏えいの容疑をかけられ、長時間の取り調べやウソ発見器による検査、家宅捜索などを受けました。そのうえ不当な配置転換をされたのです。会見で大貫さんは「犯人扱いされて、“島流し”的な状況をなんとかしたい」と語りました。
“漏えい”したとされるのは、日本共産党の仁比聡平参院議員が2015年9月2日に参院特別委員会で告発した文書(統幕文書)。14年12月に河野克俊統合幕僚長が訪米した際の記録です。
米軍高官らと会談で河野氏は「14日に衆院選挙があり、与党が圧勝した。(ガイドラインや安保法制の整備が)与党の勝利により来年夏までには終了するものと考えている」と発言していました。
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当時、審議中だった戦争法が具体的に検討される、ずっと前の時期に統幕長が米軍高官に戦争法の成立を言明していたのです。
「統幕文書」を明らかにした仁比氏や共産党議員の追及に対して、中谷元防衛相(当時)や安倍晋三首相や河野統幕長も「存在しない」などと否定し続けました。(表参照)
ところが、防衛省は国会での説明とは裏腹に、文書の隠蔽工作をはかっていたのです。
もともと「統幕文書」は「取扱厳重注意」の文書でした。
しかし、仁比質問の翌日(9月3日)、防衛省は河野統幕長の訪米記録を「省秘」に指定。大貫さんが所属する情報本部では同月5日ころ、職場内のパソコンから、この文書の削除が命じられました。
大貫さんは「国会で騒がれてしまったから、隠滅をはかろうとしていると思った」と語ります。その後、大貫さんは身に覚えのない情報漏えいの容疑で、警務隊の取り調べを受けることになります。
代理人の伊須慎一郎弁護士は「『ない』と言った文書の漏えい容疑で『お前が犯人だ』と自白させようという悪どいやり方だ」と防衛省を批判します。
大貫さんは警務隊から家宅捜索などの強制捜査を受けました。防衛省の訓令では、こうした強制捜査には防衛相の承認が必要です。
当時の中谷防衛相は、国会で文書は「ない」と言いながら、文書漏えいの“犯人”を捜させていたのです。
日本共産党の井上哲士参院議員は23日の参院外交防衛委員会で「国民の知らないところで秘密にして廃棄する。日報と全く同じことをやっている。これが隠蔽体質だ」と強く批判しました。
■存在ごまかし裏で破棄した統幕文書
日時 国会と原告をめぐる動き
2014年
12月24日 【原告】統幕文書に似た内部文書を上司からメールで受信。通常の業務として、主要な部員に転送
2015年
9月2日 参院特別委で仁比議員が統幕文書をもとに追及
3日 統幕監部が内部文書を「秘密」文書指定
同日 会見で河野統合幕僚長が「今、防衛省内で確認中」と発言
4日 中谷防衛相(当時)が「この資料が防衛省が作成したものか否かも含めまして調査をしている」
5日ころ 【原告】統幕監部から内部文書を削除するよう連絡を受け、上司に確認の上でパソコンからデータ削除
7日 防衛省は鴻池祥肇・参院特別委委員長に、統幕文書は「存在しない」と通知
11日 安倍首相が参院特別委で「仁比委員が示された資料と同一のものは存在しない」
9月末以降
【原告】警務隊から取り調べを受ける。11月にはポリグラフ検査。その後、自宅や実家が家宅捜索を受ける
※国会答弁と訴状などをもとに作成