2017年3月20日(月)
主張
GPS最高裁判決
捜査権の乱用への厳しい警告
捜査対象者の自動車に、裁判所の令状をとらず全地球測位システム(GPS)端末を取り付ける警察の捜査手法について、最高裁大法廷は「個人のプライバシーを侵害する」として違法とする判断を示しました。捜査にGPSを使うことの是非は各地の裁判所で判断が分かれていましたが、最高裁が“令状のないGPS捜査は違法”と初めて判断したことは、国民の権利を侵害する警察の捜査権の乱用に対する厳しい警告です。
憲法の保障する利益侵害
GPS捜査は、警察が「捜査対象者」とみなした人の車などにGPS端末をこっそり取り付けて監視下におき、所在地や移動履歴を把握するために行われてきたものです。警察はGPS捜査を令状のいらない「任意捜査」だとして、だれにどう使うかを恣意(しい)的に決めており、国民のプライバシーを侵す恐れが極めて強い捜査手法として大問題になっていました。
しかも警察庁は、2006年に都道府県警に出した通達で、捜査書類にGPSを使ったことを推察させる記載をしないことを求めるなど、その捜査実態を国民の目から隠すことも徹底してきました。
今回の最高裁判決は、警察の勝手な判断で人権侵害につながる捜査を広げてきたことに歯止めをかけたといえます。判決は、GPS捜査は「個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得る」と明記、端末を個人の所持品にひそかに装着することは、公道上の所在を肉眼で把握するなどの手法と異なり「公権力による私的領域への侵入」としました。
さらに憲法35条「住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」の規定を挙げ、「GPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害する」もので、令状が必要な「強制捜査」にあたると結論付けました。警察の捜査権乱用を危惧する国民の常識にかなった妥当な判断です。
また判決はGPS捜査でどのような令状をとれるのかについて検討し、端末を付けた車を特定したとしても「被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握」を抑えることができないなど、現在の刑事訴訟法では対応は難しいとして、新たな立法措置を求めました。しかし、GPS捜査は本人の知らないうちに行われるものであり、犯罪と無関係の市民の動向まで監視されかねない危険な性格を考えると、立法措置は極めて問題です。
警察庁は最高裁判決を受けて、GPS捜査を控えるよう通知を出しましたが、長年にわたり、国民に隠れて「違法」な捜査を続けてきたことを反省すべきです。
危険な共謀罪法案許さず
安倍晋三内閣は、広がる国民の批判の声に逆らって、明日にも「共謀罪」法案を閣議決定し、国会に提出しようとしています。
「共謀」を犯罪行為とすることは、相談や準備などを取り締まりの対象にすることであり、そのために安倍政権は国民監視を強める捜査方法の拡大も狙っています。
GPS捜査以外にも警察は盗撮なども「任意捜査」の名で行っています。盗聴法の対象範囲も広げられ、捜査権乱用の危険は高まっています。監視社会づくりを狙う「共謀罪」法案を許さない声を広げることがいよいよ急務です。