2017年3月2日(木)
主張
トランプ氏の演説
「米国第一」で内外政策の危険
トランプ米大統領は2月28日夜(日本時間1日午前)、連邦議会上下両院合同議会で「施政方針」にあたる演説をおこないました。トランプ氏はあらためて自身の選挙勝利の背景である米国社会が陥っている深刻な現実を列挙したものの、それを打開する道を示すことはできませんでした。一方で、「米国第一」を前面に立てながら、「米国の歴史上最大の」軍事費と、米国の同盟国に対して戦略と軍事作戦の両面でのいっそうの役割を求めました。
“史上最大の軍事費”強調
トランプ氏は演説のなかで、9400万人が就業していないことや4300万人が貧困状態に置かれているという数字をあげました。共和・民主の歴代政権を通した新自由主義の経済政策のもとで、国内産業の空洞化が進み、正規雇用の減少、格差の拡大が続いています。しかし、トランプ氏は行き詰まりの原因には踏み込めず、根本的打開策には触れていません。
“1兆ドルのインフラ投資”、“公正な貿易”、“雇用の流出阻止”などへの言及は、米国の行き詰まりの反映でした。しかし、出てきた具体策は減税と規制緩和でした。
トランプ氏はこれまで、税制改革に関して法人税の税率を引き下げる一方で、「国境税」を導入することに言及してきました。下院共和党は現行35%の法人税率を20%まで引き下げる素案を示しています。「国境税」では、輸入品に20%課税するとしています。これには輸入品の価格上昇につながり、結局は消費者の負担になるとの批判がでていますが、歳入の柱と目されるこの点での言及もありませんでした。
トランプ氏の演説で明確に示されたのは、「米国の歴史上最大の国防予算を議会に要求する」という点です。北大西洋条約機構(NATO)諸国に対しては“応分な軍事費”としてその増額を求めました。さらにNATO、中東、太平洋諸国の同盟国に対しては「戦略、軍事作戦の両面で、直接的で意味のある役割を果たし、公平に軍事費を分担することを期待する」と表明しました。
今後、日本に対しても、軍事費負担の拡大や軍事的役割の増強を迫ってくることが垣間見える演説とも言えます。強い警戒が必要です。
軍事的な「米国第一主義」の強調とは対照的に世界が直面する課題に対する国際的協力についての提案はほとんど見当たりません。これまでの歴代米政権の外交戦略からしても、その違いは明らかです。
外交対応の是非問われる
トランプ氏は就任後、イスラム圏7カ国からの入国を禁止する大統領令を発しました。内外の批判を呼んだこの大統領令に、サンフランシスコ連邦控訴裁判所は「米国の立憲民主主義の根本的構造に反する」と判断。いま大統領令は失効しています。こうした入国制限は、難民条約をはじめ国際的な人権・人道法にも反するものです。国連の「グローバル対テロ戦略」(2006年)でも「テロをいかなる宗教、文明、民族グループとも結びつけてはならない」と述べています。トランプ氏は演説でこの問題で、新たな措置を近く講じることを表明しました。ここでも外交的対応の是非が問われます。