2017年2月11日(土)
解説
アップルの税逃れ
各国から利益9割流出 アイルランド子会社に集中
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アイルランドを使ったアップルの税逃れ工作を明るみに出したのは米国上院常設調査委員会の公聴会(2013年5月)でした。しかし税収を失っているのはどの国かという肝心の点は十分に究明されてきませんでした。
今回、本紙の試算で明瞭になったのがこの点です。米国企業アップルは、米国での販売利益をアイルランドに移転しているのではありません。外国での販売利益を移し、外国での税負担率を激減させているのです。
同委員会の調べでは、アップルは11年度に諸外国(米国とアイルランド以外)で20億ドルを税引き前利益として計上し、6億ドルを納税しました。税負担率は平均30%でした。
ところがアイルランドには諸外国の11倍もの税引き前利益(220億ドル)が集中し、この利益は課税を免れました。こうしてアイルランドを含む外国全体での税負担率は2・5%に低迷しました。
このときアイルランドにはアップルの顧客が1%しかおらず、諸外国に顧客の60%がいました。
仮に200億ドル前後の利益がアイルランドに流出せず、諸外国が平均30%の税率で課税したとすれば、はるかに多くの税収が生じたはずです。諸外国はそれを失ったのです。
200億ドル喪失
同委員会の調査結果をアップルの年次報告書の数字(本紙が調整計算)と突き合わせると、諸外国が200億ドル前後の税源を失ったことを確認できます。
11年度にアップルグループ全体が得た営業利益のうち、少なくとも225億ドルが欧州、中国、日本などの各国での販売によって発生したのです(うち21億ドルが日本)。ところが、諸外国の子会社が得た税引き前利益は、わずか20億ドル(日本1億5千万ドル)でした。諸外国から91%(日本から92%)以上の利益が、アイルランドに流出した計算です。
15年度には、日本での販売によってアップルグループは67億ドル(1ドル=110円で約7370億円)もの営業利益を得ました。この利益も同様にアイルランドに移されたとすれば、日本は2000億円前後の税収を失った計算になります。
製品価格を操作
同委員会の報告書によれば、アイルランドに利益を移す方法は製品価格の操作です。アイルランドから他国に製品を売るグループ内取引で価格を高く設定し、アイルランドの子会社が利益の大部分をとるのです。
同委員会が提起したのは、全世界所得課税という米国税制の原則に照らせば、アップルの海外利益も米国で課税されるべきだという論点でした。しかしその前に、企業は製品販売という実質的な経済活動を行って利益をあげた国で、きちんと課税されなければなりません。これは現在、国際的合意が形成されている税逃れ(BEPS)対策の基本原則です。
すでに、日本でのアップルの税逃れの一端があらわになっています。アップルの子会社アイチューンズが東京国税局から約120億円(14年までの2年分)を追徴課税されたと報じられたのです(16年9月16日)。同社の利益もやはりアイルランドに移されているといいます。
しかし音楽・映像のインターネット配信サービスを提供する同社の税逃れは氷山の一角です。主力商品アイフォーンなどを売るアップル・ジャパンへの課税状況の詳細は依然として不明です。アップルが各国子会社の利益や納税額を公表していないためです。
税の公正のためには多国籍企業の子会社情報の公開が欠かせません。BEPS対策の一環として、子会社情報を記載した国別報告書を税務当局に提出する措置が決まっていますが、その一般公開に安倍晋三政権は反対しています。
情報の一般公開を実現して税逃れを根絶しなければ、税制への信頼は回復しません。
(杉本恒如)